第2話 この気持ちの名前

次の日の教室で、沖田という男子を探してみた。


私の席から、右ななめ前方向。


朝練を終えて帰ってきたのか、額には汗が見える。


改めて見ても、由衣の彼氏の一輝みたいな、目立つタイプではない。別に地味なわけでもないけど、今まで気にもしてなかったような男子。



でもよく見たら、肌はきれいだし、優しそうな二重まぶたは吸い込まれるような魅力がある。男子の友達も多いらしく、一輝や竜太あたりとも仲良く話していた。


見ていれば見ているほど、彼に引き込まれるようで、もっと知りたい、関わりたいと思ってしまう。家に帰って、クラス名簿を引っ張り出した。




あった。出席番号七番 沖田拓海おきたたくみ



「拓海っていうんだ。」


たくみ、たくみ、と口に出してみる。


動悸が止まらない。この気持ちを何というか、言われなくても分かってる。


十五才、私は、まだ話したこともない男子に、驚くほど簡単に、



恋に落ちた。








 「恋をしたら世界が変わって見える」


ラブストーリーに、恋愛ソングに、必ずと言っていいほど登場する、ありきたりな言葉。


でも実際に、彼に恋してから、毎日が眩しいほど輝きだしたんだ。


彼に会いたい。顔を見たい。声が聴きたい。

学校に行くのが、楽しみで仕方ない。


 彼の成績が優秀だと聞いたから、近づきたくて、久しぶりに机に向かった。授業も聞いたし、テスト前は真っすぐ家に帰った。



 私が教室に残らないことに由衣は驚いていた。でも彼女だってどうせ一輝と二人で帰るんだ。私の恋路を邪魔する資格はないはずだ。

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