【書籍化】外れ属性『音属性』は魔法を無詠唱で発動できる唯一無二の属性でした～声を失った王女に音属性魔法で声を与えたら、王女に溺愛されていた件。え？実家が没落した？僕実家を追放されたので知りません～

第8話 アルバス、新しい魔法に可能性を感じる

「魔物の討伐報酬を貰いに来ました。アルバスです」

「アルバス様ですね。トレインの討伐報酬が用意できています。少々お待ちください」

　受付嬢はニコリと微笑むと受付を離れてギルドの奥に行ってしまう。

　トレインの討伐報酬がどれほど貰えるのかわからない。昔聞いた話だと、参加した冒険者で報酬を山分けするのだとか。

「たくさん冒険者いたし、そんなに沢山は貰えないよね」

　先のトレインで戦っていた冒険者はかなりの数だ。大量の魔物がいたとはいえ、冒険者の人数も多いのだからそんなに沢山の報酬は期待できないだろう。

　と思っていた矢先、僕はとんでもない物を目にする。

「こちらがアルバス様の報酬となります」

「…………え？」

　どかっと受付に置かれたのは、大きな皮袋に詰められた大量の硬貨だった。

　それをみた周囲の冒険者たちはひそひそと話し始める。

「おい、あいつ何を狩ってきたんだ？」

「知らないのか？　さっきあったトレインのほとんどをあいつが倒したらしいぜ」

「マジかよ！？　身なりからして魔法使いか？　広範囲の大規模魔法でも使えるのかあいつ！？」

　冒険者達に話が広まるのは早いみたいで、まだ一時間かそこらしか経っていないのに、もうトレインの話は広がっている。

　それも真実とは少し違う形で。

　いやいやいや、僕がトレインに大ダメージを与えたのはもう認めるけど、それよりも大きなダメージを与えたのは竜騎士だからね？

「ちなみにこれってどれくらい入ってるの？」

「六百万ゴルドですね！」

　ろろろろろ、六百万！？

　僕が追放された時に数日分の生活費として持ち出したのが五千ゴルド、昨日泊まった宿がご飯諸々ついて八百ゴルド程度。

　労働者が一ヶ月に稼ぐのは、仕事にもよるけど平均十五万ゴルドだ。一日で六百万を稼ぐ仕事なんて数える程度しかない。

「あわわわ……こんなに沢山のゴルドを見たことない」

「私も受付嬢やって数年ですが、こんなに稼いだアイアンランク冒険者は貴方が初めてですね〜〜」

　やっぱりそうだよね……。

「それに加えてアイアンランクからシルバーランクに二段階昇進です！　多くの特典が付与されますのでこちらの本を渡しますね！」

　受付嬢は本を僕の前に置く。シルバーランク冒険者の手引きと書かれた本だ。

　特典……というのがいまいちパッと来ないので、僕は受付嬢に問う。

「シルバーランクに上がることで何か変わったりするんですか？」

「ええ！　先ずは依頼の幅が広がります！　それに加えて、王都での一部施設への立ち入り、利用許可、遠方に行く際の移動費の補助など、これからの冒険者生活を快適にするような特典が様々もらえますよ！」

　そんなに沢山……！！　ずっとグレイフィールド家で魔法や社交の勉強ばかりしていたから、冒険者がこんなに優遇されるなんて思ってもいなかった！！

　音属性の魔法を試してみただけで、こんなにも至れり尽くせりとは思わなくて、僕は驚くばかりだ。

　色々と説明を受けた後、僕は冒険者ギルドを後にする。

　ちなみに報酬で貰った大量のゴルドは殆どギルドの金庫に預けた。父が浪費癖があって、家計が火の車になった嫌な出来事から、お金の扱いには注意している。

　昨日泊まった宿に戻り、僕は魔法書のコピーを取り出す。

「これのおかげでこんなことになるなんてね」

　偶々見つけた音属性の魔法書。

　音属性の魔法がこんなにも強く、使いやすい物とは思わなかった。

　ハズレ属性なんて色々と言われてたけど、案外そうじゃないのかもしれない。って思いつつある自分がいる。

「たしかに魔法書の数も少なかったし、ハズレ属性といえばハズレ属性だけど、やれることは意外と……」

　僕はペラペラと魔法書をめくってあるページで手を止めた。そのページに記されていた魔法に、僕は目を惹かれたからだ。

「【声帯付与（エンチャント・ボイス）】……？」

　それは声を付与する魔法だった。主な使い道は動物などにこれを使い、コミュニケーションを取れるようにするというもの。

　僕はこの魔法にある可能性を見出していた。

「王女様の治療……」

　声を失って、王都を騒がせている王女。

　僕が王都に来て丸一日経過するが、まだ王女は声を取り戻していないらしい。

　ちらりと聞いた噂だと、どんな治療法や魔法でも王女の治療は出来なかったという。国王はまだ治療できる人を探しているらしい。

「治療ではなくて……声を与える」

　逆転の発想といえばそうだろう。

　それを出来るのは、音に特化している属性である音属性だけだ。他の属性では声を与えることなんてできないだろう。

「試してみる価値はあるか……！！！」

　今日は夜も更けてきた。

　明日から声帯付与の練習をしなくてはならない。付与系の魔法は扱いが難しいからだ。

「よし！！　明日からとにかく練習だ！！」

　僕は決意を新たに、明日へと備えるのであった。