死神と踊る前夜

グレイジー

モーテ

第1話 故郷ハイムの崩壊

「モーテ!隠れて!!」


お母さんが必死の形相で俺を抱える。

外に出て聞こえてくる音はもう何が何だかわからない。悲鳴?轟音?叫び声?

いや…全部か


「じっとしててね!!」


お母さんは必死に走る。何から逃げてる??

わかんない…怖い。


「大丈夫だから大丈夫だから」


周りの人もみんな逃げている。人の波…あっお肉屋さんのおじちゃん…


ブゥン


次の瞬間、おじちゃん含めすぐ隣が吹き飛んだ。


「は?」


「見ちゃダメ!嘘…もう?兵士は何を…?しーるど


お母さんが魔法を使…たのに俺もろとも吹き飛ばされた。

その時おれは初めて自分の変わり果てた故郷を見渡せた。


「どこ?ここ」


「モーテ!」


お母さんがぼーっとする俺を抱きかかえてまた走る。

嫌でも気づいた。赤く湿る…。


ブウン


次の瞬間、俺も、お母さんも、周りの人も一斉にとんだ。


「あt…お母さん?」


倒れてるお母さんのとこにずるずる向かう。


「おかあさ…」


するとお母さんは急に俺を上から抱いた。そして人差し指は俺の口元へ…


声が出ない。


動けない。


「他のところはどうだ?」


「どこも順調です。兵の抵抗はありましたが既に9割がた沈黙。滞りありません」


「そうか…」


薄れ行く景色の中…大剣を持つ大男が見えた…








そこからはよく覚えていない。ただ…少しの浮遊感があった気はする。




――


「ひどい死臭ですね…」


「戦争は初めてか?新兵」


「グリレット大将!はい…情けないことに」


「別に恥じることじゃない。平和なのはいいことだしな。俺みたいに慣れるのがおかしいんだこの空気、匂いに」」


カラスが舞う。


「病気に気をつけろよ」


「はい!!」


「うわ!!」


他の兵が急に声を上げた。


「ただのカラスだ…でかくね?」


数多の死体の上で大きなカラスが羽ばたく。


「ん?は?子供?」


「子供持ってくぞあいつ!」


「撃ち落とせ!!」


「構わん!!!」


「「「!?」」」


「ガキ1人分の死体がなくなったところでだろ」


スウ


「!?」


(いや…まさかな)


グリレットは一瞬よぎった考えを振り払った。



――


「はっ!?」


起きたのは森の中…


「どこだここ?ハイム…じゃない。お母さん?」


だがその言葉を言った瞬間に思い出した。


「あっあああああああああああぁあああ!」


冷たい…

森の冷たさか…

残ってしまった冷たくなっていく母の感触か…わからない。


全部残っている…その目で見たものも、聞こえてきたものも。触れたものも…


戦争という言葉を知らない5歳の子供でも分かる。絶望の世界。


「殺す…あのでかいやつは…絶対…!!!!!」


俺はこの時に復讐を誓った。

その瞬間だった。


【いいね】


聞きなれない声と共に黒い?モヤが目の前にかかる。


「なに?」


やっぱり死んでたのかな?


そんな世界にいざなわれた。

大量の骸骨、石、木。


「どこ?寒い」


酷く寒い。冷気が漂っている。それでも俺はなぜか歩いていた。導かれるように…


「なにこれ?」


黒い?黒…?水色?灰色?何とも言えないオーラの剣。

でも、わかる。これに向かって歩いてきてたんだと。


【抜けるよ】


言われなくても分かる。手に取って引っこ抜く。


「え?」


その瞬間、剣が消えてしまった。


【大丈夫、もう君の中にある】


「だれ?」


【じゃあね。楽しみにしてる。頼むよ】


「え?」


視界が回っていく。あれ?声も遠のいていく


【…いっぱい殺してよ】


俺は最後の言葉を聞けなかった。


「なんだったの?」


周りを見る。冷たい。森の中。戻ってきた。


ぐううううううぅぅ


「家…ご飯…お腹空いたよお」


情緒はぐちゃぐちゃなのにお腹は空く…


「お店…もないよね…おじちゃん…」


周りを見渡しても森だ。植物、木とかしかない。

木のとこに生えてる草が目に入る。


「この草食べれるかなあ…」


――「モーテ!落ちてるもの口に入れない!食べちゃダメ!」


「何を食べていいの…お母さん…」


ふらふらと歩く。何かないかな…と。


「あっちの方がありそう」


草が少し多い。

根拠も何もないがそっちの方に歩いていく。


ゾワッ


寒気?!あの時より…はっきりと…怖いとかじゃない。息もできない。何かいる!


恐る恐る振り向いた。


「うわあ…」


それは驚きすらなくなる綺麗な姿。


銀色と白色の毛皮。すらっとしたフォルム。金色の目。狼?

狼に見える。でも…それを超越した生物だと思う。そんな圧がある。


しばらく見とれていると…その生物はゆっくりと歩いていく。

足音が一切しない。


「ついていっていい?」


意思の疎通ができるわけないのに聞いてしまった。いや…意思疎通できるほどの存在だと思っていた。これは獣ではない。


そいつは首を横に振る。


「だめ?なんで?」


そいつは次に尻尾で俺を少し押す。


「座れってこと?」


次はうなずいた。

素直に俺はそこに座り込んだ。


…………………………


気づいたらいなくなっていた。風を切る音すら聞こえない。


「なんだったんだろう?」


分からない。それでも座ってろというのを守って待っていた。

根拠もなく。


時間も経ち少しウトウトしていたところにそいつはまた来た。

何か咥えている。


「鳥?」


二羽いる。

そいつがそのうちの一羽を食べだした。


「え?食べろってこと?いいの?」


でも鳥をそのままって…食べれるのかな?肉?なのこれ?

それでも食べた。お腹が空いていた。結局貪りつく。


「うええぇまずい…」


アッ少しむって顔した。


「ごめ…ごめんありがとね。お腹空いて死んじゃいそうだったから。俺はモーテ。名前なんて言うの?」


首を振る。


「ないの?じゃあつけてあげる!う~ん狼だから…ウオーンさんとか?」


頭突きされた。いてえ。


「だめか…えっと…えっと…」


考えていたらお母さんの顔が浮かんだ。それと同時に出てきた言葉…


「エルタは?」


……


だめか…


コクッ


!!!!!


「いいの!?じゃあエルタだ!よろしくね」


手を出す。


エルタはその手に少しだけ鼻先をくっつけてくれた。

次の瞬間。エルタは消えた。

足音もなく。


――あとがき――

カクヨムコン用の新作です!!応援してくれると嬉しいな。


随分ダークな話です。


面白い、気になるって方は星やコメントやレビューお願いします。

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