13.「ルトガー様のご紹介でしたら安心です。」

王都の侯爵邸では、藤の花が見頃だった。華やかで甘い香りが訪問者を包み込む。

この日の来客は、当主の婚約破棄が認められたと話を聞いてやってきたルトガー・バルシュミーデ公爵令息。

テラスに用意された席で、シュテファニとルトガーは向かい合い、用意されたお茶を一口飲んだ。



「婚約破棄おめでとう。」


「おめで、たいのでしょうか……?」


「違ったか?」


「いえ。バーデン令息と別れられたのはよかったです。あんな……気持ち悪い人だとは思いませんでした。」


「気持ち悪い?」


「ええ……。」



浮気してたという話は聞いたが、気持ち悪いとは? と、気にはなったが、あまり口にしたくない様子なので、シュテファニから直接聞くことはしなかった。



「ああそれと、新しい結婚相手のことだが、今いろいろと準備しているので少し待っていてほしい。」


「まあ、ありがとうございます。良かったですわ。総務省の人事院に結婚相手になりそうな人がいないか聞いていたのですが、何か問題があるようでアイブリンガーには情報を出せないと言われてしまって……。」


「そうだったのか。」


「ええ。ですので今日確認に出向こうかと思っていたところです。」


「そうか。間に合ってよかった。あなたが行く必要はない。相手は私が用意するから。」


「ルトガー様のご紹介でしたら安心です。ありがとうございます。」



しれっと何食わぬ顔で話しているが、アイブリンガー家に結婚可能な貴族のリストを回さないよう指示したのは、他ならぬこの男だった。



自身は公爵家の跡取りという立場にあって婚約者もいることから、簡単には身動きが取れない。しかし、シュテファニが独り身となったこのチャンスを逃すわけにはいかないと、現在いろいろ手を回しているところだった。


ルトガーは、家督は優秀な次男に譲り、地位と金と名誉にしか興味がないがとにかく家柄が良い婚約者も押し付け、侯爵家に婿入りするため身軽になる用意を始めようというところだ。


その間に新たに婚約者を据えられてはかなわないと、先にそちらにいろいろ手を回していた。



「ではまた、進捗があったら知らせよう。」


「お願いいたしますね。」



しばらくティータイムを楽しんだのちに解散となった。その時、ルトガーはシュテファニの背後に控えるザビに目をやって、視線が合ったところで顎を外に振り二人で話がしたい意を示した。ザビは嫌な顔をしていた。



シュテファニに見送られ、ルトガーはアイブリンガー邸の門を出ると、少し離れ見えない位置に馬車を停めてザビを待った。



「ルトガー様、いらっしゃいました。」


「ああ。通してくれ。」



侍従がルトガーに声をかけ、許可を得たのちザビを馬車内へ通した。



「こういうの困るんですけど。」


「すまないね。聞きたいことがあって。」


「なんですか。」


「バーデン令息のこと。」


「ああ……。」



先ほどの、シュテファニの顔色を見て不自然なところで話を切っていたルトガーを思い出し、あれのことかな、とアタリをつけたザビ。


話さなきゃいけないのか? と、思い出したくないものを思い出し身震いした。







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