そこのあなたへ。

後藤いり

第1話

「お前は誰だ。」


毎日毎日私が私に問いかけている。


この春高校3年生になった私はなんとも言えないような違和感を持つようになった。

「スイちゃん今日もバイトなの?」

「うーん。今日で4連勤。」

高校生の生活なんて3パターンくらいしかない。放課後は部活か、バイトか、友達と遊ぶか。朝電車に乗り込むと同じ顔の人達。変わり映えのない授業。帰ってからご飯を食べて、空いている時間はひたすらスマホと睨み合っている生活。

「スイちゃんは進路決めた?」

「まだ。自分が何やりたいかも微妙。ハルはもう確定?」

私と同じ高校に通うハルは高校で友達になったのだが男というのか女というのかどことなく掴みづらい子で私は好きだった。

「それがねー決めたんだけど美容の専門学校ってキラキラした子たち多くて心配なんだよなぁ。」

「キラキラした奴が何言ってんの。ほら、帰るよ」

家に帰って目を瞑るといつも声がする。


「お前は誰だ。」


「お前は何がしたい。」


「お前は、、そのままなのか。」


最初は何言ってるんだ。こいつ。位にしか思っていなかった。けど最近はこの言葉が私に対しての呪いなんじゃないかと思うほど重くのしかかっていた。私はこれから何がしたいの?こんな生活楽しいの?周りはみんな進んでるのに私はずっと進めない。スマホの中にいる人たちはみんなキラキラしているし、何処にいても居場所がない気がする。友達と居ても1人で居ても考えることが多すぎる。

誰かに話したくても話せない。

あぁ。何も考えたくない。消えてしまいたい。人生リセットしてしまいたい。

いつだったかハルが私に言ってきた言葉がある。

「ハルはね、みんなが好きなんだよ。男の子も女の子も自分も。勿論スイちゃんも」

この時代生き方が多様化していく中で生きやすくなった人もたくさんいると思う。でも、だからこそ焦り苦しむ人も居ると思うんだ。私のように。だからこそ私は私の味方で居なくちゃいけない。だって私はまだ学生しか経験していないのだから。この狭い世界の中で全員が輝けるはずがない。


「お前は誰だ。」


「私は、」



「私は、まだ誰でもないよ。」


人が死ぬとね、周りも死ぬんだよ。

あなた1人がいなくなることで誰かが生きる意味を無くしてしまうかもしれない。それがもう1人のあなたかもしれないんだ。

もう少し自分の違和感に気づかないふりをしておこうかな。いつか違和感があったことすら忘れてしまう日が来ることを願って。

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