第3話 面倒な相棒

『まぁまぁそう落ち込まずに。私は貴方のサポートを全力でします。悪いようにはしませんよ』


「それは間違いではないんだろうが迷惑なんだよ。さっきも言ったがお前は既に俺じゃない。別の誰かなんだ。そんなものが頭の中に常にいることの煩わしさ、お前も元俺なら分かるはずだよな?」


『全く分からないと言えば嘘になりますが・・・別の知識を入れる過程で私自身の性格も変わってしまったようですね。貴方の言う通りもう別人という表現もあながち間違いではないですね』


「はぁ、お前を黙らせて封印したいがすぐには出来なささそうってのはわかった。まだお前に聞きたいことがあるがいいか?」


『私との会話のためにわざわざしゃべらなくてもいいですよ。頭の中に話しかける感じで大丈夫です。それでスキルの一時的な解除や封印についてですが・・・残念ながら私の持っている情報の中にはそのようなものはありません。ですが、この世界のどこかにそのようなものがあっても不思議ではありません』


(確かに、一人でぶつぶつとしゃべるのは明らかにおかしいな。これからは注意しよう)


『並列思考のスキルも他のスキルと同様に成長の可能性はあります。どのようになるかまでは私もわかりませんが・・・』


(意外と知らない事も多いんだな。あの爺さんが敢えてそうしたのか?)


『本題に戻りましょう。貴方は今まで世界の危機に備えて訓練をしていた。そしてスキルも無事に取得できた。これからどうするつもりです?』


(そりゃあ、並列思考のスキルを好きなタイミングでだけ使える方法を探すことだ。最悪スキルを封印でもいいがそれはそれで不便そうだからな)


『なるほど・・・あくまで世界の危機は後回しと』


(並列思考のスキルさえまともだったら経験を積んでいくつもりだったさ。でもこのままじゃだめだ。俺の気が持たない)


『なんだかんだ理由をつけて逃げようというわけではなさそうですね・・・自身の存在を消すことに協力するのはあまり乗り気ではないですが世界の危機の方が重要な問題ですからね。私も協力しましょう』


(こいつはなぜそんなに達観してるんだ・・・まぁいい。とりあえずの目的は決まったな)


『(貴方の考えていることはわかりますがこちらの考えていることは貴方は認識できないということは黙っておいた方がよさそうですね・・・)』


(ん?何か言ったか?)


『いえ、なんでもありません。これからは貴方のために必要な情報を適宜お伝えしていくのでよろしくお願いします』


(はぁ、便利なんだか不便なんだかわかんねぇ。とりあえず俺にプライバシーというものが無くなったんだよな。気持ちの問題かもしれないけど)


『ぶつぶつ言っている暇はありませんよ。そろそろ晩御飯の準備が終わる時間です。早く掃除を終わらせなければ怒られますよ』


わかってるよ。と呟き、急いで掃除を終わらせる。が、その間も吹き残しがあるだのあそこの板痛んできているから近いうちに交換したほうがいいだの急いでいるの意味わかっている?と言わんばかりに突っ込みが絶えなかった。


急いでるのわかっている?と俺が問いただしても並列思考は『必要な情報ですので』の一点張りだ。必要って何だよ、とため息をつきながらなんとか掃除を終わらせ、自宅へと急いで戻った。


既に晩御飯の準備は終わっていて両親は俺のことを待っていた。


「遅かったじゃねぇか?何かあったか?」


「ちょっと色々ね。話すと長くなるから先に食べ始めよう」


「そうね、早く食べないと冷めちゃうからね。じゃあいただきます」


3人揃って食事前のあいさつをして晩御飯にありつく。今日も美味しいご飯ありがとうございます。


「で、何があったんだ?教えてくれ」


ティムに詰め寄られ、さっきスキルが開花したこと、何のスキルが開花したのかを伝えた。


「へぇ、感覚強化と疲労回復か相性よさそうな2つじゃないか。極めれば面白そうだな」


「2つも貰えるなんてついているわね。普通は0か1だというのに」


この世界でスキルを持って生まれることはあまり珍しいことではない。大体6割ほどの人が持って生まれている。しかし、複数持っていることは稀だ。


『並列思考のことは話さないのですか?』


(お前のことを話すとややこしくなるからな)


『そうですか・・・』


「どうした?何か考え事か?お前の授かったスキルのことなら心配しなくていい。所謂当たりの方だ」


「そ、そうなのか?」


もちろんこのスキルがハズレでないことはわかっている。考え事をしていると言われたが並列思考も会話中くらいは自重して欲しいよな。


『例え会話中であっても必要な情報であれば貴方に伝える義務があるので・・・』


はぁ、もういい。こいつがしゃべりかけてきたりしても普通の会話ができるようにならないとな。


「スキルが分かったのなら稽古の内容も変えねぇとな。もっと厳しくいくぜ」


「うおおおお。明日が楽しみだぜ」


『徐々に厳しくする程度だと思われます。スキルの扱いがまだ未熟なことも見越した内容になるはずです』


(なんだよ、せっかくやる気が出てきたのに冷めさせること言うなよ)


「ははっ、そのやる気はよし。だが、お前はまだスキルの扱いに慣れていないはずだ。どれくらい扱えるかを見て徐々に厳しくする」


並列思考の言ったことと同じことを聞かされ少しうんざりする。最初に親から聞くのとこいつから聞くのでは全然印象が異なる。やっぱ黙ってて欲しいよなぁ。


その後俺が実際にスキルを使ってみてどう感じたかについて話したりしているうちにあっという間に時間が過ぎていく。気づけば料理が冷めかけていた。俺とティムは慌てて食べたが、エマはなんとなく怒っていたように見えた。


(色々嬉しかったとはいえちょっと夢中になり過ぎてたな。まぁ親父も親父だけど)


『私は何度もそろそろ食事に戻ることを警告したはずですが聞かなかったのは貴方ですよ』


(うるさい。あの時の俺はこうしたかったからいいの)


部屋に戻った俺はため息をつく。普通に会話するときも一々どうでもいいことを突っ込んでくる奴がいるからだ。


(こんなのが続いてたらいつか発狂する気しかないな・・・やっぱり早いこと旅に出れるだけの実力をつけないと)


『貴方が発狂したり気絶した時は私が代わりに行動します。もちろん、自分の意思でそうしている場合、例えば寝ている時等では違いますが』


それを聞いてほっとする。少なくともこの情報は俺にとってマイナスになることはない・・・はずだ。


「さっさと寝よう。お前のせいで疲れた。寝ている間くらいは静かにしていてくれよ」


アンドレはゆっくり瞼を閉じる。視覚情報が入らなくなったからか俺が何か言い返しそうなことを思わない限り並列思考もこれ以上しゃべることはなかった。

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