第11話 やっぱり面倒ごとに

「えーっと、初めまして。執事の・・・」


「クレマンです」


「クレマン殿、突然の来訪とこのような無礼な提案を失礼で敢えて言わせて欲しい。どうかユカ殿をサウスの街まで行くことを許可して欲しい」


「むぅ、直球で来ますね、しかし駄目なものは駄目です。少なくとも安全が確保されないうちにお嬢様を向かわせたとあっては主様へ示しがつかない。貴方方にも理由があるのはわかりますがこちらもそれは同じなのです。それとも・・・何があってもお嬢様を守ってあげれるほどの実力があるとでも?」


『ここで決めれなければ駄目だと考えられます。はったりでもできると言うしかないでしょう』


「・・・あぁ、少なくともこの街で俺より強い奴はいない。これでいいか?」


完全に口から出まかせだ。この街の人の実力がどれほどかなんて全く知らない。


「なるほど・・・」


何かを頷いたような風に見えた。


『すぐ構えて、何か飛んできます』


すぐさま戦闘の構えを取り、俺めがけて飛んでくる複数のナイフを弾く。


執事はほう、とこちらを見ている。挨拶代わりの一撃と言ったところだ。


隣にいるユカは突然のことに狼狽えている。おいおい、こんな調子で大丈夫か?


『普段優しい執事の裏の顔が見えて驚いているといったところでしょう』


(なるほど・・・でもこの状況でユカを守りながらというのは厳しいな。どうしよう)


『館をあまり荒らすのは相手方としては好ましくないでしょう。最初の一撃で決めれなかった以上、向こうから何かしらの提案があるはずです』


本当かぁ?と疑いたくなったが俺が全ての攻撃を捌いたことを確認すると執事の方から語りかけてきた。


「失礼、不意を突くようなことをして試させてもらった。この程度でやられるようならその程度の実力だったということだ。だが君はお嬢様を守りつつ防ぎきってしまった。さて、次はお互い暴れれる場所でだ」


予想通りの展開になったことになんだか少し不満だが、一歩前進だ。


「わかりました。貴方が納得するまでお付き合いしましょう」


今度は広場のような場所へと案内される。そして合図をしたかと思うとぞろぞろと武装した人が集まってくる。大体20人といったところだ。


「さて、私を含めたこの人数を相手にしてもらおうか、今度はお嬢様も戦ってもらいますよ。少し時間をあげるので作戦でも考えてみてください」


『これは少し予想外ですね・・・まずはユカ殿がどのような戦闘スタイルか聞いてみましょう』


(それくらいは言われなくてもわかってるよ)


「俺は基本的なところは一通りこなせる。前衛でも後衛でもだ。君はどうだ?」


「魔法を活かした戦いは自信があります。近接戦もこなせなくはないですが本職の方には及びません」


(うーん、自衛のためにある程度訓練はさせているって感じかな?一人で戦うことはあまり想定してなさそうだ)


『この数相手ではある程度近接でも戦ってもらうしかありません。ここは魔法で狙われるリスクを承知で二人は離れなない方が勝機があると思います』


(確かにそうだな、それにこれくらいはできないと守りきれないよなぁ)


「そうか・・・だけど今回はそれをしてもらわないといけない。俺一人で抑え込むなんて不可能だ。囲まれることや魔法で狙われることを承知で2人で離れずに各個撃破していくしかない」


少しきつく言ったかもしれないがこれくらいのことをやる覚悟は持っているはずである。彼女は静かに頷いた。


「そろそろ始めましょうか」


「わかった」


具体的にどのような魔法を使うのかは分からない。こうなればなるようにするしかない。


「それでは始めるとしましょう」


執事の合図とともに兵士が俺達を取り囲むように展開を始める。


しかし、ただ囲まれるわけにはいかないのでユカに囲まれない位置を合図し、近づいて来る兵士をいなしながら逃げ回った。


だが室内であることに加え、それほど広くはないのでこれにも限界はある。兵士の練度が特別高かったわけではなくある程度距離を取れたので反撃開始だ。


「とりあえずこの辺にぶっぱなしてくれ」


細かい魔法は知らないのでこうするしかない。まぁ適当なものを使ってくれるだろう。


魔法の発動を察知した兵士たちが慌てて距離を詰めようとするがもう遅い、この俺を差し置いたことを後悔させてやる。


ユカに気を取られた兵士達を1人、また1人倒していく。5人ほど倒した時点で魔法の発動されることは諦め防御の構えを取っていた。


魔法は無事に発動され、辺り一面が暗くなる。どうやら視界を奪う魔法のようだ。視界を失った兵士は身動きが取れず、その場で構え続けている。


残りの兵士たちは距離を詰めれていないこともあってじっとこちらの隙を伺っているようだ。


しばしの緊張が流れた。このまま終わるってわけはないよな。執事が兵士たちの後方からゆっくりとこちらへ向かってきた。まだ戦える兵士たちに回復と補助の魔法をかける。どうやら魔法の腕もいいようだ。


(近づきたいが迂闊に近づけねぇ、そうだとは思ってたけど相当できる・・・)


『ここは出し惜しみはやめましょう。感覚強化の使用をお勧めします』


確かにそうだ、執事が魔法をかけ終わる前に俺は感覚強化を発動する。何度使っても世界が鮮明に見えるのは新鮮だ。


っと、そんなことを思っている場合じゃないな。ここからが本番だ。

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