第4話 ハチマルとフタマル
識別番号0083は、識別番号8004918の隣に座り、溜息をついた後、再び話を始める。
「しっかし教官の言ってた通りだな」
「ああ、本当に一ヶ月で元居た人数の三分の一しか残らなかったな」
識別番号8004918は空を見上げながら答える。
「あーあ、教官の言う通り初陣が終わったら1/10も生き残っちゃいないって話が、益々現実味を帯びてきたよなー」
そう言った後、認識番号0083は再び大きなため息をついた。
「だが傭兵として生きていなかったら、俺達だって今頃その辺で野垂れ死んでいかたもしれない。
そう考えたら傭兵として死ぬか、何も持たぬ者として死ぬか。それだけの違いしかないのかもしれないな」
「あのさ?只でさえ訓練で心が萎えてるのに、更に萎えるような事言うんじゃねーよ!
バーカ」
認識番号0083は、識別番号8004918の現実的過ぎる例え話が気にいらないようだ。
しかし識別番号8004918は特に悪びれる様子もなく
「俺は事実を言ったまでだ!」
淡々とそう答えた。
「あーあ…なんでこんな面白みがないリアリストと、バディかつ同じ部屋になっちまったのかねー」
下を向きガッカリした雰囲気を醸し出しながら答える識別番号0083だが、識別番号8004918の事は嫌っている訳ではなかった。
傭兵となり、訓練の際同じフループに割り当てられ、そのままバディとなって同じ宿舎で共に過ごす識別番号8004918と0083の二人は、時には喧嘩し時には協力し合った事で、地獄の訓練を何とか乗り越え続けているうちに自然と打ち解けていた。
そんな二人はいつしか互いの識別番号の頭二つの番号から、ハチマル、フタマル、とそれぞれあだ名を付けあって呼び合うぐらいの仲間意識が芽生えていた。
「…なんとか今日も生き残れたな」
フタマルは空を見ながらそう言った。
「あぁ、正直今日も何回死ぬかと思ったか」
フタマルの言葉に、共に死線を乗り越えた者同士にしか伝わらない言葉の重みを感じたハチマルは、ただ一言同意して頷いた。
「そういえばよ。明日から実戦がいつ起きても可笑しくない前線に配備されるんだよなー。
俺達傭兵って」
「そうだな」
「あーあ。俺達が配備される場所で戦闘なんて起きなきゃいいのにな」
「それだと確かにありがたいが、それはまずないと言って良いだろう!。
なんせ俺達傭兵が配備される場所は常に最前線と決まっている」
「だーかーらー!なんでハチマルはそんなつまらねぇ言い方しかしないんだよ」
「だから俺は事実を―」
「こーゆう時はな!とりあえず
『そうだな』
って適当に頷いてりゃ良いんだよ!!お前女にもそんな感じでマジメな返事ばっか返してんじゃねーだろーな?女に対してそんな返しばっかりしてたら、絶対つまんない男って思われてモテないからな?」
あまりに真面目過ぎるハチマル返事に嫌気がさして来たのだろう。フタマルは凄い迫力を持ってハチマルに迫りながら説教しだす。
「そっそうなのか?
スマン!これから気を付ける」
あまりに迫力あって凄みある顔をしているフタマルの迫力に押されたのと、その顔を見て本気で怒っていると思ったハチマルは素直にフタマルに謝った。
「はぁ…なんでコイツこんな素直なんだ?疲れて腹減ってるせいもあるけど、なんかもういろいろ説教する気も失せた。
ホント調子狂うわー」
ハチマルの素直な態度に毒気を抜かれたフタマルは、ガックリっと項垂れのであった。
「わっ悪かった。
俺はあまり人と関わるのが得意じゃないから、時々相手の言葉に対してどう返したら正解なのか良く分からないんだ…本当にスマン。」
ガックリとフタマルが項垂れているのを見て、ハチマルは自分の会話が下手くそな所為でフタマルを不快にさせてしまった事を謝罪した。
「はぁ…どっから突っ込めば良いんだか。
まぁ、別に大して怒ってる訳もないから良いんだけどよー!
クソ真面目でアホみたいに素直。ソレがハチマルの悪いトコでもあって、良いトコであるんだからなー」
フタマルは項垂れていた首を上げ答える事で、別にもうハチマルの返しを大して気にしていない事を示す。
「そうなのか?」
フタマルの言葉を聞いて、ハチマルは意外そうな表情を見せる。
「相手の意見を素直に聞き入れるってのは、実は結構大事な事なんだぜ?まぁ何でも素直に聞きすぎるのもソレはソレで問題だけどな…
ってか、そんなどうでもいい事話してたら、益々腹減って死にそうになってきた…
そろそろメシの時間だろ?つまんねぇ話は後にして、メシ食いに行こうぜ」
フタマルは立ち上がって食堂に向かいだす。
「お前はお前でテキトー過ぎると思うぞ?」
フタマルが先程言った言葉にハチマルとしては思う所があったのだろう。フタマルに続いて立ち上がりったハチマルはフタマルの言動に対して指摘した。
「だ・か・ら
お前は全部いちいち真面目に返し過ぎなんだよバーカ!」
呆れながら答えるフタマルだったが、その事ハチマルは冗談を交えて話しながら、夕食が支給される食堂まで歩き出す。
食事を終えたハチマルとフタマルは、訓練で疲れたクタクタの体を休める為に、宿舎のベットで横になって睡眠を取ろうとしていたが、ふとフタマルがベッドに寝転がったままハチマルに声を掛けた。
「なぁ!ハチマル?」
「ん?どうした?」
「そーいえばお前ってさ。なんで傭兵になったの?」
フタマルに聞かれた事に対してハチマルは、少し考える様子を見せる、そして
「それぐらいしか自分が生き永らえる道がないと思ったからだ」
ハチマルはハッキリと答えた。
「そっか。
でも別に傭兵にならなくたって、今までみたいにテキトーに生きてりゃ生きては行けるだろ?」
イマイチハチマルの答えに納得がいかなかったフタマルは、
「どうせあのまま住む家も戸籍も持てないままフラフラと生きていても、野垂れ死ぬなり、憲兵に捕まって留置所でいい様に買い殺されるなり、いつかロクな死に方しかしないのは目に見えていたんだ。
だったら死ぬ直前まで最低限の住まいと食い扶持にありつけ、前よりは人として扱われる傭兵として生きる方がマシだと思った。
それに識別番号で管理され、自分の本当の名前が一生呼ばれない事なんて、俺にとっては生きる上ではどうでもいい事だから今の扱いに対して特に感じる物もないしな」
淡々と自分の思いの内をハチマルは語る。
「お前ってさ、ホンット冷静に現実だけ見るリアリストだよな」
やっぱりコイツはこういう奴だったかと言わんばかりの言い方をするフタマル。
「そうなのか?俺は今を生きるのに必死なだけだぞ?」
フタマルにリアリストと呼ばれた事がハチマルにとっては意外だったようで、その表情は僅かに驚いていた。
「ホント、お前のその素直な部分見てると、コッチは肩透かし食らうわ」
フタマルは両手を横に出し、”やれやれ”っと言った感じの仕草をした後、話しを続ける。
「やたら現実的な考えしてて、素直だから戦闘訓練でも的確に教官の指示通り動いて、訓練結果もいい結果出せるんだろうな。
知ってたか?一緒に傭兵に入った奴らの中でお前だけ唯一教官達から褒められてるらしいぜ」
「そんな事言われてもな…俺は教官達から直接そんな話しを聞いた訳じゃないから何とも思わん」
自分が直接聞いていない評価など興味がないと言わんばかりにハチマルは答える。
「かー!相変わらず謙遜なこった。お前ってホントにただの浮浪者か?
実はそこそこ良いトコの元坊ちゃんとかだったりしねーよな?」
「...どうしてそう思った?」
フタマルの指摘に対して、ハチマルは若干驚いた様子で答える。
「何て言うか、俺みたいな生まれつい時からゴミ漁って生きてたヤツとは、なんか考え方とか動作が違う感じがするんだよなー。
俺らみたいな物心ついた時からゴミ漁りばっかしてた奴とは、見えてるモノが違うっていえば良いのか?何となくそんな感じがするって言えばいいのか?」
フタマルは自分がハチマルを見て感じた印象を正直に伝えた。
「なぁ、人減らしって知ってるか?」
若干トーンを落としてハチマルはフタマルに尋ねた。
「なんだよいきなり!人減らしって言えばアレだろ?
村で喰いもんとかが足りなくなったら、子供を山に置き去りにしたりするアレ!
それぐらい俺でも知ってるっての」
突然誰でも知ってるような事を聞いて来たハチマルに対して、ちょっと苛立った感じでフタマルは返した。
「俺は人減らしで7歳の時に捨てられたんだ」
ハチマルは淡々と、己の過去に起きた出来事を答えるのであった。
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