第66話 責任
青く強張った顔をして1階へ下りて来る天空のメンバーに、居合わせた探索者は目を丸くした。
ゲートを通ると、そのままロビーの端に寄り、深呼吸する。
「大丈夫ですか?いつもこんな感じなんですか?」
聞くと、涙目で天空メンバーは反論した。
「そんなわけあるか!斬って転がしておしまいだ!」
「ううん?魔石は?」
「ゾンビなんて練習のための動く人形だろう!?」
「元は誰かの御遺体じゃないんですか?最低の敬意は払うべきでしょう。それもできずにここのダンジョンには来るべきじゃないんじゃないですか、お坊ちゃま?」
言うと、天空のメンバー全員に睨まれた。朝のやり取りが知られているようだ。
「お前、意外と根に持つタイプだったよな、そう言えば」
幹彦がぼそりと言う。
「そんな事は無いよ。いつまでも覚えているし、今後の対応は変わっても、根には持たないよ」
「持ってる、それ、持ってるから」
幹彦は言って、嘆息した。
「周川。いつもいつも、俺とお前は決勝でぶつかり合っては、ライバルと言われて来た。成績では互角、どちらが上か決着はつかなかった。
お前は師範を許されたが、流派が違うし、お前の師は身内だ。比べる事はできない。
お前に探索者になるのは先を越されたが、俺は毎日真剣に修練をしている。
なあ。決着をつけるべき時が、来たと思わないか。今はどっちが強いか」
斎賀がそう言って口の端に笑みを浮かべ、天空のメンバーが挑戦的な笑みを浮かべて幹彦を見る。
対して幹彦は、詰まらなさそうに言った。
「お前ら天空の話は色々聞いたぞ。斎賀、お前がやらせている事か?」
それに斎賀は怪訝な顔をした。
「何の事だ?ゾンビの魔石を取ってない事か?」
「違う──けど、それもある。これじゃあゾンビは減ってないから、いくらガイコツの魔石は抜いていても、氾濫を起こしかねないんじゃないのか?」
それに、斎賀達幹部と思われる連中はハッとした表情を浮かべたが、下っ端らしき連中は眉を吊り上げた。
「ゾンビだぞ!?それに、ここに潜る探索者は俺達だけじゃない!」
「そうだ!俺達天空は前へ進むから、ゾンビの始末はあとから楽して来るやつがやりゃあいいだろ」
それに、チビは鼻を鳴らして丸くなり、僕は笑顔を浮べた。
「何言ってるのかな。怖いの?死体が怖いんですか?それでよくここに来てますね?そんな事言ってましたよね、さっき?」
「う、ぐうう!」
幹彦が割って入るように口を開く。
「ああ後は、獲物の割り込みとか、ドロップ品の分配の不公平とか、要領よくできる階の実質独占とか、ボス部屋のほぼ周回占拠とか」
それを聞いて斎賀は疑うような目を仲間に向け、幹部は気まずそうに目を逸らしたり僕や幹彦を睨んだりし、下っ端は噛みついて来る。
「力の無い奴が文句ばっかり言ってるだけだろ!」
それに、ある者は同意するような顔をし、ある者は後ろめたそうな顔をした。
斎賀はそんな皆を見て、愕然としたような顔をしていた。
「お前ら、そんな事をしていたのか」
それに数人が被せるように言った。
「斎賀さんは知らない事だ。斎賀さんの命令ではない」
「そうだ。そんな些細な事は、斎賀さんが命令するまでもない」
それに斎賀は目を泳がせて幹彦を見、幹彦は斎賀を真っすぐに見た。
「それもリーダーの責任だ。
斎賀。リーダーとして、この現状を恥ずかしく思わないのか」
斎賀は唇をかみしめ、下を向いた。それでメンバーは慌て、幹彦に敵意をぶつける。
「お前に関係ないだろうが!?」
「すっこんでろ!」
「斎賀さんは強さを追求すればいいんだよ!」
それに幹彦は、目を鋭くする。
「武道の師範は、ただ強ければいいというわけではないと思っている。お前は強くなる事、誰かに勝つ事には貪欲だったが、それだけだ。それが、お前の師がお前に師範を許さなかった理由じゃないのか。
曲がりなりにもチームのトップなら、部下の行動に責任を持てよ」
下っ端はまだ何か文句を言いかけたが、斎賀が
「黙れ」
と言ってやめさせた。
「迷惑をかけた事は、謝る」
「いや。迷惑は、俺達はたかが今日半日だ」
「……そうだな」
斎賀は硬い表情で俯き加減でいたが、幹部はすっかり意気消沈し、下っ端の半分はわかっていないらしく、こちらを睨みつけている。
「ああ……」
幹彦は困ったように頭を掻き、
「まあ、じゃあな」
と言ったが、斎賀は何も言わず、拳を握りしめていた。
「はあ、腹減ったな。史緒、チビ、飯にしようぜ!何がいい?」
「そうだなあ。焼肉!ネギトロ丼もいいな!」
「……フミオ、なかなかその選択はないぞ」
「いや、何かあれを見たら思い出したんだよ」
「尚更ねえよ」
言いながら、僕達は彼らから離れて行った。
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