異邦の妃と帝 -Romancing History-

黒本 常化

第1話 プロローグ


 とある町の小さな酒場にて。


 今日も酒場には一仕事を終え、頑張った自分へのご褒美にと、美味い酒を飲みながら美味い飯を食いつつバカ騒ぎが出来る場所を求め、今日も酒場に人が集まり出していた。

そんな何時と変わら酒場の光景に、今日は珍しく旅人が一人紛れていた。まだ日も暮れ切っていない時間からカウンターに座っている旅人は、一人酒を嗜んでいる。

 そんなカウンターで一人酒を嗜む旅人の存在に気が付いた子供達は、嬉しそうに旅人に声を掛けた。


 「ねぇねぇ、吟遊詩人さん。何かお話聞かせてー」

 子供達が、カウンターに吟遊詩人に一曲ねだりだす。


 「リクエストありがとうございます。小さな可愛いお客さん。ちょっとお店の方に歌っても良いか聞いてみますので、ちょっと待っていてくれますか?」

 そう子供達に言った後、吟遊詩人は座っていたカウンター席を立ち、店の従業員に声を掛ける。


 「すいません。今からこの場を借りて一曲歌ってもよろしいでしょうか?」


 「んー、ちょっとマスターに確認してきまーす」

 そう言って明るく対応してくれた従業員は、マスターが居ると思われるカウンターの裏口に消えて行った。

 そして裏口に消えた従業員は、この店のマスターと思われる人物連れてカウンター裏から現れ、何かをマスターと思われる男に伝えながら吟遊詩人の方に向かってくる。

 ある程度近づいて来た従業員は、吟遊詩人の方にちらりと視線を向け


「こちらの方が一曲歌いたいと言っている方です」

 っとマスターと思われる人物に伝えると、その場を離れた。そしてマスターと思わしき人物は自分を呼びだした者の元に向かい


 「あんたかい?今からウチで一曲やりたいっていう奴は」


 「はい。ちいさくて可愛いお客さんからリクエストを頂きまして」

 そう言って吟遊詩人は先程自分にリクエストしてきた子供達の方に視線を送る。


 「あー、馴染のガキ共のリクエストか。まぁ今日は特に何かやる予定は入っていないからな

 あのステージを使って、一曲歌うのは構わねぇよ」

 そう言ってマスターは親指で小さなステージを指す。


 「ただし、小さいな町の酒場だからって気は抜くなよ?案外この町に住んでる奴は耳が肥えてやがる。

 つまらん下手くそな歌を聴かせてみろ?例え相手が女だろうが下手くそな歌を歌う奴なんぜ、容赦なくステージから引きずり下ろすような連中ばかりだぜ。

 この店の客ってのは!」

 そういってニヤリと笑いながら女吟遊詩人に、

 『それでもやる覚悟あるのか?』

 っと、マスターは言葉に出さずして問う。


 「分かりました。ならば皆さんをガッカリさせないような歌を歌わないといけませんね。何より私にリクエストしてくれた小さなお客さんを、ガッカリさせたくないですから」

 帽子で口元より上の顔を隠した女吟遊詩人は、穏やかな口調で、にっこりとした口元を見せながら答える。

 女の吟遊新人の度胸ある返事を聞いたマスターは、思わず”ヒュウ”口笛を鳴らした。

 見かけない奴だからちょっと脅して試してやろうっと思って、すこし大げさにマスターも言っのだが、どうやらこの吟遊詩人、その程度の事では全く動じる様子も見せないという事は、それなりの場数を踏み、経験を積んでいる肝の据わったそれなりの実力を持った吟遊詩人のようだ。


 「そんだけ度胸あるなら問題なさそうだな。じゃあアンタの歌に期待してるぜ!

 始めるタイミングは、アンタのタイミングで好きに始めてくれたらいい」

 そう言ってマスターは女吟遊詩人の方をポンッと叩き、カウンターの裏側に戻って行く。

 マスターの許可を得た吟遊詩人は、許可を貰えた事をリクエストしてくれた子供達に伝えるため子供達の元に戻り出す。


 「お店のご主人から無事に許可を貰えたから、今からお話を聞かせてあげますからね」

 女吟遊詩人はにこやかに子供達に伝える


 「やったー!」


 「ねぇねぇ!赤い髪の吟遊詩人さんはどんなお話聞かせてくれるの?」

 子供達は目をキラキラさせ、ウキウキしながら吟遊詩人がどんな話を聞かせてくれるのか尋ねる。


 「実は私、恥ずかしながら一曲しか歌えないんですよ」


 「そうなんだー!どんなお話?」


 「この国が出来るまでのお話ですよ」


 「あーそれ知ってる!

 ろまんしんぐひすとりー

 っていうお話でしょ?」


 「良く知っていますね!君達は偉いですよ」


 「だって国が出来たお話だもん。誰だって知ってるよー」


 「ねー」


 「そう言われたらそうでしたね。

 ですが、私が今からお話しするこの国のロマシングヒストリーは、きっとあなた達が知らないお話がいっぱい出て来る素敵な物語ですよ?」


 「ホントに!どんな知らないお話が出てくるの?」


 「それは聞いてからのお楽しみです」

 そう言って悪戯っぽく笑って答えた女吟遊詩人は、自分の据わっていたカウンター席の下に置いていたカバン持ってステージに向かった。そしてステージに立ち、カバンから竪琴を取り出す。

 そして何度か竪琴を試し引き、酒場に竪琴の美しい音色を鳴り響かせ、酒場に来た者達の興味を自分に向かせる。


 「この場にお集まりの皆様。

 わたくし、先程そちらにお見えになる小さなお客様より、一曲歌ってほしいとリクエスト頂いた旅の者にございます。

 今からわたくしが歌うのは、私が知るこの国の出で立ち。皆様も良く知るロマンシング・ヒストリーとは一味違う新しいロマンシングヒストリー!

 皆様に最後まで楽しんで聴いて頂けたら幸いです」

 簡単に自己紹介を終え、歌う前の下準備を終えた吟遊詩人は歌い始める。


 もはや遥か遠く、過ぎ去りし時の出来事となってしまったこの国が生まれるまでに歩んだ歴史と、その歴史に深く関わった二人の異質なる者と呼ばれた者の生い立ちを、おとぎ話として。

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