君の腎臓がミルクレープに侵されるまで
水色桜
第1話魔法少女の日常
マルチバース理論に基づく変身技術。私は今日も魔法少女として街の平和を守るために奮闘する。けれど、私は1番大切な存在を守ることができなかった。1人の少女がかけがえのないものに気づくまでのお話。
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私は動く歩道に乗りながら、欠伸をする。今日は体育が2時間あるから、楽な日だ。坂道を下ると学校まで約5分と迫る。左手にはコンビニがあった。しかし何やら様子がおかしい。何故か店員が両手を上げていたのだ。よく見るとレジの前にいた男性が包丁を持っていた。私はポケットからスマホと同じサイズのデバイスを取り出し、小さく変身と唱える。すると私の制服と帽子が0コンマ5秒のうちに変わっていく。制服はフリルのついた水色のワンピースに変わり、帽子は白色のベネチアンマスク(舞踏会で使われるようなマスク)に変わる。変身した私はコンビニに勢いよく滑り込み、レジの前にいた男の手首を左手で掴み床に叩きつける。右手でナイフを持っていない方の腕を掴み、足で男の背中を蹴り、床に押し倒す。男は両手が封じられ、身動きが取れなくなった。
「くそっ!何者だ。離せ。くそっ。動けねえ。」
「あまり動くと腕を壊しちゃうかもしれないので、動かないで下さい。店員さん、警察を呼んでもらえますか?」
私は取り押さえた男を見ながら店員さんにそう指示する。そのあと10分ほどして警察が到着した。
「トワイライトさん、またありがとうございます。怪我人ゼロで解決はお手柄です。詳しく状況を聞いても良いですか?」
30分ほどして私は解放された。コンビニから少し離れた路地で変身を解く。学校に遅れちゃう急がないと。3分走り、約20分遅刻で学校に到着した。
「ごめんなさい。遅刻しました。えっとその。ちょっと人助けをしてたら遅れてしまって....。」
「今日は転校生が来るんだぞ。早く席につけ。」
私は右の列の最後尾の席に急いで腰掛ける。隣にいた心音に小声で話しかける。
「心音おはよ。実はコンビニ強盗がいてちょっと遅れちゃった。」
心音は小学生の頃から一緒の幼馴染で、黒色の長髪、おっとりした性格の子だ。
「そうなんだね。お疲れ様。ひかりちゃんにデバイスを渡して良かったよ。」
心音はこのデバイスの開発者だ。なんでもマルチバース理論がなんとかかんとかで変身できるらしい。難しくて仕組みはよく分かっていないが、そこら辺は心音に任せている。
「転校生を紹介する。入ってきたまえ。」
大山先生がそう言うと黒髪ストレートのモデルのようなスラっとした女の子が入ってきた。顔立ちが同世代とは思えないほど大人びていて綺麗と言う言葉がしっくりくるような感じだった。
「すごい美人さんだね。髪もストレートでとっても綺麗だし。」
「そそうだね。」
何故か心音の歯切れが悪い。
「初めまして。黒澤瞳と言います。中央都市の前橋市から来ました。よろしくお願いします。」
声も凛としていて、一つ一つの言葉が頭に直接響いてくるようだった。
「では左の列の最後尾に座るように。」
瞳は席に座ると周りの人からたくさん話しかけられたが、あまり取り合わなかった。人と群れるのがあまり好きではないのだろう。
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放課後、学校から出て心音の家に向かう。みなかみは群馬特別自治区内にある山岳都市で、山々の中にいくつも高層マンションが建っている。心音の家は学校から3キロ程度離れた場所に建っており、ここら辺では珍しく平家になっていた。学校を出て左に曲がり、川沿いを歩いていく。どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。私は変身し、声の方向に向かう。すると川辺に足から血を流した少年がいた。
「大丈夫?立てる?」
男の子は首を横に振る。
「ここから家は近いの?」
「うんでも歩けない...。」
「わかった。お姉さんが君をおぶって家まで送ってあげる。」
少年の家は川辺から山の方向に500メートルほど上がった先にあった。少年を家まで運び、私は心音の家に急いだ。約束の時間に遅れてしまう!
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「はあ、疲れた。なんで人は転校生だと言うだけでこんなに話しかけたがるものなのかしら?」
黒澤瞳は帰りの車内でそう呟いた。瞳は親の意向で転向する羽目になったので、この転校自体も嫌々だった。瞳は車内から川のあたりを眺めていると、水色のフリルが目の端に止まった。
「ちょっと斉木!車を止めなさい。」
車を止めてもらいよく見るとふりふりのワンピースにベネチアンマスクをつけた少女が少年をおぶっていた。初日に見つけるなんて運がいい。
「あれが多世界解釈に基づいたレベル3の宇宙間を無理矢理入れ替えることのできる人間、魔法少女。斉木、ここで少し待ってなさい。正体を突き止めてくるから。」
瞳は慌てて車内から飛び出し、少女の跡を追う。しかし、彼女の移動速度ははあまりに速く見失ってしまった。
「くっ。見失った。まあまた会えるだろうからその時に正体を突き止めればいい。」
瞳は初日から魔法少女を見つけられたことに大いに満足していた。
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心音の家に着くと、先に美海が着いていた。
美海は光と心音の2つ先輩で、身長が140cmくらいしかない小柄な人だ。しかも童顔なので小学生高学年くらいに見える。
「ごめん。少し遅れちゃった。」
「遅いぞ。光。」
「美海先輩ごめんなさい。」
「仕方ない。このセーラー服を着て写真を撮らせてくれたら許そう。」
「ちょっ。これ美海先輩がただ着せたいだけですよね。」
美海は服を作るのが得意で、魔法少女衣装も美海がデザインした。
「仕方ない。上着だけで許してやろう。下は何も履かなくて良いから。」
「ありがとうございます。これなら恥ずかしくないって、下何も履かなかったただの変態じゃないですか!」
そんなやりとりをしていると心音が笑いながらお茶を持ってきた。
「ホント2人の会話は面白いね。」
「いやいや。危うくかなり際どい衣装で写真撮られるところだったんだよ?」
「失礼なこれでも僕は歩く変態衣装家と呼ばれているんだよ。」
「いやそれもう怒って良いレベルの侮蔑ですから。」
「ところでひかりちゃん、美海ちゃん、今日は新しい衣装の相談会のはずなんだけど。」
美海と話しているとつい話題が逸れてしまう。
「美海先輩、新しい衣装はどう言う感じですか?」
「ああ。向日葵をイメージした明るい色合いにしてみた。夏用の衣装として作るなら向日葵がいいかと考えてな。これだ。」
「おーかわいい。」
心音と声がハモった。
「じゃあデバイスにこの衣装を取り込むね。」
心音の後ろには高さ2メートルほどの箱にパソコンの取り付けられた機械が鎮座していた。心音は服をハンガーにかけ、機械の中に入れる。ボタンを押すと服が光になって機械に取り込まれる。次に心音はパソコンを操作して取り込んだ情報をデバイスの中に移動させていく。
「これで完了。ひかりちゃん変身してみて。」
私は変身して衣装を合わせてみる。
「良い感じだな。我ながらセンスがいい。」
変身とは服が変わるだけの技術であり、身体能力が上がったりはしない。ただ素性を隠すには便利な技術なのだ。
こうして魔法少女トワイライトの新しい衣装が完成した。
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