第7話 彼女は美少女

 心の中で呟きながら、張り出されたクラス名簿を憂慮しながら目を通していく。すると幾人か、前の学校時代で見覚えのある名前を発見できた。

「まあ、上等だろう」

 制服の襟元を開きながら冷や汗を外に逃がす。

 見上げた空を見ると快晴の中、雲が漂っている。これから新しい生活が始まるけれど、こんなふうに穏やかな生活を送りたいものだな。

「小綬って、んぐんぐ、あなた?」

 若干の放心状態で雲を眺めていたところ、横から可愛いらしい声が聞こえた。

 声を掛けられた顔をその方向に向けると、一人の少女が俺を繁々と値踏みでもするようにみていた。

 目を細めて俺を舐め回すように視線を上下させ、時折「うーん」と口を動かしつつ何かぶつぶつ呟いている。

 顔を上下に動かすと、あわせて頭の上で結んでいるリボンがウサギのように二つ、ぴょこぴょこ前後している。

 いきなり声を掛けてきて、「あんた」呼ばわりされることは、いつもの俺なら嫌な気分になること——間違いなし——だが今はそうでもなかった。

 他に気を取られることがあったからだ。

 なんでこいつ、ここで団子を食べているんだ。

 俺の視線に気が付いたのか手に持った、串つきの団子を俺の前に差し出した。

食いかけだ。

「あんたも、食べたいの?」

「……いや、遠慮しておこう」

 朝食にしては特殊な代物だし——何より周りの視線を気にせず、今それを食べる度胸は俺にはない。

「……悪いんだけどさ、どこかであったことあるか?」

 新手のボケか何か知らないが、とりあえず指摘せずにおこう、まずは面識があったのか確認がしたい。

「……、今の私は初めて会ったのかしら」

 なんかもう会話が成立していない気がする。瞬時きょとんとした表情を浮かべる彼   女の表情をみて、俺も内心呆れていた。

 ただ一つ気付いたことはある。

その行動に意識を取られて気付かなかったが、その女子の容姿は、俺が見た中で一、二を争うほどの美少女だった。

「あ、そうか、ごめん。まだ自己紹介してなかったわね。私はツツキっていうの、あなたに会うためにここに来たのよ」

 ツツキと名乗る女子が、声高にそう告げた。ただでさえ注目を集める格好なのにさらに周りの視線が痛いことになる。

「……ちょっとこっちに来てくれ」

 この場所から一刻も早く離れたい。ほかの生徒の視線が幾重にも刺さってくる。

「ちょっと、なにするのよ」

 ツツキと名乗る女子の右手を掴むと、俺の気持ちを代弁するかのように、早歩きで体育館裏の自転車置き場に向かった。

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