第21話 暗い部屋

 「あぁ、くそが……!」


 カーテンで窓からの光を遮られた暗い部屋、その床に這いつくばる悪魔がいた。


 「ギリギリだったな、セミス」

 「……助かった。フォルトゥナ。転移がなかったら危なかった」


 部屋の奥、そこには椅子に座るエルフがいた。ナルダッド魔術学院の学院長にして、第六の超越者、フォルトゥナだ。


 「あんなに冷静さをなくすなんてらしくない」

 「忘れてくれ。少し腹が立って冷静じゃなかった。……にしても、くそ、動かねぇ」


 なんとか体勢を座るまでに変えることに成功したがそれが限界。背中を壁につけてなければその状態の維持すら厳しい。


 「やめておけ。まだ力が残留してる。様子から見てしばらくすれば霧散するからそれまで我慢していろ」

 「なんなんだ、この力」

 「知らない」

 「へぇ、お前にも知らないことがあるんだなぁ」

 「それはおそらく外界の力だろうからな。私が知ってるのはこの世界の中のことだけだ」

 「外界って、あいつ世界の外から来たのか?」

 「おそらくな」


 続けて「まあそれはどうでもいい」と言いながら立ち上がったフォルトゥナは、カーテンを僅かに開けて外の様子を確認した。


 「オマエと顔を合わせるのは久しぶりだ。適当に支援はしてやっていたが、そろそろ聞いておこう。どういうつもりだ?」


 空気が変わる。


 「どういうつもり、ねぇ」

 「オマエがリュディールに積極的に協力したせいで聖教国に勘づかれ、執行者が送られてきた。あの国には『天の目』があると言ったはずだ。おかげで面倒なことになっている」

 「そこは確かに俺のミスだなぁ。あそこまで魔力に歪みが出ると思ってなかった。でも、結果的にあんたも協力したろ。空間の固定化をしたり、解除したりな」

 「あそこまでやらせておいて、させないというのは酷だろう」


 セミスは鼻で笑った。


 「おかげでいいサンプルになったろ?」


 それには否定も肯定もない。


 「でも、あれだなぁ。お前の弟子を使った実験はできなかったから、深淵の利用が不可能かどうかはまだわからないな」

 「いや、無駄だ。あの子の力にも限界はある。流石に深淵の空間には耐えられはしない。魂を呼び出したいなら方法は一つだけ。終着点への道を無理やり切り開くしかない」


 彼女は知っている。確実であり唯一の方法を。そして、超越者として、彼女にはそれを可能にする力がある。


 「で、そろそろって話だったけどやるのか?」

 「ああ。あと一月ほどだな」

 「ようやくか」

 「ようやくだ。もうすぐ世界に穴を空ける」

 「あの執行者はどうする?」

 「とりあえず放置でいい。私の脅威にはならない。問題は海の向こうだが……1人だけならどうにでもなる」


 ここに至るまで長かった。だが、ようやく終わりが見えてきた。


 「準備に取り掛かる。オマエは存在がみつからないようにしていろ」

 「りょーかい」

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