世界の頂 空間を統べる者たち

三波千世

プロローグ


 「やっちまった…。」


 ぽつり、と暗い空間に言葉が落ちる。響いたような響いていないような。

 ふわりと淡い光に照らされ、浮かび上がった細身の男のシルエット。その足元で何かがきらりと光った。

 男は薄暗い中で頭を掻く。そして足元に散らばった無数の欠片に手を触れようとして、やめた。


 「これってどうなるんだ、俺は?」


 こつ、と背後で足音がして、男は振り返った。


 「これは、大変なことだ……。」


 少し背の低い老人のようだ。

 男は一歩後退して、止まる。何もやましいことはない。


 「状況を説明する必要はあるか?」

 「お前が消滅していない所を見れば他の者の仕業だということ、そして、それが誰なのかくらいは察しがつく」


 強張った老人の顔が浮かび上がった。半月形の眼鏡越しにひたと男を見つめる。


 「ただ、まあ、補足説明くらいはしてもらおうかの。」


 ぐらり、と足元が揺れ始めた。

 老人は天を仰ぐ。男はしゃがみ込んで項垂れた。


 「ビックバンだ」


 男の足元に散らばった欠片が振動のためにカタカタと音を立てて移動し、何かに吸い込まれるようにして消えた。

 男は盛大な溜息をつく。


 「新しいブラックホールができちまった……。」


 心底困り果てた情けない声であった。

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