第二章 わたしの妹は超絶カワ(・∀・)イイ!!ツンデレ魔法使い!

第19話 形に残る思い出を

 王立魔法学園入学式当日の早朝。わたしはいつもより早起きをしてログハウスの掃除をしていた。


 王立魔法学園は全寮制で、卒業までの三年間はここへ戻ってくることはないかもしれない。食器を棚からおろして箱に詰めたり、本に埃が被らないようシーツをかけたりと、一通りの作業を済ませていく。


 すると、寝室からひょっこりとミナリーが姿を見せた。まだ眠たそうに目をこすっていて、髪にはぴょこんと寝ぐせも見える。いつもわたしより早起きなミナリーの貴重な寝起き姿だった。うん、わたしの弟子は今日も超絶可愛いね。


「おはようございます、師匠。師匠がこんな時間に起きているなんて珍しいですね」


「おはよ、ミナリー。実はドキドキとわくわくであんまり眠れなかったんだぁ」


 ミナリーと一緒にお布団に入ったけどなかなか寝付けなくって、ようやく眠れてもまだ外が暗い内に目が覚めてしまった。


「だから昨日忘れてた掃除をしちゃおうかと思ってね」


「なるほど。手伝いますか?」


「ううん。もうちょっとで終わるから、ミナリーは朝ご飯を作ってくれると嬉しいな」


「わかりました」


 ミナリーは顔を洗いに行って、お台所に立って朝食の準備を始めてくれる。わたしが掃除を終わらせる頃には、食卓には美味しそうな朝食が並んでいた。


「わぁ、サンドイッチ!」


「食材を使い切ろうと思ったら結構な量になってしまったのでお弁当もあります」

「じゃあロザリィ様やニーナちゃんにも食べてもらえるね!」


「そうですね。……口に合うといいんですが」


「大丈夫だよ! ミナリーの料理の腕は五年間手料理を食べてきたわたしが保証するから! あ、でもミナリーの料理もこれでしばらくお預けかぁ」


「寮には食堂があるらしいですからね」


 王立魔法学園の設備は充実していて、特に寮の食堂は二十四時間いつでも美味しいご飯が食べられるってもっぱらの噂だった。


「それはそれで楽しみだけど、ミナリーの料理が食べられなくなるのは寂しいなぁ」


「師匠がどうしてもと言うなら、お休みの日や暇な時に厨房の施設を借りて作ってあげないこともないですよ」


「ほんとっ!? ありがとぉ、ミナリー! お料理上手で心優しい弟子を持てて師匠は幸せ者だよぉ~」


「師匠はいつも幸せそうですね」


「うん! ミナリーと居る時間はいつも幸せだよ!」


 どことなく小馬鹿にされたような気もするけど実際に幸せだから力強く頷いて見せる。するとミナリーは近くにあったお盆ですっと顔を隠した。


「ミナリー? どうしたの? 急に顔を隠しちゃって」


「なんでもないです」


「あれれー? もしかして照れちゃったのかにゃ~?」


「照れてないですっ」


 お盆で顔を隠したままのミナリーをニヤニヤしながら見つめる。やっぱり幸せだなぁ。


 そうこうしながらサンドイッチを食べている内に、そろそろ出立の時刻が近づいていた。入学式はお昼前だけど、それまでに入寮の手続きをしなくちゃいけない。


 食事を済ませたわたしたちは、それぞれ支給されたばかりの真新しい制服に袖を通した。黒地に赤いラインが入った王立魔法学園の制服は、ローブを合わせると魔女帽子をかぶれば絵本に出てくる魔女のような見た目になる。


 憧れていたこの制服をミナリーと一緒に着られるなんて、感無量だなぁ。


「似合ってますよ、師匠」


「えへへ、ありがと。ミナリーも似合ってるよ」


 二人で並んで鏡の前に立ってみる。うぇぇん、感動しちゃう。鏡に映ったわたしたちを切り取って一生残せればいいのに!


「……師匠、この鏡使えなくしてもいいですか?」


「えっ?」


「〈鏡面保存フォトグラフ〉」


 ミナリーが唐突に何かの魔法を放つ。すると眩い光に視界が一瞬だけ遮られて、次に目に映ったのは鏡に映るわたしたち。……だけど、あれ?


「鏡の中のわたしたちが動いてないよ?」


「光系統の魔法で鏡に映った私たちの姿を焼き付けたんです。もう鏡としては使えませんが、この鏡が割れない限りはずっと私たちの姿はこの鏡の中に残り続けます」


「えぇっ!? じゃあもう他の鏡には映らないってこと!?」


「そういうわけじゃないです」


 あ、違うんだ。別の鏡に確かめに行くと、ちゃんとわたしの姿が映りこんだ。理屈はよくわからないけど、あの鏡だけ、鏡の中のわたしたちが動かないようにしたってことかなぁ?


「ミナリー、こんな魔法いつの間に作ったの?」


「……少し前に、師匠との思い出を何か形に残したいと思ったんです。それで色々と考えて試行錯誤していて」


「み、みなりぃ~」


「泣きながら抱き着かないでください。新品の制服が汚れたらどうするんですか」


「うぇぇ~ん、だって嬉しいんだもんぅ~!」


 ミナリーとの思い出が形として残るのも嬉しいし、何よりミナリーがわたしとの思い出を残したいと思ってくれたことが本当に嬉しかった。


 その後も泣きながら出立の準備をして、入学試験の時と同様に王都の結界近くの村まで転移してそこから箒に乗って王都を目指す。


「師匠が泣いていたせいで時間ギリギリですよ」


「えぐえぐっ、泣き虫な師匠でごめんねぇっ」


「まだ泣いてる……。本当に、仕方のない師匠ですね」


 ミナリーは呆れたように溜息を吐いて、小さく微笑んだ。

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