第2話 スキル開花
「・・・あ、あれ?この記憶。そ、そうだ俺はよく分からない老人に言われてこの世界に来たんだった」
10歳の誕生日の朝、突然甦る前世の記憶に戸惑う。それもそのはずだ。今までの10年の記憶とは別の記憶が急にどこからともなく現れたからだ。
しばらくどの記憶が前世かどうか混乱していたが徐々に落ち着きを取り戻す。そして自分がやるべきことを思い出す。
(そういえばあの老人世界を救ってくれと言っていたな。今までの生活ではそんな危機らしい危機はなかったがこれから起こるのか?)
信二は転生した後アンドレという名前で育てられた。アンドレとしての自我が芽生えたのは3歳頃だったがそれからの7年間彼の周りは平和そのものだった。
「それはそのうちわかるだろう。あの爺さんも言っていたしな。そういえばスキルも徐々に開花してくと言っていたが・・・これは今すぐという訳ではなさそうだな」
記憶を取り戻したアンドレはこれからのことについて計画を立てる。何せ世界を救うのだ。生半可な訓練では立ち向かえないだろう。そしてスキルの以外のことでどう自信を鍛えることができるのか、この世界の環境と前世の知識を総動員して計画書を作成した。
「とりあえずこれでいいだろう。後はスキル次第で計画を変更していけばいいかな」
思ったよりもページ数の少ない計画書になってしまったがまぁこんなものだろう。何せこの世界のことは知らないことの方が圧倒的に多いのだ。
書き終わった計画書を読み返しているとノック音が聞こえる。もうこんな時間か、続きは明日にしよう。
「ご飯よー」
俺の母親の声が家の中で響き渡る。扉を開けると既に母親はいなかったがご飯のいい香りがした。今日も美味しいご飯を期待できそうだ。
居間へと向かうと既に母親と父親は俺のことを待っていた。それを見て急いで着席する。
俺の着席後すぐに食事が始まる。匂いでなんとなく想像はできていたが今日は鶏の丸焼きとスープとパンだ。ものすごく豪華というわけではないが不満に感じたことはない。何不自由なく育ててくれる両親には感謝しかない。
暫くはいつもの食事という感じだったが急に母親であるエマが質問を投げかけてきた。
「部屋の中で何かぶつぶつと言っていたようだけど・・・何かあったの?」
部屋の外まで聞こえてたのか。と少々迂闊だったと反省するが問題は今ここでどう返すかである。急に前世の記憶が戻ったと言っても頭がおかしくなったと思われる可能性もあるし困ったが・・・
「どこかの御伽噺では魔王とかが世界の平和を脅かすようなお話があったけどこの辺りでも同じようなことってあるのかなぁって思ったの」
俺の発言にエマと父親であるティムはお互いのことを見たかと思うと大笑いした。笑い終えたティムは俺の方を見て
「いや、面白いことを言うね。確かにそういう話はあるけどこの世界は平和そのものだ。少なくとも今はね。遥か昔では争いの絶えない時代もあったらしいんだけど・・・あまり文献も残ってないから本当かは分からない。それに魔物は確かにいるが人の住む領域にいるものの強さは知れている」
ティムの発言は今までに俺がこの世界で得た知識と特に変わらない。どこを調べても同じだ。やはりこの世界は今は平和そのもので危機が訪れるとしたらこれからなのか。
いつ来るとも分からない危機を前に俺は両親に冒険者としての腕を磨きたいと言い、特訓の日々が始まった。
特訓が始まり、日々成長を感じれていたのだが・・・そんなある日事件は起こった。
「よし、今日はこれくらいにしておこう。毎日成長を感じれて嬉しいとは思うが程々にしないと怪我するからな。先に戻ってるから後片付けを頼む」
ティムからは主に剣術を学んでいる。彼は昔、冒険者をやっていたこともあって剣術の基本を一から教えてくれている。そのかわり、こうして稽古で使った剣の手入れ、訓練場の掃除などは全部俺がすることになっている。
「今日も疲れたな。父さんは俺のことをちゃんと見ていてくれて丁度いいところで切り上げてくれる。流石としか言えないな」
父親に関心しつつ、掃除をしていたのだが、突如身体に違和感を感じた。どこか痛めたか?と思ったがどうやら違う。何か新しい世界が開けてくるような不思議な感じに包まれた。
(もしかしてスキルが開花したのか?)
徐々に違和感は収まっていき、何事もなかったかのように静かな訓練場に1人立ち尽くしていた。
「と、とりあえずスキルを調べてみないと・・・でもどうやって?」
まだこの世界に来てからスキルのことについては詳しくは勉強していない。ある程度経験を積むとスキルに目覚めることがある、程度の知識しかない。とりあえず両親に聞いてみよう。そう思って駆け出そうとしたとき、どこからともなく声が聞こえてきた。
『スキルについてですね。私の方から説明します。おっと自己紹介が遅れましたね。私は貴方のスキル並列思考によって生み出された。もう一人の貴方とでも言うべきでしょうか』
『私は神より貴方に授けられたスキルであるため通常の並列思考とは異なり、貴方が知らない事でもこの世界の知識を持っていることがあります。但し、全てを知っているわけではないので悪しからず』
おぉ、随分と便利なものをくれたものだと感心し、並列思考に話を続けるように伝える。
『ではスキルについてですね?貴方の持っているスキルは3つです。1つ目は並列思考。これは先程説明したので割愛します。2つ目は感覚強化。これは簡単に言うと一時的に五感の機能をあげることができるものです。使うと多少の疲労感に襲われますが訓練次第で強化は可能です。そして最後は疲労回復、これは言うまでもありませんね。他の人よりも疲労の回復が早くなります』
「なるほど、とても参考になった。2つのスキルについても今使うことはできるか?」
『はい、感覚強化は心の中で使うと意識すれば自動的に発動されます。そして疲労回復のスキルは常に発動しているタイプなので特に気にする必要はありません。ちなみに並列思考のスキルも同様です』
「なるほど、じゃあ試してみよう」
(感覚強化!)
心の中で意識すると途端に周囲の景色が何か違って見えるような気がした。外から聞こえてくる虫の鳴き声、地面に転がっている石ころの形、そして周囲の風の流れ、遠くから微かに香る晩御飯の匂い。普段なら感じ取れないものを感じ取れる不思議な感覚に包まれた。
感動して周囲から情報を得ようと歩き回ろうとしたがそこでスキルが切れたのかいつも通りの景色に戻り、疲労感に襲われる。元々稽古で疲れていたこともあって少しふらついてしまった。
『どうでしたか?上手くいったようには見えましたが』
「あぁ、すごい。こんなスキルをくれた神には感謝しないとな」
『それはなによりです』
「ところで、お前は俺の考えていることもわかるんだよな?」
『そうですが・・・何か問題でも?』
「お前は俺から生まれたものかもしれないが俺から切り離された時点で別人みたいなもんだ。正直気持ちが悪い。俺が許可した時しか俺からの情報は受け取れないようにしてくれ。同様に俺がスキルを使っている時だけこうやって応答してくれ」
並列思考はすぐに言い返してこなかった。何か問題でもあるのだろうか?
『先ほども言いましたがこのスキルは常時発動タイプです。貴方の命令にはなるべく従いますがその命令には従うことができません』
そういえばそんなことさっき言っていた・・・え?これこのままなの?
「なんとかならないの?」
『無理です。これからよろしくお願いします』
訓練場に「なんでだよおおおおおおおおお」と悲痛の声が響き渡った。
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