君が好きだから...

鈴風一希

第1話 雨谷 悟と川里 知恵

「さ〜と〜るくんっ、あ〜そ〜ぼっ!」


「い〜い〜よっ!」


 近所に住む川里かわさと 知恵ちえは幼なじみだった。


 手を繋いで、一緒に幼稚園に行き来して。

 一人だと不安になって、顔を見ると安心して。


 互いが互いのことを意識する生活を送っていた。


“二人でいる事が当たり前だった。”


「さとるくん、何してるの?」


「なんでもねぇよ。」


「教えてくれてもいいじゃん。」


「関係ねぇーだろ!」


 でも、小学六年生の時、俺は恥ずかしさから知恵と距離を置いてしまった。だから...


「こんなところに呼び出して...どうしたの?」


「お、お、俺と、...付き合って下さい!」


 中学二年の秋になって、体育館準備室で告白をした時、驚いていたのかもしれない。


 差し伸べられた手に知恵は戸惑いながらも寄り添ってくれた。


「知恵は進路どこにした?」


「もう進路のことを考える時期だもんね〜。」


「ああ、だから聞いてんの。」


「私は...悟と同じ高校にしようかな〜。」


「そう言うと思った。聞いといて良かった。」


「えぇ〜、 どうゆう意味?」


「そのまんま。...行きたい学校...あるなら正直に言えよ。」


知恵は少し驚いたように口を「o」の字にしていたが、すぐに


「フフッ♪ 悟は優しいね。」


と笑った。


 それから俺たちは、知恵の志望高に行くために分からない所をカバーし合いなががら勉強して、俺たちは無事に合格した。そして、奇跡的に同じクラスになった。


 クラスが打ち解け始めた夏頃には俺らの関係はすでにクラス中に広まっており、「いいな〜」と言われたり、馴れ初めを聞かれたりした。


 彼女も女友達と似たような話をしていたんだと思う。少し離れた所から見ると、いつも嬉し恥ずかしそうな顔をしている。その顔を見ていたかったから、あまり学校では話しかけられなかった。


 おかげで一緒に行動できるのは学校に登校する時間とお昼休みの時間だけ。この時間が心地よくて、でもいつもと違う世界を歩いているみたいな不思議な気がしていた。


「悟くん? どうかしたの?」


 横に座る俺の顔を覗きながら聞いてくるその仕草が可愛いくて、ついにやけてしまう。


「なんでもないよ♪」


「え〜、ならいいけど...。はい! 今日のお弁当。」


「おぉ!! 今日も美味しそうだな! ありがと。いただきます。」


「うん! 召し上がれ。」


 透き通った声が、肌が、目が心に突き刺さる。そんな幸福を得ながら食べる手作り弁当は今日も美味しかった。



 高二の春。突然うちの両親が事故にあった。


 医者は命に別状はないと言っているが、頭を強く打ったらしく、まだ瞼を閉じたままだ。


「大丈夫? ...じゃないよね。」


「いや、大丈夫だよ。」


「うちの両親がね、悟の両親と、“私たちの身に何かあったら子どもを預かって欲しい”って話し合ってたみたいなの。」


「...。」


「気が向いたらいつでも家に来ていいから。私...。」


「...。」


 そう言って知恵は病室を出て行った。



 ――今思えば、この出来事が分岐点だったと思う。両親が事故にあっていなければ...俺らの関係はのかもしれない――

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