第8話 探索者免許

 幹彦は機嫌よく竹刀の素振りをし、僕はそれを時々見ながら新聞を読んでいた。ダンジョン関連の発表についての記事だ。

 ダンジョン庁ができ、初代大臣は、マンガが好きと公言しているダンディーな70代の議員らしい。

 もしダンジョンができているのを見付けたら、安全のために通報する事となっているが、罰則はない。単なる小さな穴にしか見えない場合や、滅多に行かない場所にある場合や、地権者がはっきりしない場合などがあるかららしい。

 ダンジョンへは免許を取った一般人が入り、魔物を討伐したり、植物や鉱石を採取することができるが、一旦それらは国に報告しなければならず、魔石だけは必ず国が買い取る。魔石は取扱次第で危険ともなるため、違反した場合は厳罰となる。

 私有地にダンジョンができた場合、それを私有化することは可能だが、その場合、魔物が溢れ出ないようになどの安全管理義務が生じる。

 探索者の探索中のケガや死亡は個人責任であり、管理者に責任を求める事は出来ない。

 大まかにはそんなところだった。

 僕は新聞を畳んで、息をついた。

 貸しビルもマンションも、メンテナンス費用はいるし、いつも満室とは限らないし、実はそこまで楽天的にしていられるものではない。それでも隠居をと言い張っていたのは、婚約破棄騒動のせいだ。

 恥ずかしながら、彼女の件で女性が苦手になった。いや、人間不信に近い。子供の頃から仲のいい幹彦は平気だが、ほかの皆は本心では何を考えているのだろうとか思ってしまい、誰かと一緒に働くのが苦痛になった。

 こんな時自宅で働ける仕事ならばよかったが、解剖医だとそうは行かない。

 なので隠居して、細々と家庭菜園でもしながら生きて行こうと考えたのだ。チビもジビエを獲って来てくれるし。ビルやマンションのメンテナンス費用は、家賃収入でどうにかできればそれでいい。

 幹彦は日課の素振りを終え、ふうと息をついた。

 チビは解体して出たシカの角に噛みついて遊んでいる。

 まあ、他のやつとなら嫌だが、幹彦とチビとなら、安全な仕事だったらしてもいい気がする。

「幹彦。免許、取りに行ってもいいぞ。たまに薬草を採ったりチビが獲って来るジビエを、その内一緒に獲りに行ったりして楽しんだりする隠居生活も優雅そうでいいからな」

「よし!」

 こうして僕と幹彦は、探索者免許講習に申し込む事になった。


 書類審査の後、心理検査と面接審査を受け、危険人物が弾かれた。

 年齢は18歳以上で上限はない。それでも、集まったのは圧倒的に若い者が多い。少数中年が混ざっている程度だが、そのうちのいくらかは、現役の猟師らしい。

 学科と実技、ダンジョンを使っての研修から成り、期間は3か月ほど。

「学生時代を思い出すな!」

 幹彦は机に頬杖をついてにこにことしながら言った。

「雰囲気的には、自動車教習所が近いかな?」

 僕は教室内を見回して言う。

「せいぜい、仮免テストに落ちないようにしようぜ」

 幹彦が笑った時、ドアが開いて講師らしき人物が現れた。

 なんにせよ、快適で楽しい隠居生活のためである。





 




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