宵闇の怪文書

USHIかく

宵闇の怪文書

 ――宵闇。雨模様。迷子。

 糸魚川の地を踏み外し、熱い目頭はうつつを抜かした錯覚。労働は悪の文化だ。

 心はとうに壊れた。金がなければ生きられない。生きられなくていい。そう思うも、迷いし仔羊は虚構に逃げるため、赤子のように親に喚くも叶わず、金に生きる退廃した組織の奸計に負け、注ぎ込むは心身の不調にも違わぬ取り繕った己への謗りだ。何もなきものを喰わんとする姿は兀鷹と言わずして何と言おう。なぞと責め立てようと、残るは自責の念でしかない。

 空模様は鈍い。曇りの空には、暗黒の中に泳ぐ雲が見える。暗澹に嗜虐が揺蕩うと言わばまさに私を指しているのだろう。どこで道を踏み外したかなど解らん。空模様の如く変わりに変わる。目を閉じ、息を吸い、瞳を開けては迷った路頭に息を呑んだ。

 張り付いた笑顔も戯けと嘲られる他ない、そうに違いない。

コンビニの前のベンチでで延々と過去の己に講釈を垂れるのは死に待ちの負け男だ。孤独が唯一の友達と自虐するも、締め付ける心はペンキで塗った魂を錆びた小刀で抉らんとして。愉快を言い聞かせて耐え忍ぶことにも麻痺した意には届かない。些か望外な結果にも踊る心も在らず、しかば夢も無くし己も無くし、社会に馴染む意志すらも失って国民の義務にで快楽をせびる。

 麦酒も摘みも、肉も菓子も不味い。命が不味かろう。過労でもない。住処はある。住処が闇の産み所だ。絶望を産むのだ。笑けろう。面白かろう。


「――お兄さん、独りでぶつぶつ何言ってるんですか?」

 尋ねてくるのは美人なお姉さん……いや、私の方がとっくに歳上だ。餓鬼気分もいつまで引きずろう。


「――私が殺してあげましょうか? ふふ」


 目が覚めた。覚まされたのかもしれない。

 空は真っ青だ。朝、いや昼か。雲一つない美しい天気。ここが天国か。地獄こそ美しいのかもしれぬ。

 誰もない。目の前のコンビニにも、人っこ一人いない。

笑けろう。面白かろう。

 目指した物も、好んだ世界も失った。残るは独り身の涙だ。嘲った者に嘲られ、気付けば天地ほど価値の差がある。お姉さんはそこも見透かしたのか。

 何を言っているのだ。これも薬のせいなのか。苦しかろうと、ヤクに手を出すは終焉を意味する。

 終焉に相応しかろうと思ったか。そうだろう、そうだろう。何か努力を口から発せられれば、身を呈す覚悟もまた生まれたのかもしれん。

 灰の彩りは肺を埋め、逆撫でした鰓は水で埋まる。既に埋まった。


 目が覚めた。

 閑散としたコンビニ前、独り。ベンチに横たわる。暁も迎えず、深夜の月の元には電車もない。どう帰ろうと悩み腹を見る。手にした労働証明の側には、缶コーヒーがひとつ。温かい。そして、十一つの数字の羅列。お姉さんの電話番号だろうか。お姉さんも幻覚だろうか。雲は消えた。また現れた。三日月に見惚れる。私に狂う。

 ――宵闇。雨模様。迷子。

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