第14話 追憶(4)

 自分の生活の記録を取る。

 不思議なことに、それだけで以前より地に足がついた心地になった。


 マティアスはレイモン神官の勧めで、日々の生活の記録を残すことにした。記録を調べるより先に、まずは体調の改善を図る必要がある。

 レイモンの推奨する日課を実践しながら、朝晩欠かさず自室の机に向かった。


 朝はパンとスープを食べて牛乳を飲む。その時マティアスは、給仕に勧められても最初の皿より多く食べたいとは思わない。昼はもっと食欲があり、午後の講義の後はとても空腹で、早く夕飯にありつきたいと思いながら帰路を歩く。

 何を食べたか、どんな服を着て、どの靴を選んで履いたか。何時に寝て、何時に起きたか。暑かったか寒かったか。気分はどうだったか。何をしたいと考え、何を嫌だと思ったか。


 毎日同じような生活をしていると思っていたが、記録を取ってみると日々には必ず変化があった。


 寝起きは体が重く、喉が乾いて痛いものだが、あまり気にならない日もあれば、寝台から出たくないと思うほどひどい日もあり、そこに周期的な規則性は見当たらなかった。


「周期的な体調変化は、男性にはあまりないからね。女性は月の影響を受けやすく、決め事のように体調変化があるのだけど」

「なるほど」


 講義のあと、レイモン神官の研究室に立ち寄るのも恒例になった。マティアスが書き溜めた生活の記録をもとに指摘をもらう。

 レイモンの講義は三日か四日おきにあり、記録の精査をするにはちょうどいい期間だった。


「君の場合、朝の体調を測るなら、その前日の体調と見比べてみるといい。単純に疲労が溜まっていないか、睡眠は十分か。前夜の宴席で食べ過ぎ飲み過ぎがなかったか」

「はい」


 レイモンの言葉を余さず書き取ろうと、マティアスは必死に手を動かす。


「顔色が良くなってきたね」

「そんなに違いますか?」

「そりゃあ、顔色を見るのが仕事だからね。肌の色はもちろん、瞼の腫れ、目の充血、唇の色や乾き具合、口臭などでも違いが分かる」

「医師とはそういうものですか」


 マティアスは自分の顔に手を当ててみた。目の下や唇に触れて確認しているうちに、レイモンは別の話を始めた。マティアスは自分の唇をいじりながら、ペンを持ち直してメモを取る。

 オディロンもよく、マティアスの顔色が悪いと言って心配していた。それがこのところは減ったのではないだろうか。















































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