ドルヲタサブロー
@nakaune
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コロナ前だった。
握手券をどうにか手に入れて会場に居た。
広い会場にいろんな種類の人間がいて、僕と同じような年恰好もいる。
それでも緊張がやわらぐことはなく、どうすればよいかわからずあっちへ行ったりこっちへ行ったりしていた。
その結果、たぶんここに並べばいいはずだと判断して何人か並んでいる列の後ろについた。
でもやはり心配だった。
いつもだったら引っ込み思案で人に話しかけたり出来ないのに、前に並んでいる人に思わず声をかけた。
それだけ気分が高揚していた。
「あのう、ここに並べば握手出来るんですか。」
僕の声に振り向いた人は、ちょっと中年になりかけの少し太り気味の優しい顔をした人だった。
「たぶん。」
え?もしかしてこの人も初心者?
それにちょっとおどおどしているようだし、無口そうだ。
気まずい時間が流れ、前を向いてしまった。
うーーん、困った。何も解決できない。
深呼吸して落ち着こう。列が少しづつ前に進んでいる。どうしよう。
後ろに人が来て話かけるチャンスが来た。
こんどは、ちょっと元気が良さそうな感じの人だ。またしゃべりかける。
「ここは良く来られるんですか。」
質問を変えてみた。
「いや、私、初めてなんですけどね、○○の握手会は良く行ってます。」
え!?でも少しは勝手がわかっているかもしれない。
「ここに並んでいればいいんですよね。」
「ああ、そこで握手券と証明できるものを見せるパターンじゃないかな。」
少し前にテーブルがあって、スタッフらしきが二人座っている。
なるほど。あそこで券を出せばいいのか。
「君、初めてなんだ。」
「そ、そうなんです。何もわからなくて。」
「最初は緊張するよね。よくわかるよ。」
そう言って周りを見回している。明るい感じの人だ。
本当はもっと話したかったけど、緊張で口の中がからからになってきて、つぎにしゃべりだせないでいた。
そのうち、その人は携帯をいじりだした。
しばらくするともうスタッフのすぐ近くまで来ている。
前の人が握手券と運転免許証らしきをスタッフに出した。
よくみると手が震えている。
僕より10歳以上は年上に見えるのに緊張するものなんだと思ってなんかちょっと安心した。
その時、先頭の先にななちゃんがちらっと見えた。
どきっとした。
本人だ。初めて近くで見ることが出来た。顔が輝いてる。白い洋服も見えた。
僕も手が震えるかもしれない。
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