呪われた斧によって魔法が使えず魔王一族を追放された魔族幼女、偶然にも救ってしまった魔女から100年間殺され続ける修行を受け、逆に呪いの力で“世界の覇者”となる

リリーキッチン百合塚

第1章 先を往く魔女、追う幼女(前)

第1話 2人の囚人

 牢獄が並ぶ洞窟の奥。そこに2人の囚人がいた。


 ひとりは赤い髪がギラつき目立ち、背は160cm程で顔の若さは20代程の女性。肌は白いが衣装が顔以外手足首全てが長袖の黒いローブであり体格を読みにくい。その面妖な身なりはまさしく魔女のよう。


 そしてもうひとりは、に左右のこめかみから羊の角、輝く銀色の髪、加えて煌びやかな装飾が付いているが、その輝きに似合わぬ数多の裂けた傷が目立つ歪なボロ布を着た背筋の小さい8歳程の少女だ。


 ここはとある山賊のアジト。

 牢獄は車輪の付いた移動式のモノで、赤髪の女性が囚人を隔離するための部屋に送られた後、数日の間を開けて紫肌の少女もまたここへと運ばれた。

 どうにも看守は離れた部屋に移動しており警備がガサツである。



「貴女も災難ね。あんな賊に捕まるなんて」



 何時間もの間無言のまま言葉ひとつ交わさなかった彼女たちであったが、赤髪の女が声をあげた。




「……」



 しかし、返事はなかった。

 誰かに見捨てられ絶望に堕ちた光が入っていない目をしている。そもそも答える気力がないのだろう。

 衣服から察するに、貴族の家の娘だったが不幸をきっかけにその身分を失い、最終的には奴隷商人か何かの商品として仕入れられてしまったと考えられる。


 

「アタシはセレデリナ。苗字はないわ。でも、〈返り血の魔女〉ってみんな呼んでる」



 看守等、周囲の反応は特にない。


 おかげで悠長にしていても問題ないことを理解した彼女は、唐突に自己紹介を始めた。ここへ隔離されて数日間、孤独に暇を持て余していたようだ。


 そして、赤髪の女性――セレデリナはここに連れ込まれた経緯と自らの出自を語り出す。









「アタシはね、この世界で最強の女なの」









 それは、世界中の誰もが口にしない言葉から始まった。


 ……たとえ自負していたとしても、そんな大仰おおぎょうな発言、端的に言って不恰好ぶかっこうである。

 しかして彼女の瞳は真摯かつ真っ直ぐで、冗談には聞こえない。ただただ真実を語っているようだ。



「しかも不老不死でいまや1334歳。自分より強そうな奴を狩り続けて世界中を転々とするのが趣味よ。基本的に適当な村に取り憑いてそこで便利屋をやるんだけど、1年もしないうちに村全体で神様みたいに崇拝されたり恨まれたりで居心地が悪くなって、気づけばそこを離れてるわ。なんて言うか、今まで生きててってのを持てたことがないのよ〜」



 そこから続く彼女異質な自分語りに、ホラ吹きかなにかなのかと紫肌の少女は困惑したが、



「賊に捕まっておいて、どうして自分が最強だと言えるのだ?」



 同時にどこか可笑しく、閉ざしていた心が動き始める。



「よかった、話せるじゃない」


「お主の言葉に信憑性がないのが悪いのだぞ」



 紫肌の少女は喋りが貴族や王族の長のように豪いえらい雰囲気を醸し出していて、外見に似つかわしくないなとセレデリナは思う。もちろん自分を最強だと豪胆ごうたんに語る彼女も大概ではあるが。



「あぁ〜そうねぇ〜。いつも通り便利屋をやってたら、ある山奥の村で食事を摂ってる隙に魔法式の拘束具を付けられて、気付けばこの移動式の牢獄にいたわ。何でか知らないけどアタシの力じゃどうやってもこじ開けられないのよ。屈辱で仕方ないわ」


「ふむ」


「アタシに恨みのある貴族が回りくどく動いてて、今は村から仲介業者をやってるここの山賊に管理が移されたってところじゃないかしら?」


 

 その話から、軽く相槌を打っていた紫肌の少女は疑問を浮かべる。



「お主ほどの強者が何故拘束を食らったのだ?」


「んー、説明するのも恥ずかしいけど、アタシって食いしん坊でね。そういう時って初撃を許しちゃうのよ。ま、恥をかかされるのが嫌だから普段ならそんな裏切りを受け次第周囲を血祭りにあげてさっさとそこから離れるのが普通だけど」


「ぶ、物騒なのだ」


「あと、この牢獄ってどうにも外側にあるスイッチを押すとよくわかんない毒が流れてアタシを殺せるようになってるみたい。なんかアタシを倒すだけのために作られた特殊兵器って感じ?」


「なるほど。お主を陥れた者はかなり計画的に動いているようであるな」


「そうそう。敵がこの牢獄にアタシを入れたのは公開処刑が目的な気がするのよね。便利屋をやってると貴族だけじゃなくて商人とかギャングとか、アタシのことを稼ぎの邪魔だって恨んでくる奴が嫌でも出てくるし、多分そいつらの前で見せしめとして殺すつもりなんじゃないかしら。ボタンひとつで殺せるんだから、捕まった以上相手が一方的に有利。ホント何なのかしら」


「〈人族ヒューマンズ〉の技術かもしれぬな。余たち〈魔族デーモンズ〉と比べ極端に優れておる」


「ハハ、そんな気はするわね。じゃあアタシの話はこんなところよ」



 自分の事情を赤裸々に語れたのかセレデリナは妙に満足気だ。どうにも孤独であることを好んではおらず、常に誰かと関わっていたい人間のようにも見える。


 そして、お互いに話が弾んできたのか、紫肌の少女もまた自身の出自とここまで来た経緯を語り出した。



「余はアノマーノ・マデウス。“世界の覇者”を目指す者なのだ」

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