第3話 それは聖剣、そして星剣

 「止まって」

 「え、あ、はい!」


 村はもう目の前、というところで足を止めた。

 燃え盛る村からふらふらとおぼつかない足取りで歩いてくる人影が見えたからだ。


 「あ、あの人怪我をしてます! 手当てを……」

 「ダメ。下がってて」


 人影は俺たちを視認すると、今までの歩き方が嘘だったかのように俊敏な走りで接近してきた。レンを下げて俺は前に出る。そして何もない空間に出現させた『穴』から、後装式の拳銃を取り出した。装填はされている。


 「あ、ァァァァ……!!!」


 接近してきているのは男。目に正気はなく、左半身が光を反射しない黒に染まっている。もう人ではない。助けることもできない。だってこの男の人はもう死んでいるのだから。


 「────」


 間も無く飛びかかってきた男を躱し、そのまま頭部を銃弾で吹き飛ばした。終わりだ。


 「死んじゃったん、ですか……?」

 「元々死んでるよ。黒化して動いてただけ」

 「黒化?」

 「闇に侵食された生物。それをこの世界だと『アトルム』って呼ぶんだ。こいつらは生きている生物を無差別に襲う。そしてこれに殺されると殺された方もアトルムになる。ゾンビとか言った方がわかりやすいか」


 アトルムは異端指定だ。この異端指定を排除するのが俺たち執行者の役目。ただ結界の更新をしに来ただけだというのに仕事が増えてしまった。


 「……まだいるな」


 同じような気配がまだまだある。この様子だともしかしたら村の住人全員が黒化してるかもしれない。


 「シン!」


 目の前にティアが着地した。どこからか跳躍して来たようだ。


 「状況は?」

 「村人はほとんど黒化してる。騎士たちが相手をしてるけど躊躇ってるせいで止まる様子はない。狭い場所だし全員顔見知りなんだろうな」

 「了解。それにしても黒化が早いね」

 「多分やってる奴がいるぞ、これ」

 「うん」


 黒化は自然に起こることもあれば、人為的に起こすことも可能ではある。ただし、やった側もタダでは済まないけれど。


 「というかお前、後ろの……」

 「レンのことは終わってから説明する。それよりティアには村のアトルムを殺しておいてほしい。村の外には出さないように」

 「お前は?」

 「俺は塔に行く」


 もしも今回のこれが人為的に起こされていたとした場合、俺がやるべきなのはティアと一緒にアトルムを殲滅することじゃない。黒化は目的じゃなくて手段の可能性がある。


 「──シンさん」

 「なに?」


 レンはどうしようかと考えていたところで名前を呼ばれた。


 「シンさんは、平気なんですか……? 目の前で人が死んでいて」


 一瞬質問の意味がわからず黙ってしまった。僅かに間を置いて、レンが何を聞いているのか理解した俺は先程までと変わらない調子で返答する。


 「ああ、元の世界じゃ人が死ぬのって普通じゃないんだ」

 「…………」


 その言葉に対してレンの見せた表情はまた俺が知らないものだった。

 不思議な感じだ。わからないのにそんな顔をしてほしくないと思った。なんでだろう。


 「とりあえず行ってくる。この先は死体がいっぱいあるだろうからレンはなるべく離れたところにいた方がいいよ。終わったら迎えにいく」


 塔があるのは反対側。ここから村を抜けた先。死というものに慣れていないレンからしてみれば、地獄のようなところを歩くことになる。それは嫌な筈だ。だから俺は離れるように言って塔へと走った。

 レンからの言葉は特になかった。向けられたのは視線だけ。

 

******


 アイテール教の信徒からすればここは白亜の塔につながる神聖な道なんだろう。丁寧に整備されている。道の両脇にある木々が花を咲かせればきっととても綺麗な光景が広がるはずだ。転がっている騎士たちの死体がなければの話だけど。


 「結構死んでる」


 鎧を着てるというのにどの死体も綺麗に真っ二つにされている。塔への道はもはや血の海だ。

 いくつもの屍を超えて、俺は塔へと辿り着いた。塔は壁に囲まれており、何もない日であれば唯一の入り口である門は固く閉ざされている。が、どうやら今日は開いているらしい。開いているのなら入っても問題ないはずだ。


 「おやおや? どーなたですか?」


 門をくぐると、聳え立つ塔の前に佇む男が俺のことを認識した。服装からしてアイテール教の人間だと思う。


 「誰?」

 「あれれ? 私奴が聞いたと思ったんですけど、気のせいでした?」

 「うん」

 「だは! そうでしたかぁ! では自己紹介を。私奴はこのラナナ村の教会で司祭をしていたゴルドンと申します。どうぞよろしく」

 「よろしく」


 初老の司祭はゴルドンと名乗った。妙にテンションが高い。今まで出会った教会の人たちはみんな物静かだったので、みんなそうなのかと思っていた。変な感じだ。


 「なんで騎士たちを殺したの?」

 「私奴が殺したという確証がおありで?」

 「だって生きてるのあんたしかいないし」

 「なるほど! そうですねぇ。それは確かに。生きてるのが私奴だけなのだから殺した可能性が高いのは私奴、ですねぇ」

 「うん。だから殺した理由を聞いてる」


 他に気配はないし殺したのはこの司祭で間違い無いだろうけど武器が見えない。手ぶらだ。鎧を着た騎士を真っ二つにするような武器をこの人は持っていない。


 「うーん、殺したのはここに来たかったからですよ」

 「どうして?」

 「神性に至るため、ですねぇ!」


 2人の騎士の死体がアトルムとなり、背後から同時に斬りかかってきた。鎧が動く音は聞こえていたので難なく躱し、拳銃でまず一体を殺す。そして素早く装填して次──


 「──深淵よ、切り裂け」


 ゴルドンから放たれた二つの黒い刃。見た瞬間にわかった。これが騎士たちを切り裂いた武器なんだということを。そして、まともに当たれば命はないということを。


 「おぉ!!」


 刃を最優先で躱し、流れでそのままもう一体のアトルムに弾丸を打ち込んだ。


 「……深淵属性か」


 魔術には……正確には魔術を行使する際に使用する魔力には属性がある。火、水、土、風の基本属性、光、闇といった特殊属性など色々あるけれど、深淵はその中でも最も異質な属性だ。異端指定されており、聖教国以外でもほとんどの国で禁忌とされ使用を禁止している。ノレア曰く、深淵属性の魔術は学ぶことすら危険らしい。だから俺も詳しいことは知らない。ノレアは教えてくれなかった。知っていることは二つ。一つはあらゆるものを侵食し、飲み込むということ。そしてもう一つはこれが黒化に関係しているということ。


 「あははは!! これは驚いた! 頭に弾丸を食らおうがアトルムが弾丸を一発喰らった程度で動かなくなるわけがない! で あ る な ら ば!! ふふ、あは、あはははははは!! 知っています。存じています! 異端を容易く殺せる特別な魔力を持つ黒髪の執行者の話はことは! ぶふっ、だはははははは! 自己紹介をしてもらうしてもらう必要は無くなりましたねぇ!! あなたが噂の異端狩りぃ!!! これはもっとアトルムを作っておくべきでしたねぇ!!」


 大声を上げて笑っている。楽しそうだ。と思って眺めていると、男は突然笑うのをやめて静かに俺に視線を向けてきた。


 「さて、本日はせっかく警備が薄くなる日だったというのに何故執行機関の方がこんな場所にいるんでしょうか」

 「仕事をしに来ただけ」

 「私奴を排除しに?」

 「いや別。でもあんたは深淵の魔術を使った。あとアトルムも生み出してる。異端だ。執行者としてついでに刈り取る」


 多分生捕りした方がいいんだろうけど難しそうだ。やれるだけやるけど、殺しちゃったらごめんなさいしよう。謝ることは大切だ。


 「私奴が、つ い で。つまり用件があるのはこちらですねぇ?」


 ゴルドンがその場から身を引く。すると先程からゴルドンの体によって見えていなかったものが俺の目に映る。


 「それが、神器」


 白い塔の前、ゴルドンのすぐ後ろにそれはあった。

 レンが触れたがっていた英雄の武器、ノレアが俺に見せたかった汚れのない神器。

 神秘的な剣だった。そこにあるだけで周りの空気を揺らしている。


 「美しいでしょう? 第五の超越者、『斬撃の超越ウォレス』の聖剣は」

 「ここにいるってことはあんたもそれが目的?」

 「ええ、ええ! そうですとも。これが私奴を神性へと至らせる!」

 「あ、そう」


 この男、大して強くはない。苦戦はそれほどしないはずだけど、深淵属性の魔術に関しては何も知らないのでそこだけは注意しないといけないな。


 「──シンさん!」


 心地のいい声が、ここにいるはずのない声が、俺の名前を呼んだ。


 「レン、どうしてここに?」

 「来なきゃいけない気がしたからです」


 レンの表情はさっきまでのものとは変わっていた。何かしらの覚悟を決めたように見える。ここに来るまでに今まで見たことのなかった死をたくさん見てきたはずだ。それらがレンを少し変えたのかもしれない。


 「どーなたですかぁ? 執行者……いえ、それにしてはあまりにも何も感じない。またまた黒髪とは珍しいですねぇ。一般人、なのでしょうか?」

 「村の人たちをあんな風にしたのはあなたですか?」

 「んー、今日は質問を無視される日ですねぇ。けれど怒りはしません。お答えしましょう。あんな風にというのがどの状態を指しているのか分かりかねますがぁ、そうですね、村の人々を黒化させたのは私です」

 「なんで、そんなことを?」

 「神性に至るためですよぉ。彼らの血が私に力をくれるのです」


 そう言ってゴルドンが見せてきた右手は薄っすらと赤黒い光を纏っていた。


 「……ここに来るまでに、たくさんの声を聴きました。みんな、苦しんでいました。どの魂も悲鳴を上げていた。泣いていた」

 「声、声ですか。あなたは魂の声を聞くことができる、と。ネクロマンサーか何かでしょうかぁ? まあなんにせよ一般人というわけではないようだ」

 「どうでもよさそうですね」

 「そんなことはありませんよぉ? 命とは尊いものです。だから私は利用している。尊き命ある者たちが流す血は、私を神性へと押し上げるのに実にふさわしい」

 「神性って神様ってことですよね。なんで神になりたいんですか?」

 「この世に神がいないから、ですねぇ。私が神性へと至った暁にはこの世界の皆さんをお救いいたしますよ」

 「今日殺した人たちは……?」

 「必要な犠牲です。犠牲無くして神の降誕はあり得ない」

 「……ふざけないでください。あの人たちには家族がいた。兄弟がいた。恋人がいた。大事の人がいた……! 命は!! 弄んでいいものじゃない! 誰かが軽々しく奪っていい物じゃない!! 失ったら……、戻ってこないんですよ……?」


 喉が吐き裂けるほどの声でレンはそう叫んだ。本気で怒っている。そして、悲しんでいた。けど、怒ったところで、泣いたところで、この男が止まることはない。むしろ……


 「そう、そうです! あなたの言う通り命とは貴重なもの! あぁ、彼らの犠牲はとても尊い! であるからして、私は至らなければならない。この身を深淵に堕としてでも」


 動き出す気配を察知して俺は地面を蹴った。時間は与えない。即座にゴルドンを殺す。


 「深淵よ!」


 ゴルドンが行ったのは最短の詠唱。二小節で放ったさっきと比べて本数は一本と少ないが速い。詠唱が終わる前に片をつけるつもりだったけれど間に合わなそうだ。とは言っても避ければいいだけの話。なんら問題はない。


 ……なんで笑ってる?


 ゴルドンは一切焦っていない。俺のことは見えているはずだ。だというのに笑っている。

 何故? 実力はもうある程度わかっている。この男の一小節は大した脅威にならない。何か仕掛けがあるのか? それとも……


 「……!」


 黒の刃が俺の横を通過する。その瞬間、俺は足に魔力を回し脚力を強化し、すぐさま進行方向を切り返した。

 ゴルドンの狙いは俺じゃない。レンだ。


 「シ──」


 全力で駆けて、レンの体を押した。

 俺が直接妨害できないようにゴルドンが飛ばすルートを膨らませていなかったら間に合っていなかった。これでレンは無事だ。


 けど、レンを突き飛ばしてから間も無く俺の右腕からは血飛沫が上がった。


 

******

 


 腕を抑えて、その場に膝をつく。


 「どうして、私を……」

 「守らないと、いけない気がしたから」


 レンがここに来たのと同じだ。説明はできない。でも体は勝手に動いた。


 「腕が」

 「大、丈夫……」


 事前に自己再生の魔術を体に刻んでもらっている。流石に新しい腕が生えてくるなんてことはないが、血ぐらいなら止まる……


 「……なんで、止まらない」


 最初より出血の勢いは収まってきているが止まる気配がない。魔術は起動している。刻印に不備があるというわけでもない。となると考えられるのはあの黒い刃。あれのせいで治癒の力が阻害されている可能性がある。

 甘く見ていたわけではない。けど困った。これが深淵属性の影響だというのなら俺にはどうしようもできない。解決手段がない。

 このままじゃまずい。意識が、消えていく。何もできなくなる。


 「やはりあなたにとって彼女は特別な存在だったんですねぇ。ちょうどよかった。ではそのままそこでご覧ください。私奴という存在が神性へと昇華する瞬間を!」


 ゴルドンは不気味な光を纏う右手で剣の柄を何事もなく掴んだ。

 妨害はない。結界が機能していない。いや、あの右手で無効化されている? 

 どちらにせよ。ゴルドンは触れてはいけないものに触れている。


 「今、私奴の願いは成就する」


 白い剣が、100年もの間守られてきた聖なる剣が、引き抜かれた。

 瞬間、周囲の空気が変わる。

 重く、暗い。異様だ。けど、これには覚えがある。村でみんなを殺したあの異形を見た時も、俺はこれと似た空気を味わっている。


 「これが、斬撃の超越の剣。亡き神が残した聖なる遺物。ああ……美しい」


 周りのことなんて眼中にないゴルドンは、所有権を主張するように英雄の剣を天に掲げ、その剣身を眺めて恍惚とした表情を浮かべていた。


 そんな男の体を、塔から伸びる巨大な白い手が鷲掴みにした。


 「は?」

 「え?」


 レンとゴルドンの出した間の抜けた声。二人とも今の状況を理解できていないようだった。それは俺も同じだ。何故神の塔から腕が生えて、ゴルドンがそれに掴まれているのかわかっていない。わかるわけがない。


 「なんなのだ、これは!! 何故神の塔からこんなものが出────」


 ゴルドンの声を遮って、ぐしゃっと聞きなれないない音が耳に届いた。白かった巨大な手からは赤い血が滴っている。執行者になってから色々なものを見てきたけど、流石に人間が文字通り握り潰される瞬間を見たのは今日が初めてだ。手は握り潰したゴルドンの体をまるでゴミでも捨てるように剣ごと投げ捨てた。


 「何が、起きてるんですか?」


 わからない。理解できる範疇を超えている。

 何も把握できていない俺たちをよそに、塔からもう一本白い巨大な手が生えた。そしてそれから間も無くその両手の本体が、神の塔から這い出て、立ち上がった。

 不気味な巨人だ。全長は10メートルほど。顔には目も鼻もなく歯並びのいい口だけがある。生殖器も見受けられない。形は人と同じだけど、生物として明らかに欠落がある。


 「あアアァァあぁアぁぁァ……」


 いくつもの声が重なったような気味の悪いうめき声を発した巨人は、俺たちに視線を向けた。瞳はない。けど間違いなくこの巨人は俺たちを見た。視認した。


 「レン、逃げて」


 あれは俺たちを殺そうとしている。

 きっとそういうものだ。

 あの巨人がアトルムと同じ世界から存在が許されないモノ、『真の異端』であればなんとかなる。俺の魔力はそういう類いの化け物たちに特攻があるからだ。が、嫌な予感がする。この巨人は根本的におかしい。レンには逃げてもらったほうがいい。


 「シンさんは?」

 「俺は、あれの相手するから」


 立ち上がって巨人を見据える。なんとか体内の魔力を高速で循環させて誤魔化してはいたけど、そろそろ限界が近い。視界がぼやけてきた。


 「ダメです! そんな傷で……」

 「大丈夫、だか、らっ……!?」


 体を掴まれた。ほんの一瞬後ろに意識を向けた隙を狙われて、容易く鷲掴みにされた。全く気づけなかった。なんなんだこいつは。放出している俺の魔力に反応する様子もない。


 「シンさん!!」


 どうする。どうすればいい。何をすればこの状況を打破できる。


 「っ……!?」


 まず、い。

 潰される。

 身動きが全く取れない。

 息を吸うのも苦しい。


 「レ、ン……?」


 朦朧とする視界に、どこかへ走っていくレンの姿が映った。何かを言っていた気がするが、わからなかった。でもとりあえずここから離れてくれたみたいだ。よかった。


 ……よかった?


 レンが生き残ってくれるのは俺にとっていいことらしい。出会ってまだ半日も経っていない相手に、俺はそんな感情を抱く人間だっただろうか。


 「まぁ、いいか」


 どうでもいい。ここから去ってくれたのならなんでもいい。あとは村の方を片付けたティアがなんとかしてくれるはずだ。

 そう、大丈夫だ。大丈夫。

 もう、頑張って意識を保つ必要はない。


 「ぁ……」


 世界が暗くなっていく。

 眠たくなってきた。終わりが近い。


 「………………」


 ……なんだったんだろう。

 なんであの時、あの村で俺は生き残ったんだろう。

 どうしてあの時、俺だけが許されたんだろう。

 わからなかった。結局、あの異形とは会えなかった。何も知ることができなかった。

 

 意味を、知りたかった。

 俺だけが生き残った意味を。

 ただ、それだけだったんだ。それを知るためにこれまで歩いてきた。

 

 でも、もうダメみたい。

 疲れた。こんなに疲れたのは初めてだ。

 休もう。




 「────聖剣よ」

 

 心地のいい声が、した。



 

 ******

 

 声が聞こえていた。

 ただ一つの物を望む声が、ずっと聞こえていた。

 力がない。策がない。助ける手段がない。

 だからそれに賭けた。賭けて、彼女は地面を蹴る。

 全力で走った。元の世界に帰ることなんて彼女の脳内には微塵もない。孤独から救ってくれた彼のため。彼を助けるために、少女は走って、手を伸ばした。


 「これが……」


 手にしたのは神器。かつてこの地に存在した神が残したとされる剣、世界を救った英雄の振るった聖なる武器。


 「…………助ける力を、ください」


 少女の切実な願い。それに呼応するように聖剣は輝き出す。その刹那、彼女の脳内に情報が流れ込んだ。

 理解ができない。意味がわからない。止まらない。終わらない。

 1秒にも満たないものではあったが、少女からしてみればあまりに長い時間だった。

 苦痛はなかった。だが、気持ち悪かった。

 当然だ。少女に流れ込んだのは記憶。知らない誰かの記憶なのだから。


 けれど、それこそが少女の望んだもの。

 彼を助けるための力。


 「────星剣よ」


 少女は、星を手にした。

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