ラビリンスを抜けて王子さまの元へ⁉︎

ニ光 美徳

第1話

 私の名前はアリシア。


 今私は、迷宮の中に置き去りにされている。しかもチンチラ(ネズミの方)の姿でー。



 実は今から1週間後に、隣国であるイッチ国の後継となる王子さまの、お妃選びの舞踏会を控えている。


 昔から、王子さまの国のお偉いさん達が、地位や容姿など総合的に評価をして、イッチ国の隣国であるニイ国の私と、サーン国の王女の2人が有力候補だと噂されている。


 夜中に誰かが私の王宮に忍び込み、魔法とやらで私をチンチラに変身させ、カゴの中に閉じ込めてこの地下まで連れてきた。


 推察するに、もう1人のお妃候補、サーン国の王女の手先なのであろう。


 私をここに連れてきたヤツがご丁寧に説明してくれる。

 〔貴女様に恨みなどはございませんが、しばらくの間ここで過ごしていただきます。

 私はある方に、貴女様を始末してほしいと頼まれましたが、生憎あいにくそんなことまで生業なりわいとしてるわけではありません。

 まあ、事情があって一応仕事は請け負いましたが、私的にはアンフェア過ぎるのは面白くないので、貴女様にもチャンスを与えます。


 ここは迷路で出来た迷宮です。今現在、1番下の階にいます。

 ここから迷路を抜けて最上階までたどり着くことができれば、貴女様は元の人間に戻り、行かなければならないところへ行くことができるでしょう。


 期限は8日間。

 迷路を抜けて、階を上がる度に身体の部分を割合で返して差し上げます。

 

 パーツで戻して差し上げることもあるので、順番に戻しても構いませんが、側から見るとチグハグで、見た人がびっくりされるでしょうから、最終ゴールまでたどり着いたら一気に元に戻られた方が良いでしょうね、ふふっ。


 ちなみに、お顔や髪型は選択制だから、自分のものをちゃんと探してくださいね。探せないと別人になっちゃいますわよ。


 ゴールできてなければ8日間後に迎えに来ます。そして、今のチンチラのお姿のままか、何%人間・残りチンチラっていうチグハグなお姿なのか、どちらでもお好きなお姿で一生を過ごしていただきます。


 貴女様は今、チンチラのお姿になっておられますから、それはそれで可愛らしいので、そういう人生でもアリかなぁと私は思いますよ。


 誰かのペットとして迎えられたら、最高に幸せかもしれませんね。

 そこら辺の野原に離して差し上げますから、自分でご主人様を探さないといけませんけど。


 ただ迷路を抜けるだけでは貴女様もお寂しいかと思いますので、チンチラの天敵を離して差し上げますわね。

 天敵はキツネさんです。追いかけてきますので捕まったら勝負してください。

 勝ったらご褒美が貰えて、また先に進めますけど、負けたら…パクッと食べられちゃいますからね、テヘ。


 あ、貴女様が今いらっしゃる迷宮は、私の偉大な力で存在自体を消してありますから、お父様やお母様が探してもたどり着くことは出来ないでしょうね。


 それから、貴女様の代わりとなるをご用意させていただいております。お父様もお母様も本当のお子様と思い込んでいて、お寂しくはございませんので、そこはご心配なく。


 私、とっても気が利きく魔女ですの、うふふ。〕

 

 …そうか、この人は魔女なんだ。そうだよね、普通の人はこんな魔法なんて使えない。

 8日後なら、舞踏会が終わった後だ…。


 「何で私がそんなことしなきゃいけないの?」


 〔そりゃあ、貴女の命を狙ってる人に頼まれたから。〕


 「えー…、頼まれたら何でもやっちゃうんだぁ。」


 〔なんか、ちょっとその発言、イラッとするねぇ。〕


 「あ、すみません。でもさー、何でわざわざチンチラ?」


 〔可愛いから。〕


 「なるほど。

 で、このゲーム本当にやんなきゃいけない?」


 〔まさかのやる気無し?つまんない。じゃあいい、チャンスを無駄にしてそのままキツネに食べられちゃう?それでもいいけど。

 こっちは親切でやってあげてんのにさー。〕


 「分かったわよ、やります、やりますよ。すみませんでした。

 けど、一日中キツネに追いかけられるの?酷過ぎじゃない?寝る暇無くない?健康にも美容にも悪いわよ。」


 〔そうねぇ…。確かに、それはあんまり酷いか。

 じゃあ分かった、夜9時から朝6時まではキツネさんは追いかけないことにしてあげる。

 なんて優しい私。〕


 「時計持ってない。」


 〔どこかに置いておくから見つけて。

 ちなみに、今ちょうど朝6時だよ。〕


 「お腹空いたら?」


 〔それはちゃんと用意してある。要所要所に食べ物や飲み物置いておいたからね。でも、タダではあげないよ。課題をクリアして手に入れなさい。〕


 「何階まであるの?」


 〔そうねぇ、ざっと100階くらいかな。〕


 「げ!そんなに⁉︎ムリムリ!」


 〔大したことないわよ。休憩抜いたら1日14時間。8日間で112時間もあるのよ。

 1時間に1階クリアすれば充分余裕よ。〕


 「えぇー…そこを何とか…。」


 〔あんた結構 我儘わがままだねぇ。甘やかして育てられたんだね。

 まぁちょうど良かった、精神も鍛えられるよ。アメちゃんあげるから頑張んな。〕


 「私、チョコレートの方が好き。」


 〔…まあいい。チョコレート食べたらスタートだよ、じゃあね。〕


 魔女はチョコレートを置いて去って行った。


 私はチョコレートを見つめて考える。

 これ食べたらスタートかぁ。100階もあるって、しんどいなぁ。食べなかったらこのままかな?

 でも8日間も何もしないでここにいる?それはちょっと嫌過ぎる。

 小さくなったロウソク1本置いてったけど、これじゃ暗いし、すぐ無くなる。


 …やるしか無いのね!

 

 私はチョコレートを口に含んで走り出す。

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