第5話 決断
ホテルのドアを開けた彼は、獣みたいに荒々しくキスをしてきた。
「まっ……んんっ……ああ……」
びっくりして背中をバンバン叩いてもやめない。僕の全てを貪りつくすような強引なキスだ。
こっちは、ファーストキスだったんだぞ。
舌を入れられ、口蓋や、歯茎をなめられ、唇を柔らかく嚙まれ、唾液の交換をして……全身の皮膚が泡立つ。何なんだ、この感覚……。
服の間から、そっと手が伸ばされまるでAV女優みたいに乳首もいじられだした。
「やめっ……」
そう言っても彼は、止まらない。
自分は今、誰かにこんなにも求められている。
こんな真夜中に一人ぼっちじゃない……。
空っぽのグラスに並々とお酒を注ぎ込まれたように満たされていく気がした。
彼の名前は、響とだけ聞いた。
響とは不定期に連絡が来て、その度に嵐みたいに抱かれた。彼に抱かれるたびに、身体は満たされたが、彼は僕を愛していないことを思い知るたびに、心は飢えていった。
* *
響に出会ってから半年ほど過ぎた。ある日、コンビニでふと雑誌コーナーを見ると、週刊誌の表紙に彼らしきシルエットを見つけた。
令和の歌姫DUSTY 天才作曲家ヒビキと熱愛!!
でかでかとそう書かれていた文字を見て、心臓が凍り付きそうになった。
響だ。
響は、作曲家だったのか!しかも、僕でも知っているレベルの有名な曲をつくっている!!
そして、DUSTYも当然知っている。彼女は、17歳の時に突如オーディションで合格してデビューをした天才的な歌手だ。彼女の曲は、動画サイトでは一週間で一億回も再生され、数々の曲を置いて一位にダウンロード数輝いた。このことは、令和事変として語り継がれている。そして、街を流れる曲も彼女のものは多い。その彼女と響が熱愛!!!
現在、彼女は22歳であるため、未成年というわけではない。
天才同士お似合いのカップルだ。
家に帰って、ヒビキについて調べると、西条寺グループの長男でありながら家を出て作曲家になった異色の天才として様々な記事があった。
どれも輝かしい功績について書かれていた。
それを読むたびに彼は、僕から遠い人のように思えた。
もう終わりにしよう。
彼とは住む世界が違うんだ。
彼にとって僕はただのセフレだ。
僕は利用されているだけだ。愛されない。
彼との関係に未来なんてない。
次に会ったら、彼に別れを告げよう。例え一人ぼっちに戻るとしても、全部、やり直そう。
婚活を頑張り、共に生きていく人を探そう。
お金目当てでも、かわいくなくてもいい。誰かと結婚して、彼のことは忘れて生きていこう。
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