龍と鳳凰

満﨑敢太

序文

はじめに、龍があった。


この惑星の長い長い時間の中で、まだ知恵の少なかった動物や植物たちは生きていくために助けを求めた。


その祈りが、大地に、海に、空に届いた。


神秘の力は少しずつ形を作り、それは龍となった。


龍は惑星のいのちが生きていくための、力となり知恵となった。


食う食われるの円環を崩すものたちがいれば間引き、日照りが続けば雨を降らせ、強すぎる病が流行ればそれを鎮めた。


良くないことを考えるものは改めさせ、改心ができないものは罰した。


龍は孤独だった。


次第に龍は、対等に語らう相手を探し求めるようになった。


虫たちは語りかけても、冬を越せずに死んでしまった。


魚たちに語りかければ、それを疎んだ獣に食われた。


獣たちに語りかけると、畏れられるばかりで話にならなかった。


鳥たちに語りかけても、良くされるとわかれば無礼な態度ばかりだった。


龍はいきものたちの良き長であったが、よき友ではなかった。


決して疎まれていたわけではない。


しかし龍はいつでも、彼らにとっての守護者であり、決して友人ではなかった。


次第に龍の力は及ばなくなり、星の生き物たちは飢え続けた。


孤独に耐えかねた龍は自らの身体を削り、大きな痛みと共に伴侶をつくる。


それは鳳凰と呼ばれた。


龍の半身である彼女は、決して龍に守護されるだけの眷属に甘んじることを良しとしなかった。


龍を相手にしても違うものは違うと言い、対等に向き合った。


そして鳳凰は自らの祖である龍を慕い、心の底から愛した。


龍は神秘の力を取り戻し、鳳凰と共に命を導き続けた。


やがて時は流れ、命は形を変え、自分たちで生き方を見つけた。


惑星にも穏やかなときが訪れていた。


そして人が生まれた。


彼らは賢く、自分たちの手で文明を築き、ほかの命ともうまくやっていくことを覚えた。


龍は星の全ての命たちを、途方もない長い時間、見守ってきた。


疲れ果てた龍は、鳳凰と共に穏やかな眠りに入りたいと願った。


「わたしたち人間に神秘の力を預けてくださいませんか。きっとあなたのようにこの星の命たちを導きます」


龍は自らの最も信頼できる人間に、神秘の力を扱うための身体を授けた。


2本の角。手足には普通よりも1本多い5本の指。神秘の力を意のままにする尻尾。


これがのちに、魔導士や魔女、鬼や呪いといった、おとぎ話に登場するようになるものたちの正体である。


この世界の秘密を少しだけ明かした。


物語はそう、ここから始まる。

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