第7話 重大発表

 チビが獲って来たウサギと家庭菜園の野菜を中心にした食事をした後、チビがゴムボールで遊ぶのを見ながら、僕と幹彦は色んな話をしていた。

 高校までは同じ学校へ通っていたが、それからは自然と顔を合わせる機会も減り、話す事も無くなっていた。それでもお互いに気兼ねなく付き合える仲のいい友人で、どちらも女性が元で退職したようなものでもあり、気詰まりさなどはみじんもない。

「それはそうと、ニュース見ただろ?ダンジョンについての重大発表っていうのがあるとか」

 幹彦が思い出したように言った。

「ああ、あれ。そもそもダンジョンなんてフィクションの産物だと思ってたのになあ」

 僕が首を傾けると、幹彦は目を輝かせた。昔からこういう種類のマンガとか、幹彦は好きだったからな。

「警察とか軍隊とかが入ったらしいけど、発表されている限りだと、マンガと同じで、中は洞窟とか平原とかいろいろらしい。魔物もいるらしいしな。動物を凶暴にしたようなやつで、角が生えてたりしてるんだってさ。あと、スライムとか」

「へえ」

「まあ、どれもほんの入り口だけだから、奥にはそれこそ、ゴブリンとかオークとかドラゴンだっているかもしれない」

 想像してみる──が、うまくいかない。スライムはイラストを見た事があるので知っている。ボールみたいなやつだった。

「ふうん。まあ、危なそうだし、近寄らないに限るな」

「どうせ封鎖されてて、一般人は入れないしな。

 でも、新しくできるかもしれないからな。それに巻き込まれる事もあるぞ。現にダンジョンの生成に巻き込まれて行方不明になっている人は、世界中でそこそこいるらしいし」

 それを聞いて、眉を寄せる。

「それは災難だったな。気を付けようがなさそうだもんな」

 ダンジョンの入り口は突然現れるそうだ。

 幹彦は目を輝かせて言う。

「ちょっと興味はあるなあ。できるなら、魔物とも戦ってみたい」

「危ないぞ、幹彦?」

「暇だし」

「暇なら一緒に隠居してようよ」

「この暮らしは楽しいけど、このままってのもなあ。

 それに俺はマンション収入とかないし、いずれは生活費を稼がないといけない。せいぜい骨休みして、また働かないとな」

 残念な気持ちと心配な気持ちでシュンとなったが、気を取り直して話題を変えた。

「そうだ。それで、重大発表って何だろう」

 幹彦は考えながら言う。

「それこそマンガみたいに、冒険者なんてやつができたりしてな」

 僕は首を傾けた。

「危険なんだろう?現実じゃ、誰もそんな事しないよ」

「そうか?夢も希望もロマンもあるじゃねえか」

「安心安全、隠居がいいよ」

 幹彦は呆れたように笑った。

「史緒らしいと言えばらしいけど、この年で老け込んでどうするんだよ。

 もしそうなったら、一緒にやらねえか?俺とお前とチビと」

 僕はその冗談にクスリと笑った。

「たしかにそれは楽しそうだな。毎日ジビエ三昧」

「今と一緒じゃねえか」

 それで僕達は吹き出して笑い合った。


 淡々と、首相がマイクの前で喋っている。

『これまで各国が調査し、それを照らし合わせて、結論を出しました。

 ええ、ダンジョンの魔物は危険ではありますが、基本的には外に出て来ません。

 ただし、手を付けずに放っておくと、魔物が増えるのが原因か、外に溢れ出し、人を襲う事が確認されています。なので、ダンジョン内に入って、魔物を、ああ、討伐する事が必要となります。

 次に魔物が体内で生成し、死後残す事がある魔石と呼ばれるものについてですが、安全でクリーンな発電が可能という実験結果がでております。今後の電力源として、期待しております。

 ええ、つきましては、ダンジョンは現在、一般人の立ち入りを禁止して研究、調査にのみ立ち入りを許可しておりますが、今後は探索者、冒険者という免許を持つ人間に立ち入りを許可し、討伐をお願いすることになりました。

 入手したものには報告義務を課し、魔石は全て政府が買い上げる事とし、それ以外の所持または売買は違法とし、厳罰を処します。

 ただし、魔石以外のものについては、報告後、売るも持ち帰るも自由とします』

 記者のざわめきが大きくなる。

『おほん。このダンジョン関連の全てをとりしきる省庁として、新たにダンジョン庁を発足し、運営する事と決まりました』

 僕と幹彦はテレビの前でコーヒーを飲んでいたが、その発表内容に、幹彦は両手を上に突き上げて喜んだ。






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