元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと日本〜
えるす
第1話.出征ノ時
長いトンネルを抜ける。
一瞬真っ白になった後に現れたのは、どこまでも続く一面の緑。濃淡様々な色が、後方へと流れて行く。
汽車が止まった。黒い制服を着た向かいの青年が、窓を開けて手を振り叫んだ。
「おうい、おやっさん、弁当ひとつ」
首から木箱を提げた、ひょろりと痩せたおやじが窓へ近づいて来る。青年は五と打刻された、銀色の貨幣を駅弁屋に手渡した。引き換えに弁当と呼ぶには少し見窄らしい茶色の包みを受け取っている。大きな米の握り飯が二つ、どんと入っただけの代物だ。
開けた窓からはひやりとした空気が流れ込んでくる。晴明の節気(四月五日)を過ぎてなお、この北の地ではまだ雪の残る場所も多い。
「それじゃあ失礼して」
その言葉は私に向けてだろうか、前の青年が握り飯にかぶりついた。美味そうに頬張っているが、乾燥した飯は固そうだ。
前の彼に興味を失った私は窓を眺める。しばらくすると、力強い汽笛と共に黒煙を上げ汽車は再び発車した。
ゆっくりとした自然な走り出しは、機関士達の腕の見せ所なのだろう、見事な職人技であると感心する。
再び心地良い振動が始まった、目的の駅までは後どれくらいだったか。少し眠ってしまおうか。
ああしかし私は汽車に揺られ、戦争に征くのだ。全く良い気分ではない、本当に戦争なんてしない方が良いに決まっている。
それでも、私は戦争に赴くのだ。
何故か、何故だったかな。
二度とこういう仕事はすまいと思っていたのだが。まあ結局は、とどのつまりはそういった性分なのだろう。
前の席の青年は帽子を深く被り、いつのまにか寝入っている。私は窓の外を眺めながら、自らの運命を思い返していた。
……
明治。
国民が、士族も農民も商人も、すべからく『国民』である事を自覚し、出自に関わらず身を立て国家を背負わんとした時代。
国民が、国そのものが一丸となって急速な近代化を成し遂げ、近代国家に並ぼうと背伸びをした時代。
そんな激動の中で、極東の小さな島国が存亡の危機を迎えようとしていた。我々の知る史実の、ほんの僅かにズレた世界。
そこに輪廻を成した男は何を考え、何を成すのか。我々はこの戦争を知るには、一人の兵の生まれから追う必要があるだろう。
「穂高進一(ほたかしんいち)」
北の地に二度目の生を受けた男は、何を考え何を成すのだろうか
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