第18話 報酬が呼び寄せたモノ
第二中央防衛線に築かれた要塞が、魔族の襲撃を受けてから5日。その間に第二中央防衛要塞は新たな戦力の補充を行うと同時に、防衛部隊の再編制が行われた。
先の戦でほとんどの戦力を失った砦の先遣と先行を担当する役割を持たされた傭兵部隊は、新たな傭兵の指揮官と兵を補充したのだ。
そして先の戦で生き残ったベーオウルフ含む僅かな残存兵力も、新たな指揮官の下に組み込まれる事となった。
こうしてこの砦に配備された新たな傭兵部隊は、総勢800名の部隊となり、第二中央防衛線の傭兵部隊は以前より多くの戦力を持つ事となる。
そして戦力の補充と部隊の再編を行って戦力の増強を図ったのは傭兵部隊だけではなく、ローザリア王国の正規軍であるローザリア騎士団も同様に戦力の増強していた。
先の戦で援軍として参加したアレッサンドロ大尉の率いる正規軍であるローザリア王国騎士団4第中隊に所属していた100名の援軍も、そのまま第二中央防衛線の防衛部隊に組み込まれる事となり、更に以前の戦で失った兵士以上の兵力が補充された事で、この要塞の戦力は以前より多くの戦力を保有する事となった
こうして第二中央防衛要塞の保有戦力は、総勢2000名の兵力を有する防衛部隊として強化再編される。
新たに再編された傭兵部隊においてベーオウルフは、先に散った戦友たちの分も生き、戦友達の事を語り継げという教えを胸に秘めながら、今日も来たる次の戦に備えて訓練に励んでいた。
すると一人の男から
「よう、有名人。ちょっと手合せ願うぜ?」
先の戦での功績を認められ戸籍を得るに至ったベーオウルフは、傭兵部隊の注目の的となっていた。
そして今日も訓練中に、傭兵部隊最注目の的であるベーオウルフに模擬戦を挑んで来る者が現れるが、ここ最近のベーオウルフと傭兵部隊の日常であった。
ベーオウルフは模擬戦の申し出に対して黙って頷く事で了承の意を示すと、互いに訓練用の木剣を構える。
”カン!、カン!!”っと激しく木剣同士が打ち合う音が鳴り響き、音だけを聞けば模擬戦は序盤から強烈な一撃が飛び交う模擬戦のように聞こえる。
そしてそのまましばらく激しい木剣の音が鳴り響いた後、”カッーン!”っと一際大きな音が鳴り響く。
そして”カラカラー”っと弾かれた木剣が地面に転がる音が聞こえた。どうやら先の模擬戦の決着がついたようだ。
剣を弾き飛ばされた男は地に尻を付け、相手の剣を弾き飛ばした男は堂々と地に尻を付けた男に木剣を向け、敗者に向けて何かを大声で訴える。
「おいおい、有名人のベーオウルフさんよう。お前ホントにそんな腕でサイクロプスを追い詰めたっていうのか?
”俺”如きの剣もマトモに受けきれないっていうのに、サイクロプスの猛攻をしのいだなんてくだらない冗談はよせよ。
コイツは忠告だ!そんな腕でまた戦場に立つつもりなら、死ぬ前にさっさと元居た場所にでも逃げ帰った方がいんじゃないのか?!」
ベーオウルフの木剣を弾き飛ばして勝利を収めたエルフの男は、期待外れだった相手の実力にガッカリしたような仕草をした後、ベーオウルフに対して罵倒交じりの忠告ともとれる言葉を残してベーオウルフの前から立ち去った。
模擬戦に敗れたベーオウルフは、立ち去る相手を直視する事も言われた事に対して何も言い返す事も出来ずに黙ってその場で蹲っていた。
しばらくベーオウルフは蹲っていたがそれから少し時間を置いた後、地べたに付けていた尻を上げ、ベーオウルフは顔を下に向けたまま立ち上がると、無言で弾き飛ばされた木剣の方向に歩き出して木剣を拾いに動き出す。
だが先程のエルフの男にコテンパンにやられた挙句、好き勝手言われた事はやはり気に食わなかったようで、表に顔を上げず下に向けているベーオウルフ表情は相当悔しそうな表情を浮かべていた。
(クソ…またかよ)
現在ベーオウルフの心は、挑まれた模擬戦で一度も勝てない自分の実力の低さと、自分の実力を未だに示す事が出来ない苛立ち。そして自分を打ち負かした相手からの罵倒に対して敗者である以上何も言い返せない悔しさで溢れていた。
ベーオウルフは以前の戦で、サイクロプスに食らい付き続けた結果。サイクロプスを大きく消耗させ初陣でありながらベーオウルフという戸籍を得た事は、瞬く間に第二中央防衛要塞中に広まった。
その結果すっかり噂の人物となってしまったベーオウルフは、現在防衛部隊内での最注目の人物となっている。
そんなベーオウルフを特に注目するのは当然同じ傭兵部隊の者達であった。
なんせ初陣で挙げた武功による功績で、ほとんどが管理番号を振られている者ばかりの傭兵なら、誰もが欲しがる戸籍を手に入れたのだ。
そうなればベーオウルフと同じ戸籍すら持たぬ環境から傭兵となり、管理番号を割り振られた者達は、ーオウルフの実力が如何程の物なのか傭兵の中でも特に強い興味を示していた。
そしてベーオウルフは実力に強い興味を持った傭兵達は、その実力を知ろうと今日に至るまで連日模擬戦をベーオルフに対して挑むようになった。
そして連日のように模擬戦を挑まれるベーオウルフなのだが、実は未だに模擬戦で勝ち星を挙げる事が出来ていなかったのだ。
その結果誰もがベーオウルフの実力を疑うようになりだし、ベーオウルフを打ち倒した者達からベーオウルフの実力に対して疑問と批難の声が挙がるようになったのだ。
そして生まれた疑問はベーオウルフが負け越しを増やす度どんどん強まると同時に、ベーオウルフに対する非難を強まった結果。現在ベーオルフに対しての傭兵部隊の評価は
『ベーオウルフは功績をでっち上げて戸籍を得ただけなのでは?』
というのが今のベーオウルフに対する傭兵部隊の評価として定着してしまった。
コレが切っ掛けでベーオウルフにとって身の覚えのない悪い噂も次々流れ始めるのだが、完全実力主義の傭兵部隊内で実力を示す事が出来ないベーオウルフを擁護する者など誰一人としておらず、挑まれた相手誰一人にも勝ち星を挙げていないベーオウルフの事など、『大した実力も持たないくせに、功績を上げたインチキ野郎』程度にしか傭兵部隊の者達は思っていなかった。
こうしてすっからいインチキ野郎のレッテルを貼られてしまったベーオウルフは、周囲から蔑まされ軽蔑の視線を受け続ける状況に陥ってしまった。
ベーオウルフも己に張り付けれらたインチキ野郎のレッテルを覆すべく、挑まれた戦いは逃げる事無く全て受けて立ち、実力を示す事で汚名を挽回しようと試みるが、精々新米傭兵の中ではそこそこの腕前程度の実力でしかなかったベーオウルフが、何度も実戦を経験し幾度も死線を乗り越えた者ばかりが集った現在の第二中央防衛要塞の傭兵達に適うハズもなく、どれだけ強い思いを秘めて模擬戦を続けた所で、周囲より明らかに様々な面でレベルの劣るベーオウルフが未だに勝ち星を上げる事が出来ないというのが、無常かつ残酷な現実であった。
いくらベーオウルフがどれだけ負け越しても必死に食らい付く姿を見せようが、完全実力主義の傭兵部隊において、そんな当たり前の姿勢は誰の気にも留めれていない所か、”インチキ野郎のクセに諦めの悪い奴”として傭兵部隊はベーオウルフを扱うようになり出した。
その様に傭兵部隊内でベーオウルが扱われるようになってからベーオウルフに模擬戦を挑む者は、一対多数や不正ありきの理不尽かつ不条理な内容の模擬戦を平然と仕掛けるようになり始め、今やベーオウルフに模擬戦を嗾ける者はその実力を推し量る為ではなく、ベーオウルフを傭兵部隊から追い出す為に模擬戦を仕掛ける者ばかりとなっており、ベーオウルフに対しての傭兵部隊の扱いは日に日に悪くなる一方であった。
そんなベーオウルフに再び模擬戦が挑む者が現れる。
「よう!ちょっと面かせよ。まさか戸籍とった実力のある奴が俺の誘いから逃げたりしねぇよな?」
そんな事を言われた以上ベーオウルフには逃げるという選択肢はマズなかった。こうしてベーオウルフは本日二度目の模擬戦を挑まれる事となった。
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