第21話 手ごたえ
魔物の数は8匹、対してこちらは2人。街の冒険者の話だと相手をできるのは同数が限度だったが俺達の場合もそうなのだろうか。それを確かめるために今ここにいる。
「なんだかあまり強そうには見えませんね」
「油断はするな。戦えばすぐに冒険者が苦戦していた理由も分かるはずだ」
そうこうしているうちに戦闘が始まる。魔物達は俺達が話していることなんてお構いなしだ。
この辺りで多くいるとされている魔物はゴブリンだが、今目の前にいるのは絵で見たものとは何かが違う。別の種類にすら見えるほど荒々しく、狂暴な印象を受けた。
ゴブリンの一撃をわざと剣で受け止める。思ったよりも重い一撃に思わずよろめく。なるほど、確かに苦戦する理由が分かる。
続けざまに振り下ろしてきたが、今度はわざわざ受けてやる必要もないので受け流し、すぐさま反撃の一撃を加える。
攻撃が直撃したゴブリンはかなり痛そうな表情をしている。こちらへ攻撃をするどころではないようだ。
(うーん、反撃されると思ってなかったから簡単に決めれたのかな?)
向こうは数で圧倒しているので油断があったのかもしれない。だから今のやり取りで何か変わるかもしれない。そう思い、身構え直し、次の攻撃に備える。
ゴブリン達は目の前にいる相手が想像より強かったことに驚いている。この隙に攻めてもいいがもっと情報が欲しい。冒険者から聞いたことは多いが実際に戦ってみないと分からないことの方が多いからだ。
こちらが攻めてこないことを不思議に思っている個体もいたがそもそもあまり頭のいい種族ではないので複数の個体がこちらへ突っ込んできた。
流石に今度は一人で相手するのは骨が折れるのでユカに合図を送る。
合図を受け取ったユカはすぐさま魔法を展開し、ゴブリン達の足止めを行う。
今回使ったのはどうやら地面を揺らして動きを鈍くさせるもののようだ。
足腰が貧弱な場合は結構効果があるのだが果たしてどうなのか、一応簡単に突破された時のことも考えて身構えてはいた。
しかし、杞憂だったようでゴブリン達はその場から完全に動けなくなっていた。
(なんだよ、こんなのに苦戦してたのか?)
『・・・ユカ殿の今使っている魔法はかなり高度な魔法操作が必要です。誰でも戦闘中にできるとは限りませんよ』
俺が率先して魔物を狩っていたのもあって彼女が全力を出しているのはそういえば見ていない気がする。もちろん今だって全力かどうかは分からない。
「拘束している魔物達をそのまま倒せるか?」
「じゃあ倒しちゃうわ」
そう言うと別の魔法を展開し、あっさりとゴブリン達を倒していった。
「すげぇ、まだまだ奥を見せていない感じが恐ろしいよ」
「貴方の方が強いと思うけどね。貴方だってまだ本気を出したのあの時くらいでしょ?」
「少なくとも君に会ってからはね」
修行していたころは両親にさんざん鍛えられたのでいつも本気だったが確かに全力を出すような状況というのはあの時だけだった。
(よく考えればあんなわけわかんない状況じゃないと全力出さなくてもいいってことなのか?)
『ご両親はかなり効率よく鍛えてくれたようですね。他に比較対象がいなかったから判断できませんでしたがこうやって冒険者などの話を聞く限りおそらくこの国でも指折りの強さといったところでしょうか』
(あれ?それって俺の両親って・・・)
『かなり有名な冒険者等だったのでしょうね。それは帰った時にでも聞いてみましょう』
うーん、帰らなくちゃいけない理由ができてしまった。まぁもともと無理をするつもりはあまりないんだけど。
「また頭の中でお話?ふーん、貴方の両親は何か隠していることがあるのね」
勝手に読むなよと思ったがここは街中でもない危険な街道沿いだ。そんな場所で考え込んでいるなら何か理由があると考えるのが当然だ。寧ろ俺の代わりに周囲の警戒を続けてくれていたことに感謝しないといけない。
「すまない、この魔物達が思いのほかあっさり倒せてしまったから少し考え込んでしまったんだ」
「確かに、街の冒険者はこんなのに苦戦していたって事かしら?もしかしたらたまたま弱い群れに当たっただけかもしれないわ」
その可能性もある。どの道まだまだ戦い足りないのでしばらく戦うつもりだが一先ず十分に戦うことができることはわかった。
「じゃあこの辺りの魔物狩りつくすくらいの気持ちで行きますか」
少し調子に乗ったかな?とも思ったが結局辺り一帯の魔物を狩りつくすまでの間最初に倒した魔物より特段強い魔物は現れなかった。
最後の魔物を倒した後周囲の様子を確認すると少し快適な感じがした。
「あれ?何か変わったか?」
『魔素の濃度が少し下がっていますね。一時的なものかもしれませんが魔物を狩ることの有用性が証明されたかもしれません』
いやー、困ったな。この街を魔物から解放できる方法が見つかったとなっては見過ごすってのも心苦しいな。
『その情報を持って帰るだけでも十分でしょう。どうやって証明するかは難しいですが・・・もう一度やってみせるしかないでしょうね』
(はぁ、面倒だけど仕方ない。今は非常事態だ)
魔物を倒すよりも面倒なことを押し付けられた気がして帰りの足は少し重かった。
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