第17話:黒衣のアスマ
「わしの名はアスマ、黒衣のアスマと呼ばれておる」
目の前で骸骨が顎をカタカタならしながら、自己紹介してる。
すごくシュールな光景。
というか……自分で二つ名を言うのって、恥ずかしくないのかな?
あれからな? 享年13~14歳とかの人なのかな?
それともコクイノ アスマさんとかかな?
そんな苗字は無いか。
しょっぱなの挨拶で、ちょっとアレな人だという印象が……人じゃはないけど。
あと、ゴブリン並みに……いや、それ以上にキモいからこっちを見ないでほしい。
まあ、こっちも名乗るべきかな?
まてまて、それよりもこいつはどうやって喋ってるんだ?
絶対声帯とかないし……
もう少し喋らせてみた方がいいかな?
やっぱり自己紹介しとこう。
「あっ、どうも。サトウです。一応、ゴブリンロード(課長)です」
うーん、名刺とかあった方が良い気がしてきた。
ジャッキーさんにお願いしておこう。
「ふむ、ゴブリンロードか……」
いや、サトウ。
あっ、やばい。
なんか、目が怪しく光ってる。
これまずいやつじゃないかな?
慌ててウエイトモードを発動。
***
「うわぁ……」
自分のステータスを見たら、しっかりと状態異常が。
精神支配。
思考誘導。
勿体ないけど、今後のことを考えて精神攻撃耐性をあげまくる。
ゴブリン達と違って、最初からポイントがたくさんあるからいいけど。
なんか、無駄に使わされた感じがして、ちょっと気分が悪い。
まあ、ついでに聖属性結界魔法と、聖属性攻撃魔法をいくつか。
いや、魔法は良いんだよ、魔法は。
だって、魔法が使えるって凄い楽しいし。
テンションも上がるし。
ただ、ポイントもそれなりに消費するから、切欠が無いとなかなか上位魔法って踏ん切りがつかないんだよね。
ゴブリン相手だと、容赦なくポイントガンガン浪費できるけど。
ちなみにゴブエモン達は唯一、きっちりゴブリンⅩに進化して次のステージに進んでいた。
ゴブリン侍とか、ゴブリンプリーストとか、ゴブリンウォーリアとか。
あー、ゴブエモンのゴブリン侍はユニーク個体らしいけど、思ったのと違った。
髪の毛も生えなかったし。
髷を結えないのに、侍とか……
それよりも、送り出したゴブリン全員が武器が木の棒とか素手とかだったんだよな。
ダンジョンで装備とか手に入るかと思ったけど、そういったものは相当珍しい部類らしい。
ダンジョンで見つけたものは、持って帰れるものは持って帰ってた。
盾とかあったけど、使ってないらしい。
いや、使ってもよかったのにと言ったら、なんか奥歯に物が挟まったような顔をしてたな。
「だから言ったじゃん! 使えるものは使った方が良いって! ロードに献上するの一点張りで、大事にしまってて怪我したら意味ないっすよー。バッカみたいっすね」
とキノコマルがプリプリと文句を言ったら、その直後に無言でゴブマル達が殴りかかっていた。
「お前の意見が正しかったのかもしれんが、お前に言われるのは腹が立つ」
とは、ゴブマルの言。
いや、それもうただの八つ当たり。
可哀そうだから、やめたげて。
キノコマルがコミカルな動きで、全部躱してた。
そういうとこだぞ?
煽った責任として一発くらい、殴らせとけ。
とりあえず、自分のステータスを確認。
状態異常は全て、解除されたようだ。
よし、ウエイトモードを解除と。
***
「ほう?」
俺の様子を見て、コクイノアスマさんが驚いたような声を出していたが。
表情が分からない。
(ほうじゃねーよ! ほうじゃ! いきなり精神攻撃かましてくるんじゃない!)
と言ってやりたいけど、動く骸骨ってなんか怖い。
てか、いきなり攻撃かましてくるような相手だ。
刺激したら何されるか、分かったもんじゃないし。
「流石は、ゴブエモン殿の主じゃの」
「褒めても、何も出ませんよ。それよりも、ここには何をしに?」
とりあえず、お茶漬けでも出しとくか?
物とか食べられるのかな?
あー……何も出してないや。
「お主に興味が湧いての……あれ? お主、よく見なくともゴブリンではなさそうじゃが」
「ゴブリンかどうかは別として、ゴブリンロード(課長)で間違いないですけど?」
「いや、人間じゃよな?」
「人間かどうかは別として、ゴブリンロード(課長)です」
「……まあ、些末なことか……些末なことか? いや、結構重大な気が……」
「そんなことよりもう一度聞きますが、ここには何の用で?」
全然話が進まないので、とりあえず強引に続きを。
「そうじゃそうじゃ! ゴブエモンがお主のことを、ものすごく強いと言っておったからのう。わしよりも遥かに強いらしいのうお主? どうじゃ? 一つ手合わせでも」
なんか、面倒くさいことを言い出した。
ゴブエモンも、適当なことを言うな。
おかげで、なぜか矛先がこっちに向いたのだろう。
でも、この人めちゃくちゃ強そうだし。
うん、断ろう。
「いやですけど?」
俺の言葉に、アスマさんの動きが止まる。
それから、一度首を傾げる。
肉がついてないから、頭蓋骨が転がり落ちそうだ。
大丈夫そうだけど。
あっ、動き出した。
顎がカタカタ言ってる。
「カッカッカ! ゴブエモン殿が挑む気も起きぬほどの強者と言っておったが、とんだ腰抜けじゃのう」
笑ってたのか。
でも、嫌なものは嫌だな。
「それでいいです。手合わせは嫌です」
「挑発には乗らぬか……ならば、否が応でも応えてもらおう」
アスマさんが何やらやってきそうだったので、
「嫌です」
「……」
何もないところから、ジュっという音とともに煙が上がるのが見えた。
やっぱり、何かしてやがった。
さっきから、不意打ちばっかだなこいつ。
「ぬぁっ! まさか、上級聖属性結界だと! ゴブリンロードといえど、単体で発動……いやそもそもなぜ?」
この人も、結界の範囲内にいるはずなんだけどなー。
普通に、説明口調ではしゃげる程度には元気かー。
全身から煙を出して、今にも消えそうな雰囲気出してるのに。
あっ、口を開いた。
「クハアッ!」
楽しそうな表情だからか、この変な声は笑い声かな?
新しい、笑い方だな。
カッカッカとしか、笑えないかと思ってけど。
吹き出し笑いみたいな感じなのかな?
「これでは、我ではお主には手を出せぬな……ゴブリン共の強化の秘密を知りたかったのじゃが。ここに来るまでに見たゴブリン共もおかしな進化をしておったしのう」
あー、アスマさんは本当に純粋に、ゴブエモン達に興味があったのかな?
もう少し、ちゃんとした対応をしてくれたら、こっちもきちんと対応したのに。
それこそ、お茶くらい出してあげたのに。
まあ、もうお客さんじゃなくて迷惑な敵よりの客だな
「配下のゴブリンのステータスを、俺はいじれるからな……レベルが上がった時に、通常の能力の上昇以外に特典があるんだ。それを使えるのは俺だけだけど」
「ふむ」
ふむじゃねーよ。
「それは、わしにも使えるのか?」
「配下のゴブリンにしか使えないけど?」
「そうか……わしが、配下になれば使えるか? その特典による強化とやらは?」
「あー……、いや無理かなー」
なんか、変なことを言い出したけど。
「ごまかしても無駄じゃぞ? 何やら、考えがあるのだろう?」
「いやいや、たぶんできないけど、そういったの確認しておいた方がいいかなって」
「ほう? 確認とな? お主も探求心が強いのか?」
お主もって言われても、誰と比べられてるのかわからないし。
まあいいや。
ゴブリン以外も配下にできたりしたら、それなりに色々な幅が広がりそうだし。
ちょっと、聞いてみよう。
「じゃあ、上の者に聞いてみるわ」
「ん? お主よりさらに上の者がいるのか?」
「まあ、役割的には俺のお手伝いさんだけど……かなりのお偉いさん」
「魔王……」
違うけど?
あれ?
魔王なのかな?
まあいいや。
「ジャッキーさーん!」
「はあ? なんですか?」
あれ?
ちょっと、不機嫌?
なんで……
ジャッキーさんの視線が俺の腕に。
時計?
時間を確認。
16時48分。
なんだ、まだ大丈夫じゃん。
「いや、もう帰る準備しないといけないのですが?」
「いやいや、17時まできっちり仕事してくださいよ! 帰宅準備は仕事じゃないですよ?」
「今日は大事な、用事があるんですよ」
「用事? それは申し訳ない。ただ、ちょっと緊急事態というか……」
狼が用事ってなんだろう?
それよりも、状況を説明しないと。
ちらりと、アスマさんの方に視線を……あれ? いない?
辺りを見渡す。
いた。
めっちゃ、平伏してる。
「アスマさんどうしたの?」
「うるさい! 黙れ! こっちを見るな」
アスマさんが、小声でなんか言ってるけど下を向いて喋ってるから聞こえにくいな?
「はっ? なに? ジャッキーさん時間なさそうだから、急いで事情説明したいんだけど?」
「ばっ! おぬし、あの狼をなんじゃと思うておる! 魔王どころか神獣ですらない! 神の一柱に等しい力を放っておるというのに」
「なんじゃと思うておるって言われても、上司兼サポーターなんだけど」
「はあ?」
アスマさんが一瞬顔を上げたかと思ったら、すぐにまた下げた。
「サトウさん、用件はなんですか?」
「あっ、いや……はあ。本当は本人から確認させたかったのですが、このアスマさんて人が俺の部下になりたいらしくて」
アスマさんの方をちらりとみる。
すごい勢いで、こっちに振るなと首を横に振っていた。
いや、骸骨の状態でそんな激しく首振るとか。
取れちゃわないかな?
おーい! アスマさーん?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます