第29話 続く疑惑
パン、コーヒー、サラダ、ウインナーとプレーンオムレツというシンプルな朝食を摂り、僕達はチェックアウトした。
そしてギルドに来ると、チビが踏まれるといけないので抱き上げながら幹彦と並んでどういう依頼があるのかとギルドで依頼票を眺めていた。
「色んな依頼があるんだなあ。何か、簡単そうなお遣いって感じのやつもあるぞ」
「こっち見ろよ、史緒!ドラゴンだってさ!凄えな!」
「ワン」(お前ら、いい加減にしろよぉ)
はしゃぐ僕達の横で同じように依頼票を見ていた冒険者たちが、数人、鼻をヒクヒクとさせて言った。
「何かいい匂いしねえか?」
「何だろう。花?」
「香水か?」
「おいおい。どこの冒険者が香水なんてもん使うってん──本当にする?」
そして、1人、また1人と、僕と幹彦に目を向けて固まる。
「え?何ですか?」
寝癖だろうか。それともシーツの跡がまだ消えてないとか?
そう思ってさり気なく髪を抑えるようにして、気付いた。
昨日の宿のベッドは固く、シーツはごわついていたが、お日様の匂いがして清潔だった。
たぶんこちらでは柔軟剤はないのだろう。
僕のも幹彦のも、洗濯物は最後に柔軟剤を入れて柔らか仕上げをしている。それほど匂いのしないタイプだが、全く匂いのしないこちらの服の中では、目立つかもしれない。
そう思ったところで、エインに肩を叩かれた。
「おはよう!
ん?いい匂いがする?」
動くたびに匂いが立つとかいう柔軟剤だ。叩いた事で匂いが立ったらしい。
「まさか朝から花を浮かべた風呂に入って来たのか。そういう事するのは、貴族か美女だろうに」
エスタが鼻をヒクヒクさせて言う。
「そう言えば服も、随分といい生地だな」
言われてみれば、皆の服よりも、柔らかそうなのにシャキッとしている。柔軟剤って凄いな。
と言っている場合ではない。
「まあ、田舎から出て行くからっていうんで、その、張り切ってみたんだぜ!」
幹彦が言い訳をし、それは苦しいんじゃないかと心配したが、
「なんだ、そうかあ。やっぱり貴族のおぼっちゃんかとおもったぜ」
と笑われ、通じた事に驚きながらも安心した。
「これからか?」
グレイが訊く。
「ああ。まあ、どんな依頼があるのかと思って見てたんだけどな。そろそろ行くか、史緒」
「そうだな。そろそろ行こう、うん」
僕と幹彦は手を振ってギルドを出た。
背後で、
「やっぱりあいつら貴族じゃねえのか?」
「貴族のご落胤とかかも」
と疑惑が再燃しているのは、聞いていないふりをした。
「これは柔軟剤を使うのはやめようぜ。考えたら、魔物にも匂いがしたらまずいかも知れないし」
「ああ。うかつだったな」
言い、ダンジョンへと向かって歩き出した。
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