最強の保育士ー軍人は保育士を目指すー

くろとら

第1話 軍人、墜落事故に遭う

5年前。

 北太平洋上空を1機の航空機が飛行していた。

 この航空機には100人以上の乗客が搭乗しており、その中には10歳の誕生日を記念して両親と一緒にグアム旅行に行こうとしている少年-音無未来の姿もあった。

 未来は生まれて初めての航空機と初めての海外旅行と言うこともあり、いつも以上にテンションが上がってしまい、航空機の窓にへばりつき外の景色を食い入るように眺めていた。


 「あなた、そろそろグアム島に着きそうね」


 「あぁ、そうだな」


 未来が航空機の窓にへばりつき外の景色を眺めていると、未来の両隣りに座っている未来の両親がそんな会話を交わしていた。

 未来は外の景色を眺めながら両親のそんな会話を聞いていると「本当にそうなのか?」と思い、よく目を凝らして遠くを見てみると両親が言った通り目的地であるグアム島が微かに見えてきた。

 未来は今自身が乗っているこの航空機が目的地であるグアム島に近付いて行っていると思うと、段々と自分の心臓の鼓動が早くなって行くのを感じていた。


 「(グアム島に着いたら何をして遊ぼうかな〜?)」


 未来が段々と近付いて行っているグアム島を見ながらそんなことを考えていると突然機体が降下し、大きく上下に揺れ出したのだった。

 突然機体が降下し、大きく上下に揺れ出すと、緊急事態になると鳴るように設定されていた警報が機内に鳴り響いた

 警報が機内に鳴り響くと、今まで談笑していたり、雑誌を読んでいた大人達がパニック状態になってしまい、座っていた座席から立ち上がり、自分達を何とか宥めようとしていたCA達に詰め寄ったり、操縦士が居るコクピット室のドアを強く叩いたり、自力で航空機の扉を開けようとしたりしていた。

 そんな、大人達と比べて未来の両親や他の一部の大人達は子どもが怖がらないようにするためかパニック状態にはならずただただ冷静を保ち続けていた。


『乗客の皆様、機長の田村です。現在この機体は突然のエンジントラブルに見舞われ、機体の操縦が非常に困難な状態になっております。その為、この状況下では目的地であるグアム島に着陸することは不可能だと判断し、目的地であるグアム島の近くにある島に緊急着陸を行うという判断を下しました。その為、乗客の皆様には乗務員の指示に従い座席に座り、シートベルトを閉め、緊急着陸に備えてください』


 機体の操縦が効かなくなり、一部の大人達がパニック状態になってしまってから数十分後。

 そんなパニック状態になっている大人達を宥めるためか、機内に機長のアナウンスが流れ始めた。

 この機長のアナウンスによると、予想通りこの機体は突然のエンジントラブルに見舞われてしまい、機体の操縦が困難な状態になってしまっているらしい。

 そんな機長のアナウンスが流れ終わると、CA達がパニック状態になってしまっている大人達に声をかけ、何とか座席に座らせ、シートベルトを閉めさせ、緊急着陸に備えさせていた。

 そしてパニック状態になっていなかった未来の両親と一部の大人達もCA達の指示に従いシートベルトを閉めて緊急着陸に備えていた。


 「未来、私の隣に座りなさい」


 「あぁ、真ん中に座れば俺達が未来のことを守ることができるしな。そうすれば、俺達が盾になってほんの少しは墜落の衝撃を和らげることが出来るかもしれないしな」


 「う・・・うん、分かったよお母さん、お父さん」


 未来の母親が突然自分のシートベルトを外し、未来にそんなことを言ってきた。

 そして、父親も母親に続いて「自分達の隣に座るように」と言ってきた。

 どうやら、未来の両親は未来を自分達の隣に座らせることで自分達が未来のために身体を張り、ほんの少しでも墜落の衝撃を和らげることができると思い、こんな行動を起こしたのだった。

 未来は取り敢えず両親の言うことに従い、自分のシートベルトを外すと母親が座っていた席に座り、再びシートベルトを閉めた。


『ガクン』


 未来が両親の言う通りに、両親の真ん中の席に移った瞬間更に機体は大きく上下に揺れ出し、遂に操縦が効かなくなってしまったのか機体はどんどん降下して行った。

 機体がどんどん降下して行くと、乗客達は頭を抱え悲鳴を上げたり、両手を握り神に祈ったりしていた。

 だが、そんな乗客達の祈りも虚しく機体は上昇すること無く、どんどん降下して行くだけだった。


『き・・・機長!!機体が上昇しません!!』


『神川諦めるんじゃない!!何とかして、機体を上昇させるんだ!!』


『わ・・・分かりました!!』


 操縦室からは副機長の神川忠と機長の田村悟が機体を何とか上昇させるために奮闘している声が聞こえてきた。

 だが、そんな2人の奮闘も虚しく再び機体は上昇すること無く、更に降下して行くだけだった。

 機体が更に降下して行くと、機内には乗客達の悲鳴が響き渡り、子どもが居る大人達はせめて自分達の子どもだけは守ろうと子どもに覆いかぶさっていた。


 「未来、そんな顔しなくっても大丈夫よ・・・。未来だけは、私達が絶対に守ってあげるからね」


 「お母さんの言う通りだ。未来、お前だけはお母さんとお父さんが何としても守ってやるからな」


 「お母さん・・・、お父さん・・・」


 未来の両親も、他の大人達同様に自分の息子である未来を守るために、未来に覆いかぶさり未来がパニック状態にならないように耳元でそう声をかけ続けた。

 そして、未来が両親に覆いかぶされながら、そう呟いた瞬間機体が垂直に降下して行き、遂に機体は固い地面に墜落してしまった。

 機体が墜落した時の衝撃は凄まじいもので、未来は両親の暖かい温もりを全身に感じながら意識を失って行った。


 「・・・・・・・・・うっ、お母さんとお父さんは・・・・・・」


 機体が墜落してから数十分後。

 墜落の衝撃でしばらく意識を失っていた未来が頭を抑えながらヨロヨロと起き上がった。

 ヨロヨロと起き上がった未来は、墜落の衝撃で何処かに強打してしまった頭を抑えながら、自分を守ってくれた両親は無事なのかと思い、周囲を見渡した。


 「お母さん!!お父さん!!」


 未来の周囲には墜落の衝撃で全身を強打してしまったのか頭や全身から血を流し倒れている大人や子ども達の姿があった。

 そしてその周囲には、他の大人や子ども達同様に全身から血を流して倒れている未来の両親の姿もあった。

 未来は両親の姿を確認すると、すぐ様両親の元に駆け寄り、両親の身体を揺さぶりながら声をかけ続けた。

 だか、両親は他の乗客達同様全身から血を流し、未来の呼び掛けにも一切答えることは無かった。


 「お母さん、お父さん・・・・・・。・・・・・・そうだ、他に生きている人は・・・!?」


 未来は自分の呼び掛けに答えない両親を見て、自分の両親は既に死んでいることを悟った。

 そして、悲しい表情をしながら動かなくなってしまった両親の亡骸を見つめ続けた後、自分の他にまだ生きている乗客を探すため動き出した。


 「・・・・・・みんな死んでる。俺以外に生きている人はいないのか・・・・・・?」


 だが、機内には生きている人間は1人も居らず、外に出ても生きている人間は1人も居なかった。

 未来は、中にも外にも生きている人間は自分だけという現実にショックを受けながらも、目の前に広がる森を見て、ヨロヨロと歩きながら森の中に入って行き、未来は森の中に姿を消したのだった。


 後にこの墜落事故は「苦沼空港202便墜落事故」と呼ばれるようになり、日本の空港に大きな衝撃を与える事故となった。

 後の調査団による調査により、今回の墜落事故の原因はエンジンの一部の劣化によって起きたものだと断定された。

 そして、被害状況は乗客・乗員155名のうち、生存者は0名、死亡者155名、行方不明者0名と日本や世界に報道された。

 だが、日本中の人々や世界中の人々は誰1人知らなかった、今回の事故による被害状況は生存者1名、死亡者154名、行方不明者0名と言うことを・・・・・・。

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