追放された僕は、姫三姉妹+もふもふと旅することになりました。固有スキルの【空気】って、一度消えたら最強になるって知ってました? ちなみに僕は知らなかったです。(カクヨム版)

べるきす

第1話 謁見の間にて

1.謁見の間にて




「どわっはっはっ!」


 いきなり笑われた……。


「さすがは平民というわけか。どこまでも楽しませてくれるヤツだな!」


 もちろん、楽しいと言われて喜んでいる場合ではない。僕は国王や大勢の兵士たちが居並ぶ中、苦楽をともにしたはずの三人のパーティ・メンバーによって、手を鎖で縛られた状態で謁見の間に引きずり出されていた。


 僕の名前はアレクという。

 勇者としてこの世界を旅立ち、ようやく任務を果たして戻ってきたところだ。

 だが、なにか特別な力を持っているわけでもなければ、勇敢だったり闇雲に無鉄砲だったりというわけでもない。国の命令により行くことになっただけである。

 それでも選ばれた時は、こんな僕でも役に立てることがあるんだと嬉しかったことを覚えている。


「笑わせてくれるにも、ほどがあるぞ、ん? んんん? どわっはっはっ!」


 深紅の絨毯にこすりつけている僕の額。その頭の上に足を乗せて延々と僕のことをあざ笑っているのは、貴族のドレッド。一緒に行ったパーティのリーダーだ。転移先で【流星技剣スターゲイザー】というカッコいい固有スキルを身につけた金髪の剣士である。

 妙に口がデカい。そのデカい口で、ツバを飛び散らしながら、「平民、平民」と僕のことを先程からののしっている。


「お前はどれだけ俺たちに迷惑を与えたか、分かっているのか? ぬおう? このへいへいへいへ……あがががが」


 頭を踏みつけている足が軽くなった。見上げてみると、ドレッドはその大きな口を押さえながら真っ青な顔をしていた。


「く……くちが。ぐうううう」


「……バカね。口を開けすぎよ。閉まらなくなっちゃったのかしらん」


 目の前にはドレッドのほかに、二人の人物が立っていた。

 ドレッドを呆れたように見ながら冷たい視線を送っているのが黒魔導士のクレシア。長い髪を優雅に揺らしながら、優雅に強力な黒魔法を撃つ。持っている武器は、炎の威力が増す真っ赤な両手棍エンファイトス。だが行った先では雷系の【雷磁結界サンダーガルム】を身につけた。


「やはり、もともと無用な者ということでよろしかったのではないかな」


 白魔導士のメディバが、ドレッドにも僕にも目もくれず、どこか遠くを眺めるかのような、感情が一切籠っていない声でぼそぼそとつぶやく。

 棍棒の固有スキル、【残波絹棍シルキーバスター】を身につけた魔導士だ。パーティでは最年長だった。普段はめったに喋らないが、話し始めると難しい言葉ばかり使うので、なにを言っているのかよくわからないことが多かった。


 メディバが杖をふわりと動かす仕草をすると、閉まらなくなったドレッドの口が閉じた。僕の顔のあたりにも温かい空気を感じた。回復魔法だ。単なる体力回復だけではなく、傷の手当――アゴの関節が外れたものまで直すというのは、余程の能力があるものしか出来ない……らしい。


 左右を見れば、甲冑を被った多くの兵士たちが、微動だにせず列をなして立っている。一応に無表情で、なにを考えているのかさえ推し量れない。


「ふんっ!」


 再び僕の額が床に押し付けられ、激しい衝撃を受ける。意識が飛びそうになった。クレシアが僕の頭を踏みつけたようだ。さび付いたような味覚を感じた。口の中が切れたのだろうか。さらに擦りつけるようにぐりぐりと足を踏みつけながら言う。


「虫けら以下の分際が、わたくしのそばにいたかと思うだけで虫唾むしずが走るわ! この役立たずが!」


 ひどい言われようだと思うものの、クレシアの言葉の意味が、わからないわけではない。


 転移先で僕が身につけたのは【空気アトモ】という固有スキル。

 三人のように戦闘で使える技でないのはもちろんだが、いったいなにに役立つのかもわからなかった。

 唱えると、気配が消せるようではある。ところが、なにかに触れたり喋ったりすると、その瞬間に元に戻ってしまう。モンスターが大量にいる部屋の中に、扉を開けるためのスイッチがあった時だ。もしかしたらと空気アトモで気配を消して押してみたのだが、押した途端に一気に襲われて、ひどい目にあったことがある。


 それでも、帰って来るまでは、みんな、僕のことをここまでヒドくは言わなかった。

 もちろん、パーティで唯一の平民なんで、使いっ走りなどはさせられたけども普通に話しかけてくれたし「頑張ろう」って応援もしてくれた。

 ドレッドの動きを見ながら、見よう見まねで戦いモンスターを倒したことも。もちろん助けてもらいながらではあるが。

「よくやったね」ってみんなから褒められたし、必死になって強くなろうともしたんだ。


 僕のそもそもの戦闘能力も、とうてい皆とは比べ物にならない。

 だからこそ食事の用意や、みんなの武器や防具の整備なんかを必死にやった。みんなが寝ている間に明日行くところの地形なんかを、あらかじめ頭に叩き込んだりもした。

 実際に順調に進んだし、ありがとうとも言ってくれていたので、感謝されているものだと思い込んでいたんだ。



『全員が固有スキルを得た後、最後の敵を倒すことで、転移先から戻れる』



 僕が必要とされたのは、この為だけだったのだ。

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