第20話 好奇心
時間は午後の四時三十分を過ぎた頃だろうか、そろそろ帰ろうかと考え、手にしていた本を閉じる。
閉じた本の上から目線を前に向けると、未だ読書に没頭している百代の姿が映る。
百代の脇に積まれた本をみていると、まず分厚い専門書が目に飛び込んだ。学生の本分である勉学の為に図書館を訪れたかと思ったが、周りに置かれた一般書サイズの本を見ると、ミステリーやファンタジー、SF等の本が散乱していた。
好奇心の強い性分だと若干感心しつつ——それらの本を読む百代の顔は楽しげだったり、寂しげだったり、驚愕の表情を浮かべたりと、普段見たことがない多彩なものだった。
ころころと変わる表情を見ている分には、意外と飽きというのは来ないものだな、と今更実感した。
ふと、百代をじっと眺めている自分が少し恥ずかしくなり、頭の片隅に思い浮かんだ、先日の部活紹介について口走っていた。
「……百代ってさ、普段の学校生活が退屈なのか?」
それまで読書に没頭していた百代が反応を示して本を閉じた。
「……」
じっと、こちらを見つめてくる瞳には何か訴えるような感情が感じ取れた気がする。
「いや、此間の体育館での部活紹介でそんなこと言っていたなと思ってさ」
その言葉を聞いた百代は本を閉じて、机に置いた。
「だって、つまんない奴ばかりじゃない」
百代はたまった鬱憤を晴らすようにつらつらと話し始めた。
「これを見て」
彼女は手にしていた本を俺の方に差し出してきた。その本の表紙には宇宙が描かれたであろうタイトルの、少し分厚い本だった。SF小説か何かだろうか。
「小綬、宇宙人とか未確認生物、会ってみたくない?」
年頃の同級生ではなかなか耳にしないような、唐突な話題に若干面を喰らったが、百代が口にするとあまり違和感は感じない。意図自体は全く分からないが。
「危害を加えないような宇宙人だとしたらな」
当たり障りのない返答を返し、百代の顔を見た。半分冗談のような会話だと思ったが、百代は微かに悲哀を含んだ表情をしていたように見えた。
「好戦的な奴らもいるだろうけど、私たちは違うわ」
「それは良かった」
仕方なく百代の妄言に付き合っていると——表情に出ていたのか、百代は手に持っていた本を閉じた。
「信じてないわね……幸いだけど」
百代は不満とも安堵とも取れない表情を浮かべていた。閉じた本をしばらく見つめていたが改まってこちらを見ると、その表情には窓からの夕焼けが差していた。
「私の秘密知りたい?」
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