第16話 退屈じゃない

 体育館の壇上では各部活の紹介が始まり、今は運動部最後の部活紹介が行われている。野球のユニフォームを着た集団が自分たちの活動内容や今後の展望、意気込みを通して新入部員の勧誘をしている。運動部らしい元気の良さに魅かれて目を輝かせるものもいれば、その元気の良さに引いてしまい苦笑いを浮かべる者もいる。

 そして俺はそのどちらでもなかった。何か自分の興味がある部活があれば耳に入る声も違って聞こえたかもしれないが、現状は目ぼしい部活は特にないので、自然と時計と周りの人間観察を交互にしてしまう。

 長いな。

 時間の流れが遅いことを恨めしく思いながらそんなことを考えていた。近くでは米登が少し過剰ともいえる反応をあげていた。米登のノリの良さに俺もつられる——こともやはりなかった。

「……退屈じゃない」

 周りの喧騒の中、横からかすかに聞こえてきたように感じるその言葉のほうに目を向けると、壇上に視線を向けている百代の目は見知ったテレビの再放送を見せられているような、けだるげな眼をしていた。

 そんなに退屈で、寂しげな目をしていると、声を掛けたくなるってもんだ。

まあ、百代が自分の好みのタイプだったからとか、そういうやましい気持ちはないし、なにより男は誰かに頼られたいという気持ちはだれでもあるだろうからな。と自分に言い聞かせた。

「少なからず興味を示す奴も多少いるとはおもうがな」

「あんたはそうは見えないけどね」

「……」

 前言撤回だ。いくら見た目が良くても、こう小生意気な言動をされると多少は腹に来る。

「それに、あんたなら面白いことが分かるんじゃないの?」

 何度いわれても、俺にはそんな嗅覚や第六感を持ち合わせてはないと思うぞ。

「……!」

 壇上から大きな音が聞こえてきたので、百代に向けていた視線を、自然と壇上の方向に戻した。きらびやかな金管楽器をもった生徒たちが続々と壇上に上がってくる。

 文化部の部活勧誘が始まったようだ。吹奏楽の部員たちが準備を終えると、新入生たちはこれから奏でられる音楽に若干身構えたようだ。

「俺だって探している最中なんだよ」

 体育座りのまま両手を床に着きつつ、後ろに若干体重をかける。壇上からフルートの音色が体育館に響き始めた。

 溌溂と楽器を奏でる一、二歳年上の生徒たち。しばらく彼ら彼女たちに向けていた視線を再度百代に向けたが、百代は体育座りのまま額を膝につけると、下あごと唇を突き出し、軽い溜息をまた吐いていた。


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