第25話 中々理想通りにはいかない

1人目は大柄な男だった。募集者の中でも目を引く経験の持ち主でかなりのベテランらしい。


「では簡単に自己紹介をお願いします」


「俺はジュンヤ、冒険者を20年ほどやってる。得意なのは剣を使っての接近戦だ。それと耐久力にも自信がある。盾役くらいはこなせる」


書類通りの内容だ。体つきから感じれる風貌は当に歴戦の戦士といったところだ。おそらく間違いはないのだろう。


「ではこちらから幾つか質問をします。危険な場所へ向かうということが分かったうえで貴方は応募してくれました。本当にその覚悟はありますか?」


「あぁ、もちろんだ。俺は、いや俺達はあんたらに助けられたんだ。だから恩返しをしたいと思ったんだ」


なるほど、まぁ分からなくはない。


「ふむ、確かに意気込みは伝わりました。しかし私達が来るまでの間魔物達に後れを取っていたようではないですか」


「そうですね、確かに私達だけではこの辺りの魔物に苦戦していたという事実は言い逃れできないでしょう。しかし、それでもこの街で募集をかけたということは何か理由があるのではないですか?」


そうだ、この街で募集をかけているのは単純に即戦力になる人というのは違う。いや、厳密にいえばそれはあれば嬉しいのだが。


「中々鋭いですね。そうです。最低限の戦闘能力は欲しいですが戦闘以外の面でどういった特技があるのか。この部分についてを今回は聞きたいです」


俺の発言を聞いた戦士は途端に考え込む。少し予想外の質問だったようだ。


「そうですね、武器の目利きなどは多少の自信があります」


確かにあって困らないことだ、だが今俺が求めているのは・・・


「他には?」


「うーむ、一通りはできるつもりなのでそちらが求めている物を言っていただければある程度具体的に話せます」


「そうですね、少人数でも長距離の旅を継続できる手段を持っていると嬉しいですね」


再び考え込みだす。今度は若干お手上げといった表情を一瞬見せていたので期待はできないだろう。


そして何かを決心したかに見え、ジュンヤは口を開いた。


「中々難しいことを言いますね、少人数での長旅は特殊な魔法でも使わない限り困難を極めます。私のような所謂戦士に該当するようなものではありませんね」


「そうですか・・・因みにそのような魔法はご存じで?」


「存在くらいだな、俺も実際に見たことはねぇ。もしかしたらお嬢ちゃんなら何の魔法かさえ知っていれば使えるかもな」


「情報感謝する。採用とは言えないが、非常に有益な情報をくれたことへのお礼だ」


俺はジュンヤに対しお礼のお金を渡す。不採用が決まった状況なので少し複雑な表情をしていたがお金には正直だったようで有難そうに受け取り、部屋から退室した。


ばたん、という音がすると途端に気が抜ける。


『まだ1人目ですよ、そんな調子で大丈夫ですか?』


(わからない、でも不採用って伝えるのは結構エネルギーを使うね)


「お疲れのようだけど次すぐ来るわよ。ちゃんとしないと」


2人に言われてしまい俺の立つ瀬がない。あー、こういうときだけこいつに代わってもらいてぇなぁ。


『できなくはないですがオススメはしませんよ。貴方自身が決めたのでないならなにかしらの問題が出たときに責任を感じれなくなってしまうことが予想されます。そこはパーティーのリーダーとしてしっかりしてもらわないといけないです』


ぐぅのねも出ない正論だ。言い返すこともできない。覚悟を決めて次の応募者へと身構える。


程なくして2人目が入ってきた。1人目の情報から考えるに魔法を扱える者の方が俺達の望む技術を持っている可能背が高いということになる。


(ちょっと質問の内容を変えてみるかな)


そして一人ずつ面接は終わっていき、遂に最後の一人というところまで来ることができた。


「あと一人か、中々思うようにはいきそうにないなぁ」


これまでの4人は誰も俺の望むスキルないし業を持っている人はいなかった。


そもそも最初の戦士以外、その魔法の存在さえ知らなかったのでかなり希少なものなのだろう。


「ま、俺も知らなかった魔法だし本当にあるのかってレベルのものなんだろうな」


「家に帰ればもしかしたら何か資料でもあるのかもしれませんが・・・戻ってきたときここが無事な保証はないですよね」


その魔法が使えたとしても生活必需品はある程度の期間で補充し続けなければならない。そういった点もあってこの街が街として機能し続けなければ困るのだ。


「と、とにかく、最後の一人が終わってから考えよう」


しゃべり終わると同時に扉がノックされる。はぁ、頼むよー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る