第13話:【閑話】ゴブマルの冒険譚(1)

 私はの名前はゴブマル。

 偉大なるゴブリンロード、サトウ様より頂いた名前だ。

 そして、今回のダンジョン攻略部隊のリーダーを任せられた。


「秘境探検とかロマンだな」


 それぞれ任務を与えられたチームのリーダー3人が、前日の夜にサトウ様に掛けられた言葉だ。

 私の他にゴブゾウと、ゴブエモンの2人がその場にいた。

 心からそう思われているのが、とてもよく分かるお顔であられた。 

 集落が万全ではないゆえに、サトウ様はあまり外に出られることが出来ない。

 寂しさもあったのかもしれない。

 

 5人一組での旅。

 目的は、さらなる高みへと登ることだ。

 正直、現時点でそこまでの手ごたえは感じていない。

 適当に雑談しながら、魔物を狩って奥を目指しているが。

 強敵とよべる相手にはまだ出会えていない。


 こんな調子で、仲間たちも少し気が緩んできていた。

 だから、無駄話も多くなる。

 注意して気を引き締めさせようかと思ったら、集落一空気が読めない男が俺に話しかけてきた。

 キノコマルという名のゴブリンだ。

 とにかく変な行動と、失言が多い困った奴だ。


「ゴブマルさん、うち思ったんすけど」


 思うな!

 黙って歩け。


「ロードって」


 ロードに関する話?

 どうせ、ろくなことを思ってないだろう。

 だから、その先は言わなくていい。

 いや、むしろ言うな。

 ふりじゃないぞ、絶対に言うなよ。


「あれ絶対、ゴブリンじゃないっすよね?」


 言いやがった。


「人っすよね? どう見ても人間っすよね?」

 

 くそ……集落の者たちもうすうすそんな気がしていたが、気付かないふりをして誤魔化してきたのに。

 

「ロードは偉大なるゴブリンの最高位であらせられる。くだらぬことを言うな」

「えー、でもあれ人間っすよ? もちろん、絶対上位者であるロードであることは認めるんすけど……どう見ても、見た目人じゃないっすか」


 あーもう……

 思わず頭を抱え込んでしまった。

 頼むから、サトウ様の前ではそんなことは言わないよう、釘をさしとかないと。


「それにロードに直接聞いたら、笑いながらそうだよーって言ってたっすよ?」


 手遅れだったー……

 てか、サトウ様……


「でも、みんなロードがゴブリンに見えてるみたいだし、うちがおかしいんかなって」


 もういい、黙って歩け……

 ずっと、無視してるのに延々この話題を振ってくるキノコマルに、流石に頭をかち割ろうかと思い始めたころ、先頭を歩いていた仲間が立ち止まって首を横に振っているのが見えた。

 少し困った様子だ。

 助かった。

 これで、キノコマルから逃げられる……厄介事じゃありませんように。


「どうした、何かあったか?」

「ゴブマルさん、セーフルームみたいですよ」


 厄介事だった。


「厄介だな。ダンジョン内の魔物が寄り付かないだけの部屋ならいいのだが」


 セーフルームとは、ボス部屋の前にある魔物が入り込めないスペースだ。

 ダンジョンにはそういった部屋がいくつかある。

 人が作ったものもあれば、ダンジョンメーカーとよばれる魔導士が作ったものもある。

 自然のダンジョンであれば、そんな便利なものは無い。

 そういったダンジョンにあるセーフルームは、人が作り出したものらしい。

 真偽のほどは定かではない。

 我が集落に滞在している人の冒険者に、ダンジョンに挑むにあたって話を聞いた中に出てきたものだ。


「キノコマル、鑑定できるか?」


 空気も読めずおバカなキノコマルだが、彼もまたサトウ様に名付けられたゴブリンの一人だ。

 そう……こんなやつでも実力は上位に位置している。

 数少ない名前を頂いた戦士の一人。

 みんな、もっと頑張れ。


 とはいえ名前を得たのは、実は実力と全く関係ないところでサトウ様に気に入られたから。

 昔ハッピーマッシュをサトウ様に勧めた時のことが喜ばれて、名前と高性能の鑑定能力を頂けたらしい。

 ちなみに、サトウ様はハッピーマッシュは食べていない。

 キノコマルが食べて、奇天烈な行動を取るのを見て楽しまれてる。

 キノコマルの奇行を、心から楽しんでおられるとのこと。

 ロードの無聊を慰めることができたようで、何よりだ。

 

「あー、これ魔物の体内にある心魔石に反応するタイプっすね。媒体は部屋の中のようっすし……より強い魔力でジャミングするっす。エルさん手伝ってっす」


 キノコマルがエルを呼ぶ。

 エルは元からの名前で、まだサトウ様より名前を頂いていない。

 今回の冒険で、なんとしても進化して名前を頂くんだとはりきっていたが。

 このメンバーの中で、ヒーラーという役割を担当しているゴブリンだ。


「いいですよ……そうですね、分かりやすく聖属性の魔力を使いましょう」


 エルが両手を合わせて祈るようなポーズを取ると、眩い光の球体が現れる。


「この中に入ってください。そうすれば、部屋の中にも簡単に入れるはずです」


 エルの言うとおりだった。

 彼女の作った光の球体と一緒に部屋に足を踏み込むと、さっきまであった抵抗が嘘のようにすんなり入れた。

 中に入った瞬間に人の気配と、血の匂いがした。

 

「っ!」

「先客がいたみたいですね」


 うかつだった。

 他の人がいる可能性を排除していた。

 部屋に入るまで、気配を感じることが出来なかったため。

 しかし、よくよく考えたら相手は結界の中にいたわけだから、気配なんかするわけがない。

 我ながら情けないと思いつつも、警戒……様子が変だ。

 相手側はこっちの存在に気付いた瞬間に、弛緩した空気が流れるのを感じ取れた。


「あっ、ジャック! 人だよ! 人が来た! これでエルが助かる」

「まてエミル! 何もここに来る人が良い人ばかりとは限らない」


 何やらほっとした様子の声色で、少女がはしゃいでいたが。

 ジャックと呼ばれた人間に、注意されていた。

 本人は小声のつもりかもしれないが、耳はかなり良い方なのでよく聞こえる。

 そして、残念なことに私たちは人ではない。


 横で仲間のエルが反応していたが、どうやらあちら側にもエルという人間がいるらしい。

 人もゴブリンもネーミングセンスというのは、さほど大差ないようだ。

 ロードの与えてくれた名前に比べると、どうしてもちょっと弱く感じてしまうが。

 どうしたものかと考えていると、相手側から緊迫した様子が感じ取れた。 

 すぐに緊張と警戒心を感じる。


「違う! あれは人じゃない!」

「ゴ……ゴブリン……ゴブリン? えっ? ゴブリン?」

「くそっ、なんでセーフルームにゴブリンが入って……」


 まあ、見られたら簡単にバレるか。

 俺やエルは肌の色が通常とは違うが、他の3体は緑色だからな。

 仕方ない。

 中に入って感じられるようになった気配は4つある。

 ここには4人の人間がいるはずなのだが、声は3人分しか聞こえない。

 あとの一人は息もか細く、もうじき死んでしまうのだろうことは分かる。

 思わず、仲間たちの方を見てしまった。


「ここに、そんな脅威となる魔物がいたか?」

「いや? 普段森で狩っているのに毛が生えた程度かと」

「うちらには、毛が生えてないけどね! あははははは!」


 キノコマル、少し黙れ。

 こいつは空気を読めないことが多々あるが、そこをロードが気に入ってしまったので強く注意ができなくなってしまった。

 困った奴というのが、集落での共通認識だ。


「そこの人間さん? けが人がいるのでしょう?」

 

 エルがリーダーの俺に何も確認せずに、人の連中に声を掛けた。

 リーダーを任せられた身として彼女の行動に思うところはあるが、相手側のけが人が同じ名前だと知って彼女も彼女でまた何か思うところがあったのだろう。

 本気の厄介事が舞い込んできたようだ。


「ゴブリンが人の言葉を喋ってる」

「でか、本当にゴブリンなのか?」

「その、顔が……なんというか、私の知ってるそれと違うというか」


 何やら相手も困惑している様子だが、エルは気にした様子もなく近づいていく。

 うーん、不用心と思わなくもないが、相手を見る限りまだ若いようだし。

 負ける気はしない。


「治してあげましょうか?」


 まあ……相手が受け入れないだろうけど。

 勝手に治して、無視して次の部屋に入った方が良いと思うが。

 はてさて、相手はどういう行動に出るかな?

 出方を見て、うご……

 キノコマル?

 何をしてるのかな?

 ネムリ茸の粉とか取り出して。

 この狭い部屋でバラまいたら、俺たちにも影響が出ると思うんだが?


「えいっ!」


 やりやがった、この馬鹿!

 まあ、俺もエルも耐性持ちだから効かないけど、お前は耐性もってないだろう!


「どうせ、ゴブリンの話なんか聞かないっすよ。取り合えずうるさそうなやつらは眠らせたんで、いまのうちに治しちゃ……zzz」


 馬鹿野郎! 

 お前が起きるまで、俺たちも動けなくなったじゃねーか!

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