第8話



 次の日、コミネは朝早く起きて散歩に出る。

何故かぺペンギンも一緒に散歩に出ている。

その為、コミネは小さなバックパックを背負っている。


「ぺペンギンさん、リュックを焼かないようにしてくださいね」


「安心し、ワイ、昔、消防士やっててん」


 背負ったバックパックからは煙草の煙が漏れている。

人通りが少ないどころか、ほとんど人とすれ違わない道、コミネも煙草を燻らせている。

要するに一人と一匹は煙草を燻らせるために外へ出ただけ。


「私の部屋は禁煙室でしたが、ぺペンギンさんのお部屋もそうだったのですね」


「ちゃうよ、ワイはメグちゃんと同居してるだけやさかい。シェルターもその部屋に置きっぱや」


「では、禁煙室ではなく、子供部屋っていうことですか」


「せやで」


「だったら窓を開けて、外に向かって煙を吐くとかできないのでしょうか」


「アホか、なんで幼児が居てる部屋で煙草吸わなあかんねん、ワイかってそれぐらいの事は分かってるし我慢もできるよ。やっぱさ、やったらあかん所で我慢できひんようやったら、さっさと完全にやめるべきやろ?」


「・・・・・・・・。」


 暫く歩くと、コミネはもう一本煙草を取り出し火を付ける。


「あのね、酒をやめたんは偉いと思うで、でもお前、1日何本煙草吸うようになった?」


「確かに、ある時期から増えましたね」


「せやろなぁ、ある時期・・・、か」


「・・・・・・・・。」


「でさぁ、何んかあるたんにびに煙草咥えて、そのある時期の何んかってお前の頭から離れへん少女のことちゃうんか?」


「・・・・・・・・。」


「そらぁ、他にも抱えてるんも多いと思うで、でもワイが、お前の頭の隅っこで暮らしてる少女の事を知らんとでも思てんのか?」


「どういうことですか」


「ちょっとだけでええから聞いてくれへん? ワイは煙草をやめろって言うてるんやない、煙草を吸わなあかんような原因を排除せなあかん、て言うてるんでもないねん。お前自身のことを言うてんねんな」


「ほう、それで?」


「それはな、お前の頭の中で暮らしてる少女を受け入れられへんお前の許容量のことを言うてんねんやんか」


「なるほど」


「その少女の事を思うのはええねん、せやけどお前はその少女につぶされそうになってるんやないか? それはその出来事の大きさや量やないねん。お前自身が受け入れるだけの器を持ってないから潰されそうになってるだけやねん、な。今は無理かもしらんねんで、せやけどな、急いでとは言わんけど、いつかはその少女を受け入れたほうが、事実を受け入れたほうがええんちゃう? そん為にはお前自身が大きな器を作っていけるように成長せなあかんと思うねんやんか。その上でお前がどうやって生きて行くかが大切なんちゃうんかな? 悲しい事実も、苦しい過去も、全て受け入れる、それを許容量ていうんとちゃうんか?」


「・・・・・・・・。」


「何黙ってるの? なぁ? おい? ・・・。こらぁ! いつまで世界の不幸を一人で背負ったような顔しとんのじゃ、このボケ学者が」


「え?」


「ええか、よう聞いとけよボケナス、お前自身が前を向いて歩き出した時、その少女はやっと別の所へと去って行くことができるんじゃ。お前自身がお前自身の道を見つけた時に、やっとその少女は別の新しい場所に辿たどり着けるんじゃ、それを妨げとるんはお前やないかい。お前自身が、その少女の新しい旅立ちを妨げとるんやないかい。お前自身が歩いてるその道に、その少女をいつまで付き合わせるつもりなんじゃい。分かったら、自分の道を、とっととその道をまっすぐ歩いて行ったらんかい!」


「この道ですか? まっすぐ行くと抜海駅ですけど?」


「なぁ、アホかお前? お前の心の中で作らなあかん新しい道のことを言うてるの分からへん? 誰が現実にある道のこと言うてんの? なぁコミネ君? その無人駅から銀河鉄道にでも乗って宇宙の果てまで行き去らせましたらいかがでしょうか? このドアホが!」

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