第142話.戦争ノ終結

明而四十一年、六月十二日。

米国と清国が間に入り、第一回講和会議が開かれた。そこで、それ以降の戦闘行為は禁止され、講和条約の締結に向けて両国は動き始める。


戦争は終わったのだ。


ルシヤのソコロフ少将ならびに副官のソコロワ少佐は、穂高進一中尉との交戦で捕虜となった。

ルシヤが最後まで温存していた虎の子の毒ガス兵器は、ウナ二等卒が率いるニタイの民の別働隊が発見、鹵獲した。

頼みの綱を失ったルシヤ軍は、攻撃を停止。睨み合いのまま、講和会議の時を迎えたのである。


そして何度かの会議を経て、ついに七月十日に日露北部講和条約が結ばれた。


条約の内容として、大まかな約束事はこうだ。ルシヤ帝国は北部雑居地の権利を放棄し、日本の領土として認める。両国は、お互いの戦争での損害を請求できない。

この二つである。


日本皇国は戦争に勝利したとはいえ、それはひとえにルシヤ帝国が本腰を入れていなかったためだ。ルシヤが犠牲と利益を天秤にかけた結果、北部雑居地から手を引くという選択をしたに過ぎない。

痛み分けのような講和であった。

そこには、日露両国どちらにもパワーバランスが偏って欲しくない清国の思惑もあったと考えられる。


戦後の、それぞれの行く末を少しだけ見ていこう。


まず今回の戦争の首謀者とも言える、ルシヤ帝国の将軍、ソコロフ少将。そして、その娘であるルフィナ・ソコロワ。

彼らは戦後、捕虜返還によって帝国に戻る事となった。彼らは裁かれる事は無かったが、辺境に飛ばされ、閑職に左遷された。


ウナ、そしてニタイの民。

彼らは今回の活躍により、広く日本国内にも存在が知られるようになった。北部雑居地の北部、以前ルシヤの勢力圏にあった土地を、日本政府から貸与され、そこを自治区として生活の拠点にしている。

前首長は引退し、ウナが新しい首長として日本との交渉を一手に担っている。


吾妻勝少尉。

戦後も陸軍に残り、狙撃隊の流れを汲む特殊部隊の養成に携わる事となる。


吉野吾郎。

彼が会長として立ち上げた銃後会は戦後も解体されずに形を変えて残り続けた。軍隊の払い下げ品の売買や、港の船の積荷の上げ下ろしなど、一般にはできない商売を管理して利益を上げて急成長を果たす。

また自治組織として側面から、表では取り締まりきれない、裏の人間たちを独自に管理する組織となった。


天城信之少尉。

ルシヤの捕虜になっていたが、捕虜返還によって帰国。


浅間国光中将。

怪我を理由に引退を目論むが、陛下から反対を受けてまだ陸軍にいる。


穂高進一。

目には何の傷も残らなかった。視力も元に戻り、鷹の目は健在である。

五年後、彼は札幌総合学校の教官となり、赤石校長の下で新しい士官候補達を教育する事となった。

そして。


「ただいま」


軍帽を脱ぎ、玄関を開ける。


「あ!父上、おかえりなさいませ」

「おかえりなさい」


無邪気な顔で、彼らは私を見て微笑む。


「うん、ただいま。明継(あきつぐ)、明子、今帰ったよ」



……



最後に明而のルシヤとの戦争を駆け抜けた一人の将校の、穂高進一の足取りを記す。


・明而18年

穂高進一誕生


・明而31年

穂高13歳

初狩猟に出る


・明而34年

穂高16歳

羆事件を経て役場勤務


・明而36年

穂高18歳

北部総合学校へ推薦、札幌へ。初夏に入学する。


・明而38年

穂高20歳

一月、雪山合宿

三月、兵科の決定

夏、ルシヤ人街に火災。

緊急的措置により、学校の卒業が早まり教育隊へ配備される。


・明而40年

穂高22歳

四月、出征。第十一特設聯隊は雑居地北部のウラジイポニを目指して進行。穂高は少尉に任官する。

晩春、日露で停戦協定を結ぶ。

夏、十八歳の明子と結婚。

十一月、浅間中将狙撃事件発生。

十二月、ルシヤが停戦協定を無視して日本軍の塹壕地帯を占領。戦争が再開される。


・明而41年

穂高23歳

一月、前線の塹壕地帯を奪回。ルシヤ軍による毒ガス攻撃が行われる。海軍ではルシヤ艦隊の封じ込め作戦に失敗する。

三月、穂高中尉に任官。会戦が行われ、明而陸軍は後退を選択。

五月二十五日、黄海海戦で日本海軍の勝利。

六月十二日、第一回講和会議。

七月十日、講和条約の締結。






※※


ここまで応援頂きました皆様、ありがとうございました!これにて当作、第一部『完結』とさせて頂きます!

「もっと読みたい!」と感じて頂けたでしょうか。それともうまく締まったでしょうか?

もっと詰め込みたいところはあるので、機会があれば間々の話なども書き足せたらなぁとは思っています。


さて幼年から始まった穂高進一の半生はいかがだったでしたか。このタイミングで、是非ご感想、レビューなど一言でも良いのでお願いします。余韻冷めやらぬうちに、一つ手を止めてよろしくお願いします。


ここがよかった、ここはもっと掘り下げて欲しかったなど、ご意見もお待ちしています。



また、続いて第二部を進めようと思っております。そちらの方は原稿はいくらかあるものの、まだ書き溜めが完全ではないので毎日更新で最後までというのは難しいかもしれませんが、また応援の方お願いします!

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