第30話 二重生活のススメ
ダンジョンそのものは、地球のものと大差はないようだった。
まあ、日本にしろ海外にしろ、地球のダンジョンは入り口をガッチリと武装した人員で警備している上に物理的にも出入りをきっちりと管理しているが、こちらはタグを見せれば出入りできる。
1階は洞窟で、スライムばかりだった。ここにいるのは若い冒険者ばかりで、どうも新人しかいないようだ。
2階に行くとそこも洞窟ではあったが、イヌやウサギとすぐに会敵した。
「ここらから行こうぜ、史緒!」
「わかった!」
幹彦は張り切って飛び掛かって行った。
地下室から家に戻り、片付けをするのももどかしく風呂に入った。
そしてさっぱりすると、一緒にリビングで取り敢えずビールで乾杯する。
「ああ、やっぱり風呂はいいなあ」
拭くだけとか嫌だし、共同浴場をちょっと鑑定したら、菌が繁殖していた。あそこに入るのも嫌だ。かと言って、風呂を借りるとバカ高いし、たらいじゃ行水でしかない。
「風呂もだけど、ベッドもなあ」
幹彦が首をコキコキとしながら言う。
ベッドは固く、掛け布団は重く、敷布団はチクチクとした。
「向こうもいいんだけど、生活するにはちょっと、アレだな」
「だなあ」
すると大きな姿に戻ったチビは伸びをして笑う。
「こちらが快適すぎるのだと私は思うがね」
「まあ、一昔か二昔前は、ああいうのが普通だったんじゃないかとも思うけど」
幹彦は言って、ビールをグイッとあおった。
「通勤する?地下室とあの胎内回帰みたいな所を使って」
「毎日教会のアレで厄除けする信心深いヤツって言われるぞ」
想像して、一緒に吹き出した。
「いっそ向こうで家でも買えばどうだ?そこに精霊樹の枝を植えればいい」
チビが言うのを、お互いに想像してみる。
「いいな、それ!」
「おう!それでこっちとの行き来も自由だし!」
「じゃあ、不動産屋をまわろう、幹彦!」
「おう!
風呂は欲しいけど、いざとなればここに戻れば済むしな」
「トイレもそうだけど、これはいるかな。もし誰かが来たら、変だと思われる」
「だな。カモフラージュの為だけど、別荘みたいな?」
「いいな、それ。隠居屋敷だ」
僕達はウキウキとして、とにかく向こうの世界の生活のために、分かった事を整理する事にした。
今日、ダンジョンで得た魔石やドロップ品にこちらの地下室の魔石を加えて売った売上金を並べる。
「貨幣の種類はこれだけみたいだな」
一番下が白い硝貨で10円ほど。次は茶色い銅貨で100円ほど。それから銀色の銀貨で1000円ほど。金色の金貨で1万円ほど。その次は金貨の縁を水晶が縁取った水晶貨で、10万円。その上からは板貨と呼ばれる金属板で、100万円、1000万円があるそうで、刻印が不正に変えられないように魔術処理を施してあるそうだ。
流石にこの板貨はここにはない。
「食べ物や宿の宿泊料金はあまりこっちと変わらないみたいだけど、服は高かったな」
それには深く同意した。
こちらのように工場での大量生産がないため、服は手縫いのオートクチュールだ。当然高くなる。
なので、貴族は違うらしいが、庶民はサイズが合わなくなればそれを古着屋に売り、そこで新しい中古品を買うのが普通らしい。もしくは、生地を買って来て自分で仕立てるか。
靴も、庶民は店で履いてみてサイズ的に近いものを選ぶようだ。ただし、貴族と、足元が大事な騎士や兵士や冒険者は、誂えるそうだ。
「向こう用の服が欲しいな」
言うと、幹彦も頷く。
「通気性とか耐久性とか伸縮性とかは大事だし、魔物由来の物って言えば誤魔化せそうだから、仕事用はこっちのものでいいけどな」
「うん。あと、柔軟剤は向こうの服には使わないようにしよう」
チビは膝に頭を乗せて服にスリスリと頭を擦りつけて残念そうに言う。
「肌触りがよくていい匂いがするから私は好きなんだがなあ」
「こっちの普段着はこのままだから、チビ」
僕と幹彦は、チビのフワフワの毛を存分にかき回した。
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