少しだけ青すぎた

藤泉都理

いまだしらず




 長い巻き髪ツインロールをたなびかせて。

 姫は草原の中をたった一人、愛馬のアマリロに乗って疾走していた。




 これは地球儀って言うんだ。

 抱きかかえるにはちょうどいい大きさをした球形には、緑と茶と青と白と赤の色で色々な形が描かれていた。


 僕の故郷なんだ。

 異世界から来たあの方はいつもいつも寂しそうに笑う。


『高校最後の夏休みで。受験に弾みをつける為にみんなで一緒に莫迦騒ぎしようって話だったんですけど。ごめんなさい。意味不明な事を言って』


 話しかければ話し返してくれるようになった頃。

 あの方は頭を下げて言ったのだ。

 この世界で生きていくと決めたので、教えてくださいと。

 そうしてわたくしに、執事に、家の者にこの世界の事を教わって、少しずつ少しずつ一生懸命に馴染んでいく様子を見てきた。

 ひとりぼっちの異世界人であるあの方が、この世界に来た事にはきっと何か意味があるに違いない。

 そう自分に言い聞かせて、あの方の笑みから目を逸らして来た。

 けれど。


 昨晩。

 地球儀を抱えて、静かに涙を流しながら眠るあの方を見た時に覚悟を決めた。


 あの方を故郷に帰そうと。




 この草原の遥か向こうに聳え立つ雪花山を越えた先に住むと言う魔術師に会いに行かれた方がいい。


 優秀な執事にどうすればいいかを尋ねた時、そう答えたのだ。

 過酷な旅路になりますよとの有難い忠告と共に。




「待っていてくださいね。わたくしが必ずあなた様を」


 アマリロの盛大ないななきが響き渡った。











「僕一人で行きます」

「いいえ、わたくしも行きます」

「だめです」

「だめですね」

「だって。姫はこの世界で過ごす最後の夏休みだって言っていたじゃないですか」

「ええ、最後の夏休みに最高の冒険をしたいと思っていたので。魔術師探しなんて最高の題材じゃないですか」

「でも」

「ほら。ごちゃごちゃ言っていると置いて行きますよ」

「え、ちょ。っと」


 僕はつい最近相棒となった馬のコーヤにお辞儀した後に、何とかかんとか自力で乗り上げ、未だに慣れない高さと浮遊感に怯えそうになりながらも、颯爽と愛馬のダイブーに乗った執事さんと並走して姫とアマリロを追った。










(2022.8.18)



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