第64話 チーム天空
溜め息混じりに腕にケガをした仲間に近寄り、手当を始めると、ケガをした探索者は、泣き出した。
「ごめん。ケガなんかしたから、あいつらに介入の口実を与えちゃって」
「バカ言うな。どうせあいつらは、同じ事をしたんだよ」
さっき答えていた男が怒ったように言う。
僕と幹彦は顔を見合わせ、近付いた。
「大丈夫ですか?腕、折れてませんか?ポーションは?」
大学生らしき彼らは、ハッとしたように僕達の方を見て首を振った。
「ありがとうございます。骨は大丈夫だと思います」
「さっきの、横取り?ちょっと聞こえて」
幹彦が言うと、彼らはどんよりとした顔を俯けた。
「あいつらはよくやるんです。言った、言ってないの水掛け論になるし、そうなったら、あいつら『天空』は大きいし、上は強い探索者ばっかりだし、抗議してもかなわないから」
幹彦は訊き返した。
「天空?」
「ええ。リーダーの斎賀弓弦さんと幹部は同じ剣道場の仲間で、探索者免許取得者の2期生です。特に斎賀さんは強くて、ここのトップです」
「だから大きい顔をしてるんです。例えば一緒に魔物を倒しても、ドロップ品は向こうがいつもいい物を持って行くんです。文句を言ったら『こっちは最前線を張ってるんだから当然だろう。文句があるならトップで攻略しろ』ですからね」
「美味しい場所の独占もするんですよ。この階はガイコツの中で一番強いから、天空の狩場なんです。だから、いい獲物が出たのを見たら、さっきみたいに介入されるんですよ。
あと、ボス部屋も天空が周回してます」
メンバーが怒りを思い出したように言う。
その間に、僕はケガを診た。
「ああ。深くはないけど、傷口はギザギザだな。ポーションでないと痕が残りそうだし、長引きそうですね。ポーション、ありますか?」
それに彼らは、恨みがましい目を天空メンバーの去った方へ向けた。
「今出たんですけど、彼らが持って行きましたよ」
僕と幹彦は肩を竦め、僕のバッグと見せかけた空間収納庫から自作のポーションを出して渡した。
「はい、どうぞ」
それに彼らは驚き、次いで、迷った。
「5万はしますよね?更衣室に戻れば、2万はあるけど……」
「俺1万4千円あるぜ」
「あ、俺1万2千円ちょっと」
「じゃあ、1万円ずつで」
「いや、悪いよ」
「誰がケガしててもおかしくなかったんだ。これは、俺達のケガだ」
そう小声で相談し、どうにか決着した。
気が咎めるな。ほぼゼロ円なのに。
「えっと、これはいいですよ。今回は災難に遭った後輩へのお見舞いで。
でも次からは、余分に持っておいた方がいいですね」
言いながら自作のポーションを渡し、飲んでもらってビンは回収した。
何度も頭を下げて礼を言う彼らに手を振り、幹彦とチビと連れ立って先へと歩き出した。
「なあ、幹彦」
「ああ。これはちょっと、な」
幹彦は表情を引き締めて、低い声で言う。
「黙ってはおけないだろう?」
それで僕達は、斎賀のいる所を目指す事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます