悪役令嬢×婚約破棄×魔法能力=???

マイネ

第1話 巨乳とアボカドと婚約破棄


「アリッサ!貴様との婚約を破棄する事を、ここに宣言する!」


 そう高らかに叫んだのは、第二王子であり、私の婚約者であるレオナルド様だ。


「癒し系スキルを持ったナタリーを妬んで、嫌がらせをする性根の腐った女が、王子である俺の妃に、相応しいわけがない!」


 それを聞いたナタリー様?と思われる女が、涙ぐみながら、レオナルド様に豊満なお胸を押しつける。

 誰だか知らないけど、とても魅力的なお胸をお持ちなのね…。レオナルド殿下…鼻の下が伸びていらっしゃるわ。最悪ね。


「あぁ。ごめんよ優しいナタリー。怖い思いをさせてしまったね?けれど、もう大丈夫だ。無能な悪女は、俺がやっつけてやるから」


 【無能な悪女】呼ばわりされたのは、私。アリッサ・ローレンだ。侯爵家の長女で第二王子殿下の婚約者…だった。先程、破棄されてしまったから、過去形になってしまったわ。


 私が無能呼ばわりされたのには、理由がある。


 この王国の貴族達は、それぞれ1つだけ魔法が使える。私も、もちろん使える。


 そして、その魔法は家紋によって系統が分かれている。これは、その家紋の当主に優勢遺伝子を持つ者を選ぶ事で、子孫に代々引き継がれ、守られている。

 系統だけは安全を守る為に、オープンにされている。我が家紋の系統は、無能系だ。


 しかし、個人が使える魔法の内容は、秘匿されている。 

 そもそもが個人情報だ。それに何より、魔法の内容を知られるだけで、弱点になり得る。

 それだけ危険な事だと認識され、敢えて秘匿されているのだ。


 この国の貴族達は、それぞれの魔法を生かし生活している。高い能力を持つ家紋は栄えるし、低い能力であれば、現状維持を目指して皆が皆、個々の魔法に依存して生きている。


 王子の話が正しければ、ナタリー様の系統は癒し系らしい。

 

 我が家は無能系だが、金儲けの才能はあった。魔法はあまり使えないのだが、金儲けをするだけなら、魔法を使わなくても出来たのだ。


 魔法を使わない金儲けを、代々継続した結果、我が家は無能系にも関わらず、財産総額だけで見ると、王家にも迫る勢いであった。


 金に目が眩んだ王家によって、この度、王子と私が、婚姻を結ぶ事になったのであった。


 魔法至上主義のこの王国で、無能系は侮蔑されている。影では無能侯爵家と呼ばれ、馬鹿にされているのを知っている。


 これは、魔法を使えないのに儲けている、我が家紋に対しての、僻みや嫉みからくる、蔑みなのだと知っているから、私はあまり気にしていない。




 …いけない。放心してしまったわ。慌ててレオナルド殿下に意識を戻す。




「そうだ!お前の無能さを、皆に教えてあげよう!そうすれば、いかに俺の婚約者に相応しくないかがわかるはずだ!さぁ!お前の魔法を皆の前で使ってみせろ?」


 はぁ。本気で言っているのかしら?

 魔法は重要な個人情報だ。如何に王族と言えども、許される行為ではない。


 貴族達も困惑している。まぁ、大半がクスクスと馬鹿にして、笑っているのだが…。


 あ。ナタリー様も笑ってるわ。先程、怯えていたのは、やはり演技なのね。嫌だわ。


 でも…良いか。こんな事されたら、どうせ社交界では終わりだ。最後に魔法を披露するのも、悪くないかもしれない。


 それに私は、もの凄く腹が立っている。どうせだから、演技も全力でしてやろう。


 そう決意した私は、涙を浮かべ、おどおどと、怯えた様な態度をとった。


「…で、でも魔法は…秘匿されるモノであって…皆様にお見せするようなモノでは…」


「ハハハハ!面白い。王子である俺に、まさか逆らうつもりか?不敬罪だなぁ!それともこのまま、捕らえてやろうかぁ?」


「そ、そんな!…わ、わかりました。お見せしますっ…」

 後半は、わざとべそべそと泣いてみせた。私って、意外に演技が上手だったみたい!才能があるわ。


 怯えながらも、艶やかに見えるように、敢えて官能的に手袋を外した。すると、ハッと息を呑むような声が、そこかしこから聞こえてくる。


 皆が好奇の目で、私の様子を食い入るように、見つめていた。


 私は、近くのテーブルに置いてあったアボカドを手にし、皆に見えるように左手で掲げて見せた。


 そして、先程手袋を外した右手で、パチンと指を弾き、音を鳴らした。


 だが、無情にもアボカドには、何の変化も起きない。


「フハハハハ!ただでさえ無能なのに、魔法も上手く使えないなんて、無能な上に無才能なのかよ!それで俺の妃になろうとか!夢見過ぎだろ!クハハハハハ」


 王子の発言を皮切りに、一斉に貴族達が私を蔑み笑い辱める。


 私は俯いて肩を震わせた。そして、涙を流しながら

「も、もう一度だけ…もう一度だけチャンスをください。お願いします!お願いします!」


 と、恥をかき捨てたかの様に、必死に頭を下げた。


「クハハっ!そこまで言うなら、仕方ないな。良いぞ。許可する。俺は優しいからな?」


「あ、ありがとうございます殿下!」


 と言って、私は再度左手を掲げ、右手の指を再び弾いた。パチン。


 すると、今度はアボカドの殻や身はそのままに、種子だけを完璧な状態で、取り出す事が出来た。これが、私の魔法だ。


「おいおいおいおい?まさかそれだけか?お前の魔法【アボカドの種を取る魔法】とか、本気で言ってるのか!?プハハハハハあり得ないだろ?これは流石に無能すぎるクハハハ」


周囲が再度騒めき、私を馬鹿にした笑いが会場中にこだました。


「も、申し訳ございません。私にはこれしか出来ません」


「クハハハハハ聞いたか?ナタリー。お前に散々嫌がらせをしてきたコイツは、信じられないぐらい無能だぞ!」


「レオナルド様ぁ。その様におっしゃっては、いけませんわ。人には出来ることと、出来ないことがありますものっ」


「ナタリーは優しいな。…こんな無能に、もはや何の用もない。即刻、俺の前から消えよ!!」

  


「…仰せのままに」

 と応えて、私はアボカドを手にしたまま、会場を後にした。


 会場では、私を馬鹿にして嘲笑う笑い声が、永延とこだましていた。





 馬車に戻り1人になると、私はゆっくりと思考の海に堕ちていった。


 今日に限って両親は参加していない。きっとこの婚約破棄は、前々から計画されていたのだろう。


 …レオナルド殿下は、少し頭がお悪い所はあるけれど、そこが可愛いく思えて、案外気に入っていたのに…。こんな事されるなんて、本当に傷付いたわ…。


 それにしても、ナタリー様と言ったかしら?とっても素敵なお胸でしたわ…。殿下を骨抜きにしたそのお胸…。頼んだら一度くらいは、揉ませて頂けないかしら…?


 …そんな事は良いとして、ナタリー様は癒し系と言っていたわよね。…どこのお家のご令嬢なのかしら…?王国に、その様な系統の家紋は、なかったと思うのだけれど…。


 まぁ、どうでも良いわね…。

 もう私には関係ないのだし。考えるだけ無駄だわ…。


 けれど、家紋の評価を下げてしまったわ。母様と父様には、謝罪しなければならないわね…。…本当嫌になっちゃう。


 それに、私とて、うら若き乙女ですもの。あんなに沢山の人に嘲笑されて、心底傷つきましたわ…。



 今夜は飲み明かそう。復讐は既に果たした。悪い夢だと思って、全て忘れよう。



 そして、馬車の窓からアボカドを投げ捨て、1人クサクサと、家に帰ったのであった。


 夜の闇にグシャッと不気味な音だけが、やけに響いたのだった。



………………………………………………………………………………




●夜の王宮 ナタリー視点



「レオナルド様ぁ!今日わぁ、とってもカッコ良かったですわぁ!ナタリーはぁ、また惚れてしまいましたわぁ〜」


 そう言って私は、レオナルドにしなだれかかる。もちろん自慢の胸を押し当てる事は、忘れない。


 そして、レオナルドの胸部に、ソッと手を添える。こうすると、心臓のより近くで魔法を使える。私の魔法は強くないため、手で触れる必要がある。


「それは良かった。ナタリーを苦しめる無能は、許してはおけないからな」


 レオナルドは、当てられた、私の胸の感触を楽しみながら、谷間を熱い視線で見つめている。


 こんなに熱心に見つめておいて、気付かれてないと思っているのだから、レオナルドはとっても可愛い人だわ。


 私は悪戯するように、指でレオナルドの胸にハートを描く。そして、溶けたような表情で見上げ、甘えた声を出す。


「レオナルド様ぁ。これで私達の仲を、妨げるモノは何もありませんわぁ?今日こそわぁ、最後までナタリーを、可愛がってくださいませっ」


 といって、彼の息子を撫で上げようとした。 

 若々しい彼の息子は、きっと既に、我慢出来ないと涙を流しながら、震えているはずだ。 


 そう思いながら、彼の息子を艶やかに見えるように、撫で上げる。


 ……可笑しい。


 予想に反して、彼の息子は元気がない。



 コイツ。私が誘惑してやってるのに、何でこんなに元気がないわけ?そんなことあり得る?なんだかんだ言って、あの無能が好きだったとか?


 …いや、流石にそれは無い。


 だったら、何?私に魅力がないとでも!?私じゃ興奮しないとでも言うわけ!?


 それこそあり得ないでしょ!?だって私は、魅了系なのよ!?魔法だってかけ直しているんだもの!絶対にあり得ないわ!!


 そして、激しい怒りが込み上げる。


 何かケチがつく前に、既成事実を作りたかったのに、この大事な時に!!何でこんなに、やる気がないのよ!?


「…すまないナタリー。おかしいな…そのうち元気になるさ…」


 と言って、レオナルドは私を抱きしめてきた。…そのうちっていつよ?私には時間がないのよ?焦る私を気にしたのか、レオナルドが更に続ける。


「心配ないよナタリー。俺達の愛は、今日舞踏会に出ていた貴族の皆が、証明してくれる。…すまない。少し調子が悪いが、すぐに元気になるさ…」


 そう言って、レオナルドは慰めてくれた。彼は優しい。私は、彼の息子が元気を取り戻せるように、全力で技巧を凝らした。


 しかし、その努力が実る事は無かった。


 彼の息子は少し兆すものの、すぐにやる気を無くしたり、強度を保つ事が出来なかった。



…………………………………………………………………………………





□侯爵邸 アリッサ視点




 1ヶ月後、レオナルド様が田舎で療養されると、風の噂で聞こえてきた。


 レオナルド様は、あの事件以来、活力がなくなり、筋肉も落ち、酷く女々しくなられてしまったそうだ。


 これから田舎で療養されるらしい。まぁ、療養と言う名の、幽閉だろう。


 ナタリー様は、隣国にご実家があったようだが、癒し系ではなく魅了系だと判明した。これにより、王家を謀った罪に問われた。


 しかし、諸事情により、レオナルド様と一緒に田舎に連れて行かれたらしい。


 …どうか、2人で末永くお幸せに。



 この噂を耳にしたことで、私の復讐は、無事に完了した事を確認出来た。


 私は勝利の美酒を味わうように、手元の紅茶を飲み干した。



 …異なる世界から、妙な箱を通して覗き見されている、そちらの皆様には、コッソリ種明かしをして差し上げますわ。


 もう少しだけ、お付き合いくださいませ。


 まず初めに、ローレン侯爵家の魔法は【無能系】だ、と認識されておりますが、本当は少しだけ違いますの。


 あまりに限定的な使用用途しかないので、無能系とされておりますが、実際は根絶系と言う方が、正しいですわね。


 そして、私、アリッサ・ローレンの能力は、根絶系の代表格と言っても良い、種子や子種に関与するものを、自由に操れる魔法ですの。


 勘の良い方は、既にお分かりかもしれませんわね。


 あの日私は、2回指を弾きました。

 もちろん2回とも、キチンと魔法は成功しておりましたわ。私、魔法は得意でしてよ。


 1度目で、レオナルド殿下の実…つまり睾丸の中身を全て取り除き、代わりにアボカドの身を詰めておきました。中身を同じ分だけ交換してみましたの。

 私には付いてないので、よくわからなかったのですが、重さでバレたら、大変ですもの。


 そして、2度目は、皆様もご存知の通り、アボカドの種のみを取り除き、皆様の前で晒して見せました。


 この時、アボカドの皮の中には、殿下の睾丸の内容物と、アボカドの種子と殿下の睾丸に入りきらなかった、アボカドの身が入っておりました。この中から綺麗に、アボカドの種子だけを取り除きましたの。


 手にしているアボカドの中身を考えると、心底気持ち悪かったのですけれど、証拠になってしまうので、仕方なく持ち帰りましたわ。


 まぁ、やはり気持ち悪かったので、途中で捨ててしまいましたけど。


 殿下の睾丸は、そろそろ腐り落ちてしまったかしら?

 …お可哀想に。…まぁ、私がやったのですけれどね?フフフっ。


 けれども、殿下がいけませんのよ?私に対して、観衆の面前で婚約破棄を叩きつけて、皆の前で、辱めて、嘲笑ったのですもの…。

 こんな事をされた令嬢は、まともな所へは嫁げませんわ…。私の人生設計が全て、崩れ去ってしまいましたわ…。


 …更に、自らの魔法を皆の前で、披露までさせられましたし…。

 これはこちらの世界では、本当に命の危機に関わりますのよ?


 私ったら…本当に…可哀想ですわぁ…。

 ね?皆様もそう思いますでしょ?


 …まぁどうでも良いですわね。

 私と関係のない世界で生きる方達ですもの。


 少しでも楽しんで頂けたのなら、幸いですわ。


 私には何も出来ませんが、ささやかながら、皆様の幸運をお祈りさせて頂きますわ。



 アリッサ・ローレンより



……………


□ちょっとだけ未来 アリッサ編

 


 その後、何もかも終わったと、ヤケクソになったアリッサ嬢は、傷心旅行と称し、隣国に行く。


 何もかも投げやりになっていたアリッサ嬢は、隣国で見つけた素敵な男性に対して、

「貴方の子種、頂いてよろしいかしら?」

 と、述べて、無意識に口説き落としてしまう。


 アリッサ嬢的には、魔法でチョロっと頂く予定だったようだが、残念ながら彼女の予定は、ここでも無残に崩れ落ちる事になる。


 彼女のお望み通りに、たっぷりと子種を頂けたのだが、それは彼女が望んだ方法ではなかった。

 誰もが知る、正規の方法で頂いたのであった。


 彼女の人生は残念ながら、何事も予定通りにはいかないのであった。


 その男性が、実は公爵様で、正式に結婚を申し込まれたり、子種が無事に育って子宝に恵まれたり、不妊に悩める夫婦達を救ったりするのだが、それはこれから随分と先のお話だ。


 そして、どうやら、ローレン侯爵家の魔法は、無能系でも、根絶系でもなく、子種操作系だったらしい。





…………………………………………………………………………………




●田舎の幽閉先 ナタリー視点



 私ナタリーは、王族を謀った罪に問われた。本当なら処刑か生涯幽閉だろう。


 しかし、性欲と男らしさを同時に無くしてしまった、レオナルド様の治療に有用と判断され、今も一緒に居られている。


 今後、死ぬまで、私が自由になることはないだろう。…それでも良かった。

 

「…すまないナタリー。俺はもうダメだ。君を満足させる事が、永遠に出来ない身体になってしまった…それに、自信も活力も…失ってしまった…俺は本当にゴミクズ野郎だ…」


「…レオナルド様…」

 

「父には俺から話をつけておく…俺のことは忘れて、君の人生を歩んでくれっ…君の時間をっ…これ以上奪いたくないっ」

 言いながらレオナルドは、男泣きしていた。


「…もうっ!そんなこと言いっこ無しですよぉ!私はぁレオナルド様がぁ、だーい好きなのぉ!後先考えずに、魅了しちゃうくらい、大好きなのっ!!」


「だが…しかし…っ」


「んもぉ!【だが】でも、【しかし】でもないの!それに、レオナルド様!私知ってるんですよっ!」


「な、何を!?」


「レオナルド様は、私のお胸が、何よりもだーい好きな事っ!」


 そう言いながら、私は思いっきり、レオナルドの顔に抱きつき、胸に沈めた。


 本当は複雑な気持ちだ。

 けれど、私は本気でレオナルドを愛している。そうでなければ、魅了なんかしない。

 私と彼の今後の人生は、想像するよりも過酷かもしれない。


 けれど、大好きなレオナルドと一緒なら、何とかなると信じている…。


 あ、いけない!レオナルドがピクピクしてるっ!

「ごめんなさぁい!レオナルド様、ナタリーの愛が溢れちゃったっ!」


「はぁはぁ…苦しかったが、嬉しかった。…ありがとうナタリー。俺も君をっ…愛している。…一緒に居てくれっ」


「もちろんですわ!レオナルド様っ」


 その後、子種は戻らないものの、一応実戦で使用可能なぐらいまでは、復活したとか、しないとか…。


 真相は、生涯幽閉された2人にしか、わからないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役令嬢×婚約破棄×魔法能力=??? マイネ @maine25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ