第7話 厳しい試験
相手が動くことも考慮すると感覚強化を解除するにはいかない。徐々に溜まっていく疲労を感じながら潜んでいる相手へ近づいていく。
『そろそろ近づいてきましたね。もう感覚強化を使わなくてもよさそうですよ』
(確かにそうだな。正直もう少し早めにやめてもよかったかもしれない)
感覚強化を解除し、どっと来る疲れに多少の驚きはあったが想定の範囲内だ。
(くぅ、やっぱり何回も使うと辛いな。何度も使うのは今日だけにしておこう)
『ある意味実戦よりも過酷なことをしている気がしますよ』
それはそうだ。だが、それも踏まえて試験なのだろう。おそらく両親は俺が感覚強化を使えることを前提に色々と仕掛けてきている。
(あまりこのスキルに頼らない方がいいんだろうけど)
『そうですね。常時ここのスキルを使っても疲労感を感じないのならばそれが理想ですけどこのスキルの効果的にそれは無理ですね』
もうちょっと効果の弱いスキルならそういったデメリットも無かったのかもしれないが今更どうこうできるものではない。
・・・おっと今はそんなことを考えている場合ではないな。目の前の相手に集中だ。
感覚強化を解除する前の情報からするともう20メートルといったところだ。
(さて、どちらが潜んでいるか・・・だがそれによってこれから取る行動も変わってくる)
父であるティムはどちらかと言えば接近戦が得意で逆に母は魔法を使った攻撃が得意だ。
もちろん、得意というだけでもう片方も十分実践レベルで使うことができるから油断はできない。
(とりあえずこちらから仕掛けよう。向こうは俺の正確な位置は把握してはいないだろうから今しかない)
常に情報を集めているのは俺だけではない。こちらの情報がばれる前に仕掛けたほうが有利だ。
そう判断し、早速魔法の詠唱を始めようとしたとき、アンデレがそれを阻止する。
『可能性の話ですが、貴方が仕掛けようとする瞬間を狙っているということも有り得ますよ。明らかに一人だけしか補足できていないということに違和感を感じます』
(じゃあどうすればいいんだよ)
『もしも隠れているのが単独だった場合こちらの場所をばらすだけになりますが魔法の発動を途中で中断して動きを見るというのはどうでしょうか?狙われるならこの瞬間でしょうから』
(むぅ、確かに発動まですると大きな隙を生むからな。そこから対応しようとすると事前に感覚強化を使いながらでないとやられるな)
こいつの言うことは中々悪くない策だ。仮に相手が1人なら相手の位置がばれてもまぁ割となんとかなる。
(戦闘中だけは超がつくほど優秀なんだがなぁ、普段はお荷物なのが悔やまれる)
さて、戦闘へと戻ろう。アンデレの言う通り隠れている相手めがけて魔法を発動しようとする。そして発動直前というところで中断し、すぐさま周囲の様子を確認する。
『右です』
振り向く間もなく、何者かが接近しているのがわかり、すぐさま身体を傾け、間一髪攻撃を躱す。
そして攻撃してきた相手は母であるエマだった。訓練ではこのような潜伏技を見せてはくれなかったので完全に不意は突かれた。
だが、事前に警戒していたこともあって何とか対応はできた。問題はこれからだ。超接近戦ともいえる戦いがスタートした。
(今回のルールで直接の戦闘は2対1では戦わないことになっているからな、こうなってしまった以上親父は戦いに参加できないのはこちらにとってはありがたい)
『余計なことを考えている暇はありませんよ』
アンデレの言う通り、最初の攻撃を間一髪で躱したのはいいがそこから後手後手を踏んでいる。とてもこちらから攻めれるような状況ではない。
「ふふっ、いつまで避けれるかしらね」
涼しい顔からは想像できない鋭い攻撃が続く。魔法が得意というのが嘘なのでは?と疑いたくなる早業を何度も見せられる。
(それにしても近づいているのに気づけなかったのはなぜだ?)
『魔法で隠蔽していたのでしょう。今思い返せば何もないという不自然な状態があったような気もします』
普通、周囲から情報を入れるとき何かしらの音や光の情報が入ってくるがそこから特に何も感じないということはほとんどない。ましてこのような戦場ならなおさらである。
(違和感がないことに違和感を覚えないといけなかったのか。まぁ今はこれくらいでいい)
再び目の前の相手に集中する。一向にこちらに攻撃の隙を与えてくれない。何とか距離を取りたいがそうすると今度は今どこにいるか分からない親父がいつ襲って来るか分からない。
『半分詰んでいますね。賭けに出なければいけません』
そんなことはわかっている。こういう時にお前が考えるんだよ。と余裕の無さから自己勝手な考えが出てしまう。
『攻撃の規則性を読んでカウンターを狙ってみましょう。一度しかチャンスはありませんが貴方が反撃できない様に最善を取り続けているように見えるのでそこに付け込みましょう』
具体的にどの瞬間かどうかまでは俺が判断するしかない。なんだかんだ俺の身体を実際に動かすのは俺だからだ。
何度も攻撃を見切り、それに合わせた攻撃が続く。そしてアンデレの言う通り段々と規則性が見えてきたような気がする。
そしてついに予想通りの攻撃が来た。俺はそれに対してピッタリのタイミングで合わせる。これで攻守逆転だ・・・そう思ったのだが俺の剣は空を切る。
「あ・・・れ?」
直後、俺の腹で短剣が寸止めされていることに気付く。
「惜しかったけど詰めが甘かったわね」
母は俺に勝てたことで嬉しそうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます