月日は百代の祝賀にて「中学生編」

羽織 絹

第1話 不思議な場所

——最近よく見るんだよな、この夢——

 暗闇の世界から、ゆっくり目を開いて抜け出す。

 ぼんやりとした視界がはっきりしてくる。周りを見回してみるとなぜか見覚えのある洞窟の中で立ち竦んでいた。

 俺の中で洞窟は薄暗い印象だったが、洞窟内の岩壁自体が、何故だか発光しているように見え、視界はそこまで悪くない。

 近づいて確かめてみると、岩に付着した苔が緑色に輝いているようだった。初めて見た苔は歩くことに不自由しないほどの光量を放っている。

 明るく照らされた洞窟内をしばらく進むと、百メートル程先、洞窟の向こうに強い光が見える——出口であることは覚えている。

 速足で光の下へ向かうと、洞窟からの道はそこで途切れていた。視線を下に向けると、そこは崖となっている。際に立って何度目かになる崖下の景色を再び確認する。


           *


 崖下に広がった空間には大小様々な高さのビルのような岩が聳え立っていた。ここからでもたくさんの人が居住区のようなそこから出入りしているのが見える。

 ただ俺が普段暮らしている環境と違うのが上空に見たことがない、魚のような生物が空を飛び、その魚たちと同じく子供たちも空を飛んでいた――いや違う、魚を追いかける子供は手足を動かしている。

 それは海の中で泳いでいるような光景に見える。

 俺自身も肌に軽い抵抗を覚えるが、プールの中で泳ぐよりは動きやすく、不思議なことに呼吸ができる。

 しばらくその不思議な光景を眺めていると、その光景が徐々に遠ざかっていくことに気付く。いつの間に自分の体を、泡のような空間にすっぽりと覆われていた。

 急激に上昇しているような感覚を体に覚えつつ、その泡のような膜が徐々に白く濁り始め周りが見えなくなる。若干の恐怖を感じ始めたが、突如その泡が音もなくはじけると、先ほどまでとはまた違う状況になっていた。


           *


 どこかテレビの旅番組で見たことがあるような光景だった。

いつの間にか密林の中の開けた空で、しっかりと地に足がついている。先程までの景色はどこにも見当たらなかった。かわりに古ぼけた遺跡のようなものが目前に聳え立っていた。 

 鳥の鳴き声が響き渡るなか、しばらく遺跡の前で立ちすくんでいた。遺跡には正面に階段が設置されていて、階段を昇りきると近くには遺跡の入り口と思われるものがある。

 遺跡の内部は想像できた。けれど不思議と気持ちが遺跡へと吸い込まれるような感覚を覚え、いつのまにか階段を昇り、遺跡へと足を運んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る