Nice Buddy!!

ラヴィラビ

プロローグ

 月の高い夜、ホテルのスイートルームに1組の男女が居た。

 男の名前はアンソニー・ドルバコ。腕利きの資本家であり、この街で一番の金持ちだ。

 現在、彼は太々しい体をソファーに預け、薄暗い部屋で1人ブランデーを呷りながら先程バーで買った女を待っていた。

 しかし、女は今夜の「お楽しみ」に備えてシャワーを浴びに行ったきり一向にバスルームから出てこない。

 と言っても、まだ10分程しか経っていないのだが、堪え性のないドルバコは既に抑えが効かなくなりかけていた。

 そんな欲望が爆発寸前のタイミングを狙ったかのように女はドルバコの前に姿を現した。

 バスルームから出る際に頭のタオルを取れば薔薇のように赤い髪が透き通った白い肌の上に垂れる。それを目で追えばバスタオルで隠されたスレンダーな体が目に入った。

 凹凸は控えめだが薄桃色に火照った身体は部屋の薄暗い照明と相まって釘付けになるほど艶めかしく期待せざるをえない。

 そうして体に見とれていると女はドルバコの方を向き微笑みながら言った。


「お待たせしたかしら? ミスタードルバコ」

「ああ、待ったとも。君は焦らすのが好きらしいな」


 「早く始めてくれ」とドルバコは息を荒くしながら女に邪魔な布を取るよう促す。


 女はこういった事には慣れているのか仕方のない人と言ったようにクスクスと笑うと、誘うように体を揺らしながらゆっくりと胸元に手を伸ばす。

 そして女の手がバスタオルにかかった瞬間、ドルバコとの間に銀の閃光が走った。

 視線を下に向ければ胸に銀色のナイフが刺さっている。そして、そこから噴水のように血が噴き出しているではないか。

 出血により徐々に意識が遠のいていく。もはや助けを呼ぶことも出来ない。

 朦朧とした意識の中でドルバコが顔を上げると彼に止めを刺すように目を疑いたくなる光景が飛び込んで来た。


「ごめんね。これも仕事なんだ」


 そう言いながら一糸まとわぬ姿でイタズラっぽく舌を出す女の下半身に女には無い物がある。

 なんと夜の楽しみにと買った女は男だったのだ。あまりの衝撃にドルバコは訳が分からないまま息を引き取った。



* * *



 ドルバコの死を見届けた女もとい男は床に落ちたバスタオルを拾い、再び身に付けると後片付けに取り掛かった。

 彼の名前はエリック・フリードマン、ただし普段はエリスと名乗っている。なんでも屋を営みながら旅をしている少年だ。ちなみに、先程の妖艶な女性は全て演技で本来は無邪気な性格だ。

 今更だが容姿は美女に間違われるほどの女顔で華奢な体つきをしており、赤い髪を胸元まで伸ばしている。これらを武器に彼は数々の依頼をこなしてきた。

 今回の依頼も、その1つになった。

 内容は見ての通りアンソニー・ドルバコを殺すこと。彼が何をしたかは知りたくもないが、相当怨みを買っていたようで依頼をしてきた女は報酬として全財産を提示してきたことをエリスはよく覚えていた。

 そんなことを思い出しつつ室内を行き来しながら慣れた手つきでベッドを乱したり、家具を乱雑に倒したり、酒や氷を床に撒いたりと争ったように部屋を模様替えする。

 後は着て来たドレスに着替えて部屋を後にするだけだ。

 そう思ってクローゼットの方へ向かうと、あろうことか彼は自分で撒いた氷を踏んで足を滑らせ大きな音を立てて盛大に転倒した。

 すると、外で警備をしていたドルバコの部下が異常な音を聞きつけてドアを強くノックした。


「ボス! 何かありましたか!?」

「あ、やばい……」


 ボスに似て気が短いらしい。答えも聞かずに部下達はドアを蹴破り、銃を片手にベッドルームへと突入してくる。

 エリスは慌てて床に転がしておいたブランデーの瓶を投げて窓を割ると、ドルバゴを踏み台にして窓から飛び降りた。


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