第10話
夜会は、今まで参加していた茶会とは全く違った。極力家族と離れないようにしていたが、やはりみんなそれぞれにお付き合いがある。
わたくしは1人になり、様々なお誘いを受けていた。その度に、笑顔で断る。婚約者の居ない男性はともかく、婚約者の居る男が誘いに来るな。ああもう、お姉様方に睨まれたじゃない!
「初めまして。ずいぶん人気ね」
冷たい声がする。
ああ、この人は王妃様のご実家のご令嬢だわ。確かお名前はレベッカ・グレイス・エヴァンス様。わたくしと同い年だが、茶会でお会いした事はない。お話しするのは初めてだ。一応うちは筆頭公爵家。面と向かって文句を言えるのは彼女くらいなのだろう。
「初めまして。アマンダ・オブ・テイラーと申します。エヴァンス公爵令嬢のお噂は伺っておりますわ。刺繍がお得意だとか。わたくしはあまり得意ではありませんので、羨ましいですわ」
「レベッカ・グレイス・エヴァンスよ。レベッカで良いわ」
頬を染めておられる。攻略成功かしら?
レベッカ様はキツいご令嬢だと言われているけど、刺繍の腕はプロ級で婚約者である騎士団長が大好きらしい。ツンツンしてるけど、騎士団長の前では幸せそうに微笑んでいたんですって。他の人の目があるとずーっとツンツンしてるみたいで、仲は良くないと思われてる。
お母様独自のネットワークで調べた結果、レベッカ様は騎士団長が大好きだと分かってる。騎士団長も、歳の離れたレベッカ様を大事にしておられるそうだ。
わたくしはレベッカ様をツンデレだと認識した。だから、お会いするのが楽しみだったのよね。絵姿より、実物の方が可愛いわ!
「レベッカ様は、どんな刺繍をなさいますか? わたくしもアルフレッド殿下に刺繍を贈りたいのですが、なかなか上手く出来ないのです」
「そうなの? 最初はハンカチに名前を刺繍するくらいで良いのよ。出来る?」
「名前なら出来ますわ。でも、絵柄が上手く出来ないのです」
「簡単な物から始めてはどうかしら? 花なんかは簡単でおすすめよ。なんなら、今度教えてあげるわ」
うわ、レベッカ様優しい!
ツンと澄ましたお顔をなさっておられるけど、この人は良い人だわ。
「本当ですか?! 嬉しいです! 是非我が家にお越しになって下さいまし」
「……良いわ。お邪魔するわね。来週なんていかが?」
こうして、レベッカ様と交流を持つ事に成功した。彼女はアル様をどう思っているのかしら。分からないけど、今は触れるべきではないわね。
営業でもそうだった。最初から売ろうとすると売れない。関係を作ってからでないと、話を聞いてもらえない。
そう習ったし、それで結果を出した。でも、上司が変わりスピードを求められるようになった。既存の顧客へのサポートは数に入れられず、新規顧客を開拓した者が評価されるようになった。
それもひとつの営業の形だろう。
でも、私はそのスピードについて行けなかった。
……っと、まただわ。最近、前世の事を考える時間が増えた。
「アマンダ様?」
「失礼しました。来週の予定を思い出しておりましたの。何も予定は無かったはずですから、いつでもお待ちしておりますわ」
「そう。なら前日までに先触れを出すわね」
「はい。よろしくお願いします。楽しみですわ」
そう言ってレベッカ様と別れた。
思ったより優しそうな方で良かったわ。
ああ! アル様の魅力をお伝えするのを忘れていたわ!
まぁ、またお会い出来るから良いか。
レベッカ様とは気が合いそうだわ。今度、騎士団長様のお話を振ってみましょう。レベッカ様のご結婚は来月だったわよね。羨ましいわ。わたくしも早くアル様と結婚したい。
……本当に、結婚出来るかな。っと、いけない。ネガティブ禁止!
誰が見てるか分からないんだから、シャキッとしなきゃ! わたくしは顔を上げて、次の社交へ向かった。
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