第14話 ある腐女子「ミキ×フミを見守る会」

 探索者免許講習会。集まった多くは、予想通りに若い人がほとんどだった。その中でも、陽キャと言われるような人たちが多く、大人しいタイプが少ない。まるで学校と一緒だ。

 異彩を放っているのは猟師のおじさん達。年配者が多く、ちょっと話すきっかけもない。

 次に多いのが中年。「リストラされたか倒産したかだろう」「負け組ってやつでしょ」と陽キャの人達は見下しているが、確かに、学科も実技も必死さが凄い。そしてどちらにも苦労しているようだ。

 私は、大人しい女子達と一緒になっている。大人しくて真面目。それともうひとつ、同じ趣味の匂いをかぎ取っていた。

 そう、「腐」の匂いである。

 その私達のアンテナに引っかかり、オアシスとなっているコンビがいた。周川さんと麻生さんという20代後半の男性2人だ。

 周川さんは爽やかで明るく、誰もがイケメンと呼ぶに反対しないであろう顔立ちをしている。武器ごとの訓練では講師を圧倒できるほどの腕を持ち、女子が放っておかないタイプだ。

 麻生さんは整った顔立ちの優しい感じの物静かな人だ。頭が良さそうだが、意外と薙刀も強いのは少し意外な気がした。

 どちらもモテるのは必至だったし、やはり、アプローチをかける女子はいた。

 しかしこの2人はそれらに素っ気なかった。年齢的なものかも知れないと思いもしたが、私達の勘──いや、願望が告げていた。彼らはBLなコンビではないかと。

 そういう目で観察してみれば、女性に対し、挨拶はしても、一定以上の関係は避けているようだ。そして2人は武器別の訓練以外は大抵一緒で、行きも帰りすらも一緒だ。上手く聞き込んだ結果、一緒に住んでいる幼馴染という事だった。

 なんと美味しい関係だろう!私達は興奮した。

「周川さんが俺様攻めに違いない」

「いや、甘えて押し倒すのもあり」

「麻生さんは誘い受けかしら」

「かも。でも、恥ずかしながら強気にってのもいい!」

「麻生さんは姫ね。ゴブとかに襲われたりして、それを周川さんが助ける!」

「触手もあり!」

「きゃああ、イヤン!」

 などと本人達には決して聞かせられない妄想に燃え上がり、議論をしたが、周川さんと麻生さんの立場は全員一致し、「ミキ×フミ」と密かに呼んで、心のオアシスとして毎日見守っていたのだった。


 そんな私達も、どうにか揃ってダンジョン実習を迎えた。

 流石に緊張の連続で、今日ばかりは「ミキ×フミ」を見守る余裕もない。

 いつの間にかグループ実習では見失い、私達も必死になってゴブリンやほかの魔物をタコ殴りにし、切り付け、どうにかこうにか、解体を行う入り口付近に戻った。

 ダンジョンの中では、死んだ有機物は時間を置くと消えてしまう。例外は、一定範囲の距離に生きているものがいる時だ。

 なので、素早く解体するか、外に運び出してから解体するかという事になるらしい。

 今回は外の講習会場で揃って解体の実習を行うのだ。嫌だ。自信が無いし、何か怖い。

 講師役の自衛官は、無表情でさっと開いて、魔石を取り出した。

「今日はするけど、たぶん無理」

「私も。解体は有料でも頼むかも」

 言い合い、ふと、習慣通りに「ミキ×フミ」を探した。

 ミキこと周川さんは、若干顔色が悪い。そして倒れてしまうんじゃないかと心配していたフミこと麻生さんは、淡々と──いや、嬉々として作業していた。

「え?」

 我が目を疑う気持ちで、注目してしまう。

 流れるような手さばきで、一切の躊躇も無駄もなく、素早く淡々と丁寧に進められて行く。

 いつの間にか、全ての目が「ミキ×フミ」の作業台に集中していた。

 無骨なハサミで肋骨を切り取り、心臓を手にしてしげしげと眺め、それを裂いて魔石を取り出す。そしてまた、心臓を縫い合わせ、肋骨を戻し、皮膚を縫い合わせる。

 何人かは貧血に倒れたり、吐きに行ったが、それは芸術的ともいえる手際だった。

「ヤバイ。血塗れな姫だった?」

 誰かが呟く。

 そして、我に返ったような自衛官が代表するかのように訊いた。

「随分と手慣れていますね」

 それに対し、答える。

「解剖医をしていましたので」

 なるほど。

 そして翌日から、妄想中のか弱い守るべき姫の立場だった麻生さんは、ブラッディクイーンと名を変えた。





 

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