第38話 久しぶりの街
「おっ、あのおっさん。こっちに気付いたようだ。手なんか振っちゃって・・・こっちが恥ずかしくなるよ」
「元気だねぇ、まぁこっちと違ってゆっくり休める街にいるんだから当然と言えばそうなんだけど」
そうこうしているうちに街の入り口の扉がゆっくりと開けられる。平常時は常に開けっぱなしのせいかギチギチと音を立てながらゆっくりと開かれた。ここを出るときもそうだったかな?
「元気そうじゃないか。俺らがいない間ちゃんと街を守ってくれたんだな」
「そんな・・・魔物達の報告はほとんどありませんでした。これも貴方方のおかげです」
(ちょっと狩り過ぎたのかな。街の人で戦える力があるかどうかこれじゃわからないよな)
『まぁ結果論ですよ。どれほど魔物達が現れるかなんてわかりませんから。しかし、これならまた魔物退治で時間を取られることも無いでしょう』
「まぁいいや、何か変わったことがあったか?」
「特にはありませんね。それよりも!あなた方の帰還を皆心待ちにしていましたよ。ささっこちらに」
そういって強く手を引かれる。おいおい、持ち場離れていいのかよ・・・
「ちょっと行ってくる。それまでこの困ったちゃんの代わりにここ見張っててくれ」
「はいはい、頑張ってね~」
「お主も大変じゃのう、さっさと終わらせてくるがよいぞ」
手を引かれた姿を他の人に見られるのは恥ずかしかったので途中からは手を振りほどく。衛兵の人はちょっと悲しそうな表情をしていたが何も言わずにギルドの方へと黙って先導していた。
(まぁ気の毒なのかもしれないけどこっちも恥ずかしいからね。流石に察して欲しかったけど)
見慣れた景色なので特に見新しいことはない。もうすぐギルドに着くなぁと思いながら以前来た時よりは活気がある街を眺めていた。
「もうこの辺でいいよ。ありがとう、次来たときはもう少し落ち着いた姿を見せて欲しいね」
「はいぃ・・・すみません。反省しています」
ギルドが近づくにつれてだんだんと冷静になったのか少し気まずくなっていた。この辺で別れたほうがお互いのためだろう。
とぼとぼと持ち場へと帰っていく衛兵を見送り、ギルドの方向へと急いだ。もたもたしていたら誰に絡まれるか分かったものじゃないからな。
ギルドの中へとこっそり入り、受付に話しかける。最初は俺に気付かなかったようで事務的な対応をしていたがこちらを見ると顔が青ざめていった。
「す、すみません。どのようなご用件でしょうか?ギルド長をお呼びしたほうがいいでしょうか?」
血の気は完全に引いているがやるべきことはしっかりわかっているようだ。流石だなと感心したが、さっさと俺が返事をしないとこの人が大変そうだ。
「あぁ、お願いしたいんだが急に来たからな。また日を改めてでもいいが・・・」
「い、いえ。大丈夫です。すぐに呼んできます」
そう言い残して奥へと消えていった。受付の反応に気付いたロビーにいる冒険者が俺の存在に気付きだして少し騒がしくなってきた。
早く戻ってこないかなぁと思ったがすぐに受付の人は戻ってきてくれた。
と、とにかく助かった。このまま待たされていたらまた面倒なことになっていただろう。
「ここではやりにくいですし奥へどうぞ。それから、次から来るときは別口から来てくださいね」
本来なら前来た時にそうするべきだったのだが、その時は皆忙しくてそれどころではなかったのだ。なのでこのような事態になることはかなり珍しいらしい。
「詳しい話は奥で聞かせてもらうよ。じゃあ案内してくれ」
奥へと案内され、ギルド長と再び対面する。平静を装って入るが汗をかいているのを俺は見逃さなかった。相当慌てていたんだろうな。
「いやぁ、急に来るとはね。本来なら君のような大物が来るときは事前に言って欲しかったんだが・・・まぁあの時は状況が状況だったので伝え忘れていたこちらにも責任があるんだけどね。次からは正面じゃなくて右の方の入り口から入ってくれ。君とこの間一緒に来ていたお嬢さんは顔パスできるように話は通しておこう」
まぁそうだろうなというやり取りを幾つかした後、今日ここへ来た目的の話を切り出す。
「さて、今日来た理由はなんとなくわかってますよね?」
「あぁ、というか私の話なんて最初の以外はどうでもいいことだろう。聞かせてくれ、君達が何を見たのか」
「はい、まずはサウスの街についてですが、街は完全に無人でした。そしてこれから話すことは推測も入るのでその点も踏まえて聞いてください」
「・・・続けてくれ」
「街から消えた人を探すより前に魔素の濃度が非常に高くなっていることを知りました。それも人体に影響が出る可能性があるレベルの」
どうしてそんなことが分かるんだ?と突っ込まれる可能性はあったが適当に話を作ってつじつまが合わなくなって信頼されなくなる方が嫌なのでまぁなんとなく並列思考のことには触れない様にだけ注意して話した。
一通り話終えるとギルド長は黙って考え込んだ。無理も無いか、あまりにも突拍子の無いことを言っている自覚はある。俺が逆の立場なら絶対に信用していない。
「にわかには信じがたいが・・・おそらく真実なのだろう。それにしても魔素によって魔物化か、この街も君達が来なければ危なかったと考えるとぞっとするよ」
「俺達は元凶となった魔物を倒すために力をつけなきゃいけない。その時はいつ来るか分からないけどな」
「・・・わかった。君達に役立ちそうな情報が無いか、調べるよ。またこの街に寄ることがあれば遠慮せずにここに来てくれ。君達をできる限りもてなそう」
もてなすのはまぁ嬉しいと言えばそうくらいだが、俺達の他にも今回の異変についてある程度情報を持ったうえで調べてくれるのはとてもありがたいことだった。
ギルド長に一礼してギルドの別口から出る。人だかりでもできているかと思ったがその辺りは気を遣ってくれたようだ。すんなりとギルドを出た俺は2人の待つ方へ戻っていった。
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